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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
83/103

第八十話 ―人間なんだよ―

第八十話です。


なんとか間に合いました...誤字ありましたらすみません...!

 あたしが見つけたのは、ソイツが二人のハンターを襲おうとしているところだった。

 遠目でも分かった、アイツに襲われそうになっているのは、あたしが氾濫前に話していたカリナさんとスモーカーのおじさんだ。そして彼女らを”狐“たちが、二人は庇うように、一人は今にも振り下ろされようとしているソイツの腕を受け止めるために。


「あれはまずいな……!」


 そう呟いた時にはあたしは既に加速していた。今までは左肩が痛いから少し抑えていたけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。全速力で向かえば、まだ間に合う。

 そしてソイツの腕が振り下ろされた瞬間、あたしは受け止めようとしている”狐“を庇うようにソイツとの間に入り込んだ。


「フッ!――ッオラァ!」


 そして、振り下ろされた腕を横から蹴って、ソイツの体勢を崩し――続けてソイツの顎を殴って鳩尾にも蹴りを叩き込むと、後ろに転がっていく。

 コイツは今はこんな姿だけど、元は人間だ。だから顎と鳩尾を叩けばしばらく動けなくなると思ったんだけど……そんな簡単にはいかないらしい。痛みは感じたみたいだけどそれだけで、ソイツは直ぐに立ち上がり、再びこちらに向かってきた。


「ちょっと離れてろ!――皆、怪我は!?」

「我々も二人のハンターも負傷はしていません!」


 ソイツをもう一度蹴り飛ばしながら背後にいる”狐“に聞くと、すぐにそう返ってくる。

 怪我がないのは安心だけど……”狐“達やスモーカーのおじさんは自分で動けるだろうが、カリナさんは難しいだろう。一瞬見ただけだけど、彼女が自身を抱きしめるようにして震えているのが分かった。

 彼女には過去に何かしらのトラウマがあるのは氾濫前に話して分かっている。たぶん、アイツに襲われてそのトラウマを思い出してしまったんだろう。


 こんな状況になっているのはあたしが森でアイツを仕留められなかったからだ。絶対に守ると言ったのに彼女を危険に晒してしまったことに、自分で自分に腹が立ってくる……!


「”般若様“!!」


 あたしを呼ぶ”狐“の声にハッとする。さっき蹴り飛ばしたのに既に立ち上がってまたこっちに向かってくる。考え込んでいる暇も反省している暇もないらしい。

 あたしは直ぐに思考を切り替えて、ソイツの相手をしようとするが……あろうことかソイツは()()()()()()()()()()()、あたしの背後にいるカリナさんとスモーカーのおじさんに向かおうとした。


「っ!?行かせるか!――”狐“は二人を抱えて退避!」

「「承知しました!」」

「うおっ!?」「きゃっ!?」


 あたしはソイツの顔面に蹴りを叩き込みながらそう指示を出す。”狐“もあたしの言葉に直ぐに反応して即座にその場を離れた。

 しかし急な指示でカリナさんとスモーカーのおじさんを抱えた”狐“たちは別々の方向に下がってしまい――ソイツはあたしの蹴りで一瞬怯みはしていたが……それだけで、カリナさんを抱えて下がった”狐“の方へと向かって行く。

 狙いはカリナさんか……顔面に一撃入れたのになんて執着だ……!?


「っ……”狐“はカリナさんを連れて回避を優先――彼女をソイツに触れさせないで!」

「ハッ!」


 狙いがカリナさんだと分かった以上、彼女を守ることに集中すれば良い。そのカリナさんが動けない状態なのは問題ではあるけど……まぁ、それは”狐“に任せれば問題にはならないだろう。


「フッ!――もう抜かせない……!」


 あたしは直ぐにソイツのもとに向かい、ソイツの顔面、そして鳩尾にもう一度に蹴りを叩き込む。

 流石に蹴り飛ばすまではいかなかったが……一瞬ひるんだ隙に、鉄糸をソイツの脚に巻き付ける――元になった人の違いなのか、森で魔物を喰らって変質したからなのか、どちらかは分からないけどコイツは前に”羅刹“が倒したやつよりも力が強い。

 それでもしっかり警戒していればあたしの腕力もコイツに負けてはいない。こうしておけば、あたしがコイツに抜かれることはない。抜かれそうになったら鉄糸を引っ張れば良い。


