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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
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第八十二話 ―後でちゃんとお叱りを受けるよ……―

第八十二話です。


タイトルの通り、後日お説教確定なことをします。

(やばっ――)


 そう思った瞬間にはあたしの身体は動いていた。

 斜め上から振り下ろされてくる左腕の爪を右手に持った短剣を逆手に持ち替えて逸らし、そのまま下に向かって行くソイツの左手の甲に向けて振り下ろす。

 そして手の甲に短剣を突き刺して地面に縫い付けながら、軽く飛んで全力でソイツの顎に蹴りを叩き込むと――バキッ――と音が鳴った。散々顎を殴り蹴りを叩き込んだことで骨に罅が入っていて、今の蹴りで顎が砕けたんだろう。これで倒せるわけでは無いけど、かなり動きは鈍るはずだ。


「ここで少し大人しくしてろ!!」


 あたしは最後にそう言いながら着地と同時にソイツの手の甲と地面を縫い付けた短剣に蹴って、更に強くソイツの左手と地面を強く縫い付ける。右腕はあたしがつけた切り傷だらけで、砕けた顎の痛みと脳の揺れもあって、あたしが突き刺した短剣はそう簡単には抜けない。

 その隙にあたしはライラとガーナのもとに向かった。


「アナタね……!」

「後でちゃんと聞くから今は来て!」


 あたしは起こった様子のガーナを無視してライラの首元からガーナを引っぺがして、自分の首元に巻き付ける。

 流石のガーナもヤツを放置するのはまずいのは分かっているのか、しぶしぶながらもあたしの首に巻き付いてくれる。


「ライラごめんね、予備の剣借りていくね」

「えっ、”般若殿“!?」


 あたしがライラの腰に挿さっている二本の剣のうち一本を抜きながらそう伝えると、彼女は驚いたように声をあげる。

 他の国の騎士とかは会ったことが無いから分からないけど、ラプラド王国の騎士は氾濫の時は常に二本の剣を携えている。過去に何度か魔物を斬った時に骨に当たって入れたり、魔物にかみ砕かれたりしたことがあって、危うく魔物に殺されそうになってしまった騎士がいたんだとか。魔法で対処も出来るけど、全員が全員攻撃できる魔法の適性っていうわけでも無いから。

 そういう理由で、ガレリア騎士団長が予備として剣を二本持っておくようにって決めたらしい。


 因みにそう決めたガレリア騎士団長や、”修羅“であるあたし達は特に予備は持っていない。チアーラさんとガレリア騎士団長は最前線で中級以上の魔物を相手にするのに邪魔になるし、あたし達も常に移動し続けるのに邪魔になるから。何よりあたし達なら中級の魔物くらいなら素手でも倒せるし。


「来てほしくはなかったけど、これは二人を怒れないな……これでアイツを仕留められる」


 コイツを倒すための一番の方法はガーナがいないとできないし、その方法のためにあたしの短剣よりもリーチの長い武器が欲しかった。


――ガァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!


 と、そう呟いたところで地面から短剣が抜けソイツが咆哮をあげたが……あたしも同時に行動を開始していた。


「フッ――【結界】――セィッ!」


 それと同時にあたしは立ち上がったばかりのソイツに一息で接近して、ジャンプと足場として生成した【結界】を使って、頭上を通りすぎながらソイツの両肩を深く斬りつける。

 腕の腱を斬られたソイツの両腕は力なく垂れ下がり、自由に動かせなくなった。

 うん、やっぱり短剣よりも剣の方が力を乗せやすい。あたしの身体の大きさからすると剣はあまり得意じゃないんだけど……短剣に比べて遠心力で力が加わるのはありがたい。


「ぬんっ――シッ!」


 ソイツの背後に着地したあたしは、順手に持っていた剣を逆手に持ち替えて、振り返りざまに蹴ってきた左脚を弾いて体勢を崩したところを再び剣を順手に持ち替え、身体を捻りながら剣を振り左足の膝から下を斬り落とし、その勢いのまま右足の膝裏と大腿を斬りつける。

