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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
84/103

第八十一話 ―入ればこっちのもの……って程簡単じゃない―

第八十一話です。


5/5に投稿できずにすみません、お待たせいたしました。

「フッ――オラァッ!」

『ガッ……!?』


 直後、ソイツの懐に潜り込んだあたしがその腹に蹴りを叩き込むと、その衝撃でヤツは短い呻き声をあげて後方へと転がっていく。さっきまでと同じように大したダメージは入ったようには見えない。これを繰り返しているだけじゃさっきまでの何も変わらない。

 だからあたしは確実にヤツを仕留めるために動きを続ける。


「ぬんっ!」

『グゥッ!?』


 蹴りを叩き込んだ脚であたしの腰からヤツの脚に巻き付いている鉄糸を踏みつけて、ソイツが転がっていく勢いを止める。そして鉄糸を右腕に巻き付けながら思いっきり引き寄せる。

 それによってソイツは鉄糸が巻き付いている脚からこっちに突っ込んでくる。蹴りのように足の裏があたしに向くように。それに合わせてあたしは右腕から鉄糸を外しながら左腕の位置を調整して、左肩で飛んでくるソイツの脚を受け止めると――ゴキンッ――という音と共に左肩に痛みが走った。


「っ――はい、った……!」


 あたしがヤツを引っ張ったのは左肩の脱臼を治すためだ。無理やり治したからまだ痛みはあるけど、ともかく左肩は治った。

 あたしにぶつかったことで勢いが止まったソイツはうつ伏せでそのまま地面に落ちていく。それと同時にあたしは右腕で腰に挿している短剣を逆手で抜き、地面に落ちると同時にヤツの機動力を奪うために右足首、左足首を斬りつけ、続けて右の膝裏を斬りつけ――


――ガァァッ!!


「あぶなっ――ようやくあたしを見たな……!」


 ――ようとしたところで、ソイツは仰向けになりながらあたしを退けようと腕を振るう。

 その腕を避けてソイツを見た瞬間、ソイツが狙いをあたしに変えたと確信した。今までどれだけ殴ろうが、どれだけ蹴ろうがカリナさんしか追っていなかった視線が、ようやくあたしに向いて、牙をむき出しに威嚇のように唸りだしたからだ。


「流石にさっきのじゃダメだったか……」


 ソイツが立ち上がるのを見てあたしはそう呟いた。コイツが立ち上がれないよう脚の腱を斬ろうと足首を斬ったんだけど……ただでさえ異常に頑丈になっているうえに、結構無理な体勢だったし身体中の痛みで力が入りきらなかったのもあって、腱を斬りきれなかったらしい。

 カリナさんが狙われなくなっただけ良かったと思うべきか……もちろん、コイツの息の根を止めるまでは手放しで安心はできないけどね。


「一撃じゃダメだったのは悔しいけど……まぁ、少なからず動きは鈍ってるっぽいし。腱が断ち切れるまで何度も斬れば良いだけか。それならあたしの得意分野だし――ね!」


 あたしは左手でもう一本の短剣を抜きながらもう一度ソイツに接近し、スライディングでソイツの脚の間を通り抜ける。そしてすれ違いざまに脚――足首と左右の膝の裏――を三度斬りつけ傷をつける。

 しかしやはり腱を斬ることは叶わなかった。あたしも全力で斬りつけているが、ソイツの皮膚も筋肉も硬く、更にはここまでで身体中に打ち身だらけなうえ左肩もまだ痛む。だから動きながらだと力が入りきらないのだ。


――ガァァッ!