「オラァァ!!――おじさんともう一人の”狐“は周囲の警戒を!こっちに魔物を寄せ付けないように、向かってくる魔物は全て殲滅して!!」

「承知しました!」

「っ……!」


 ソイツに巻き付けた鉄糸を引っ張って思い切り投げて地面にたたきつけながら、スモーカーのおじさんを抱えていた”狐“とおじさん本人に指示を出す。

 しかし彼はカリナさんのことが気にかかるのか、逡巡しているようだった。


「ふぬっ――カリナさんのことはあたしに任せて。大丈夫、もうヤツは近づけさせないから」

「……わかった、頼む」


 ソイツは変わらずカリナさんに向かおうとしているが……あたしが脚に巻き付けた鉄糸を引っ張っているせいでそれ以上近づくことはできない。それを見せながらおじさんに声をかけることで、ようやく彼も少なからず納得してくれたようだ。

 その様子を確認したあたしは、続けて残る一人の”狐“に指示を出す。


「残りの一人は本来の役目に戻って――あたし達が抜けてる分頼んだよ!」

「お任せください!」


――ガァァァ!!!


「いい加減にしろ!」  


 最後の”狐“が行動を開始したのを見送り、未だにカリナさんを狙おうとしているソイツが離れないように鉄糸で引き寄せながら、顎、鳩尾、腹――少しでもひるむ箇所をひたすら殴り、蹴り続ける。しかしそこまでやっても全く止まる素振りも気絶するような素振りを見せない。

 ソイツはずっと、カリナさんに向かい続け、あたしもずっと殴って蹴ってそれを阻止し続ける。


 彼女を守るためにもコイツは仕留めなきゃいけない……んだけど、正直あたしには少し思うところが踏み切れない。コイツは今はこんな姿で頑丈な身体になっているけど元は人間で、あたしが殴り蹴るたびに、手で押さえたり、顔を歪めたり、呻き声をあげたり――痛みを感じているのが分かる。


(どんな姿だとしても、目の前にいるのは人間なんだ……)


 コイツを止めるには、カリナさんを守るには、コイツを――()()()を殺すしかないんだって、分かってしまう。

 あたしがコイツとかソイツとか言ってるのは、それを考えないようにするためだった。森で斬りかかった時は――結局、鱗のようなもので防がれたけど――本能的にまずいと思って、斬りつけただけだ。


(散々魔物を殺しておいて、何を言ってるんだって自分でも思うよ……)


 このままコイツを留め続ければ、きっとそのうち兄ちゃんかチアーラさんが来てくれる。

 でも二人が来るのが遅かったら?あたしの体力も無限じゃない。何時間もこんな風に動き続けてれば疲労も溜まる。もしあたしが動けなくなればそれこカリナさんを守る人がいなくなってしまう。

 二人がある程度速くこっちに来れることになったとしても、それまでずっとカリナさんを危険に晒し、恐怖を与え続けることになってしまう。


「何をやってるんだあたしは……」


 ふとカリナさんと目が合ったあたしはそう言葉を漏らした。

 彼女が壊れてしまいそうなほどに怯えている彼女を見て、昔の自分――恐怖に歪める村の人達や母さんの表情を前に何もできなかった、あの頃を思い出してしまったから……。


 氾濫前にあたしが彼女に言ったのは彼女の身を守るってだけじゃない、彼女の心も含めて守るって意味だ。それなのに彼女が狙われてしまっているこの状況を続けることは、仮に彼女の身体に傷ひとつ付けさせなかったとしても……彼女を見捨てることに変わりない、と思ってる。

 そんなことをするためにあたしは”修羅“の一員になったわけじゃない。手の届く限り見捨てないために”修羅“の一員になったんだ。

 そこまで考えてようやくあたしは、覚悟を決めて息を吐いた。


「ここからは”修羅“の時間だ。もう、お前の好きに暴れられると思うなよ……!」


 初めて自分の意思で――怒りでも恨みでもなく――殺意を込めた視線を向け、目の前の敵を殺すための構えを取った。

体調が芳しくないため、次話につきましては05/10を予定しております。

いつも読んでいただいている皆様には申し訳ございませんが、投稿までしばらくお待ちいただければと思います。

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