 そうして片足では立つことができなくなったソイツは地面に倒れていく。


「【結界】――ちょっと飛んどけ!!!」


 ソイツが倒れるの同時にあたしは【結界】を使って高くジャンプ――大体ソイツ四人分くらいの高さ――し、一番高い結界にソイツの右足に巻き付けている鉄糸をひっかる。

 そして、その結界から飛びおりながら鉄糸を全力で引くと、ソイツは鉄糸に引っ張られて言葉通り上空へと飛んでいく。

 あたしは真上に飛んでいくソイツを見ながら、剣を上に向けて触れるように下段に構えて、その剣を持っている右手の下に掌を下に向けて構える。


「何をして……」

「ねぇ”白蛇“、悪いけど少し見ててくれる?」

「アナタまさか……分かったわよ、後で皆に起こられるのは覚悟しなさいよね……!」


 ガーナもあたしがやろうとしていることに気付いたらしく、あたしの手元に視線を向ける。

 あたしもガーナに意識を向けると、あたしの手元と左の掌に球体の魔力が溜まっていっているのが、ガーナの視界を通して見える――前に爆発させた時よりも、大きな球体の魔力が。


 あたしがやろうとしているのは、腕力だけの時よりも力と勢いをつけてアイツの首を斬り落とすこと。

 じゃあなんで左手に魔力が溜まっているのか……それは砦に来る前に起こした魔力の爆発で勢いをつけるためだ。前に訓練中にやった時は身体が二度三度転がる程度だったけど、あの時よりも体積も込める魔力量も多くすれば、大きな爆発が起きて勢いもつけられるんじゃないかな、というわけだ――もちろん、あの時の爆発があたしが制御できる魔力の最大量を超えて起きたものだったら……失敗に終わってしまうのだが……。


「早く、早く……!」


 既に落下を初めているソイツを見ながら、ガーナの視界を通して左手に溜まっていく魔力を視て、あたしは焦る。手元の魔力が歪んでいないからだ。初めて爆発させた時、爆発する直前は魔力が形を留められなくなって歪んでいったが、今のところその様子はない。

 つまり爆発は制御できる最大量ではなく、特定の範囲に留められる魔力の最大量を超えると発生することが分かる――んだけど……前よりも大きくしているから、どれだけ込めれば爆発するのか、全く分からない。

 それに気づいて焦りが加速してしまいそうになる。


「げっ……」


 しかも、更に焦りが加速してしまうような光景を見て、そんな声を零してしまった。

 さっきアイツを上空に飛ばした時、首を狙うために場所を調整していて、さっき両腕両足を斬りつけたり切り落としたのも空中で少しでもあいつが動いて狙いがズレないようにするためだった。

 しかしそれでも胴や首は動かせることはできるからか、ソイツは空中でもがいて少しずつズレてきてしまっていたのだ。


「まず――うぇっ?」


 そう思った瞬間、何かがソイツの頭を掠めたのが見えた。よく見てみると何処からか飛んできた矢だった。

 いったい何が?と思ったが、それによってソイツの体勢が少し調整されたうえ、それまでのダメージもあって少しの間動きを止めた。できればそのまま気を失って欲しかったけどそう上手くはいかないようだ。とはいえ、その少しの調整と少しの間でも動きが止まったおかげで狙いがズレることはなくなった。

 誰が矢を放ったのかは気になるところだけど、今は考えている暇はない。ついに、掌に集まっている魔力の球体が、あの時と同じように形が崩れ始めたからだ。


「間に合った……ガーナは危ないから隠れててね」

「っ……分かったわよ」


 今、あたしの左手に溜まっている形の歪んだ魔力は限界ギリギリだろう。ここまで溜まれば後は一人でも大丈夫。溜めている途中の魔力は把握しずらいのだが、今みたいに魔力が歪み始めると体外の魔力でも把握できるようなのだ――今、初めて知ったけどね……。


 そしてすぐそこまで落下してきているソイツの姿を確認したあたしは、最後の魔力を左手の魔力の塊に注いだ。

 直後、左手に集めていた魔力が爆発し――ドゥッ!!――という音ともに体全体に衝撃が襲ってくる。


「ぬぐっ……!」


 魔力の爆発によって、袖を捲ってむき出しになっていた両方の前腕から――ブシュッ――と血が吹き出し、胸あたりからも嫌な音がするが、それを気合で耐えて、落下してきたソイツの首に目掛けて剣を振るう。


「オラァッ!!!」


 剣が首に触れた瞬間、鱗による抵抗を感じたが、先程よりも魔力の爆発によって力も勢いも強くなった剣は、ヤツの落下の勢いとヤツ地震の体重も加わったことて、鱗に弾かれることはなく今度こそ、そのまま首を斬り落とした。

 母さんを殺した男を殺して以来、あたしが初めて人を殺した瞬間だった。

無事アーシスは薬で変異してしまった元ハンターを仕留めることでできました。

チアーラにひとりの時は禁止と言われていた爆発を起こして、後でお説教確定となりました。


★次回第八十三話は「05/20」を予定しております。

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