「やっぱり早いなぁ!?」


 脚を斬りつけた直後、目の前に脚が迫ってくるのが見えた。振り向きざまに蹴ろうとしたようだ。

 あたしはそれをジャンプして避けて、ダメもとで目の前のソイツの首を右手に握った短剣で斬りつけるが、やはり鱗に阻まれ首を斬ることはできない。森の時と同じように短剣が弾かれてしまった。


「ダメか――げっ、まずっ……」


 短剣が弾かれるのと同時にソイツはあたしに向けた腕を振って来ていた。

 ジャンプして空中にいる今の状態じゃ普通は避けることはできない。当たっても死ぬことはないだろうが、コイツは前に”羅刹“が倒したヤツよりも力が強く、殴られれば骨が何本か折れてしまいそうだ。


「【結界】――ぬんっ!」


 ()()()避けられないだけで、あたしの場合は【結界】がある。だからあたしは、頭上に生成した結界に左手をかけて片手懸垂の要領で、腕の力だけで身体を持ち上げてその振られた腕を避ける。


「首がダメなら、魔熊(まぐ)と同じようにやるしかないか……!」


 あたしが呟いた魔熊とは、修羅に所属する前に試験として森の中に入った時に戦った上級の魔熊のことだ。あの時も皮が厚くて目を刺したのだ――目を刺せば、角度にもよるが脳も刺すことができる。脳を刺せば流石にコイツも無事ではいられないだろうから。


「【結界解除】……シッ!」


 振った腕があたしの真下を通過するのと同時に、ぶら下がっていた【結界】を解除してソイツの右目に向けて短剣を振るう――が、ソイツは視界に短剣が映った瞬間、無理やり腕を振り上げて短剣を弾こうとしてくる。

 それに気付いた瞬間、あたしは狙いを変えて、ソイツの振り上げた腕を斬りつけていく。手首から肘周り、そして肩回りまで、正確に刃を通らせていく。

 目の前の敵を確実に仕留めるために。その準備のために。


――ガァァァァァァッ!!!


「っこれもだめなのか……!」


 あたしが斬りつけたことで、動かなくなった――とはいかないまでも、それまでと比べようがない程に右腕の反応が鈍くなったと気付いたソイツは、怒り狂ったように腕や脚を振り回した。

 あたしはそれを避けながら、腕や脚、胴、刃の通る箇所をひたすら斬り続ける。


 やっていることは魔物の森で戦った上級の魔熊相手と同じ。避けて斬ってを繰り返す。コイツの速度はあの魔熊よりも速いが、あたしも前よりも鍛えられてるからね。何より、コイツの腕力じゃ掠っただけでも軽く抉れそうだからね、そうならないように集中していることが大きい。

 肩を外されて、更には殴り飛ばされたんだから、そりゃ集中するのは当たり前ではあるけど。


「そろそろだと思うけど、やっぱ一人だとなぁ……”白蛇(はくじゃ)“も来てもらうべきだった……!」


 あたしはコイツを仕留めるために考えていることがあるんだけど、正直一人ではそれができるか分からない。ガーナがいればほぼ確実にできるんだろうけど、おいてきちゃったからなぁ……。

 流石に一人でやるには()()()()()から。


『やっと追いつきました……!』

『アナタねワタシを置いていくのやめなさいよ!』


 そんな声が遠くの方から聞こえてきた。あたしが置いて出てきたライラとその首元に巻き付いたガーナだ。ガーナがいてくれれば……そう思ったのは間違いないけど、正直あまり来てほしくはなかった。

 今ではコイツはあたしを狙っているけど、それまで執拗なくらいにカリナさんを狙っていた。その理由も分からない以上、今度は突然ガーナやライラを狙ってしまうかもしれないから。

 だからあたしは、つい声を荒げてしまった。


「危ないって言ったのに何で来たの!?」

『ちょっと、いいからアナタは集中しなさい!!』


 ガーナとライラに声をかけた時に集中が削がれてしまったらしい。

 ガーナからそう返ってきた直後には、目の前にソイツの爪が迫って来ていた。

無理やり脱臼した肩を入れて両腕使えるようになりましたが、鱗が硬いうえに目を狙っても反応されてどうしようか考えるアーシス。

ライラとガーナが追いかけてきて焦ったところをやられそうになるところで今回は終わりです。


……今思ったんだけどアーシスって殴り飛ばされすぎてない……?

上級の魔熊、ブラッドが倒した男(薬で変質)、森に逃げた元ハンター(薬で変質)、既に3回殴り飛ばされてるんだけど……。


次話につきまして05/15を予定しておりますが、投稿が遅れてしまう可能性がございます。

可能な限り予定通りに投稿できるように尽力いたします。

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