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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
79/103

第七十六話 ―油断は禁物だよ!―

第七十六話です。


いつもより投稿の時間が遅くなり申し訳ございません。

「――せぇい!!」


 言い合っている三人のハンターに怒鳴りつけて割って入りながら、槍を思い切り振りかぶって囲んでいる魔猿の内の三体を上に叩き上げる。

 三体の魔猿は抵抗できずに宙に放りだされる。


「ふっ!」


 そのまま、予め三つの鉄糸(てっし)に巻き付けていた苦無を三本取り出し、宙に浮いた三体の魔猿の頭に投げつける。苦無が頭に突き刺さった三体の魔猿は絶命し、力なく地面に落下した。

 残り五体!


――ギャギャッ!!!


「ま、そう来るよね――はっ!」


 あたしが三体の魔猿を倒した姿を見た残りの魔猿達が、一斉にあたしに狙いを定めて襲い掛かってくる――が、下級の魔物だから行動に統制がなく、一斉にとは言っても結構バラバラだ。

 だから、まず向かってきた一体の魔猿を槍で斬りつけ、魔猿は力なく倒れていく。

 残りの四体はまだ少し距離があるから、先程投げた苦無を、鉄糸を巻き付ける筒のボタンを押して三本とも回収しておく。氾濫中じゃゆっくり回収してる暇はないからね。


「ここは魔猿が移動するための木が無いから行動は制限できるけど、小回りが利くのは変わらない――よっ、ほっ、やっ!」


 あたしは突然あたしが現れたことに驚いて固まっている三人のハンターにそう声をかける。

 続けて三体の魔猿が迫ってくるのを視界に収める。もう一体はまだ距離がある。

 まず最初の一体を身体をひねって槍で斬りつけて倒したけど、二体の魔猿は槍で倒すには流石に近すぎる。だからあたしは、振った槍をそのまま地面に突き刺しそれを支えにして身体を浮かせ、続けて迫って来る2体の魔猿の首を思い切り蹴ってその首を折る。

 そうして三体の魔猿もその場の地面に倒れていく。残り1体!


「団長さんにも油断はするなって言われたでしょ!――ふっ!」


 あたしはハンター達への言葉を続けながら、地面に着地する。そして最後の一体が迫った来るのを確認して槍を引き抜くと同時に切り上げ、最後の魔猿を倒しきる。

 因みに刺さないのは、抜く時が隙になるからだ。斬りつけるだけなら直ぐに次の行動に繋げられる。


「いくら下級と言っても凶暴な魔物なことに変わりはないよ。それなのに油断した上に言い合うなんて何をしてるの!?」


 ハンター達を囲んでいた八体の魔猿を倒し終わったあたしは彼らにそう伝える。

 自分でも少し言い方がきつくなったのは分かっているけど、あたしは三体に対して――特に言い合っていた二体の男性ハンターに対して怒っている。


「あなたたちが怪我をすれば他の人の負担が増えて、今度はその人たちが怪我をする危険が上がるんだよ。あなた達の命だけじゃなくて、この場にいる全ての騎士とハンターの命にも関わることって、最初にガレリア騎士団長から言われたはずだよね……もう忘れたの!?」


 あたしがこのハンター達に怒っているのは、自分達だけじゃなくて周りの全ての人にも危険が及ぶかもしれないからだ。

 あたしが彼らにそう言うも、三人のハンターからの返事はなくその場た立ち尽くしたままだ。

 こうして話している間にも魔物は迫って来ている。今はあたしが魔物を倒してるけど、警戒も対処もしないのはおかしすぎる……!

 もしかして――


「怪我でもしたの!?それなら早く負傷者を連れて下がって!!」

「い、いや……大丈夫だ!」


 もしかして三人とも負傷してしまったのかと思ったけど、特に怪我は無いようだ。確か彼らは今回が初めての参加だったはず。想像以上の魔物の数と囲まれたので混乱しちゃっていたのかもしれない。

 あたしが彼らに問いかけたことで、唖然としていた三人のハンターはようやく魔物の警戒と対処を再開した。


「囲まれても慌てないで、落ち着いて対処すれば大丈夫だから!」

「あ、ああ……」

「すまない……!」

「あ、ありがとうございます!」


 彼らもさっきは混乱しちゃったみたいだけど、銀等級(シルバーランク)のハンターだ。落ち着けば囲まれても下級の魔物なら対処はできるはず。無傷でとはいかなくても、動けなくなるような負傷はしないだろう。

 あたしが三人に伝えると、彼らも思いだしたかのように、油断なく魔物に向き直った。

 この様子ならもう大丈夫かな。


「じゃあ、あたしはもう行くけど、油断は禁物だからね!」

「ああ、助かった!」


 あたしは三人にそう言い、自分の頭上に結界を生成してその上に飛び乗る。そして他に危険に陥った騎士やハンターがいないか探すために、再び周囲を見渡す。

 ってああそうだ、もう一つ言っておかないと。


「今みたいに危険だと思ったら照明弾を使うようにね。そしたらあたしが、すぐに助けに向かうから!

――む、あそこちょっと魔物の数多いね」


 最後に彼らにそう言い残し、その場を後にして魔物の数が多くなっている場所に向かう。


 そういえば、今までの氾濫だと初めて参加するハンターの負傷が多いってチアーラさんから聞いたっけ。

 さっき助けた三人のほかにも初めて氾濫に参加するハンターが数人いる。あたしも魔物を倒しながら、初めて参加するハンターに注意しておいた方が良いかもしれない。初めて参加するハンターの顔も配置も覚えてて良かったよ……!



 あたしはその後も魔物を倒し、初めて参加したハンターを助け、また移動しながら魔物を倒して――それを繰り替えし、日が暮れ始めた頃にはあたしとカイナート兄ちゃんはモルガナ姉ちゃんと、チアーラさんはブラッドのおっちゃんと、狐達もそれぞれ交代した。

 交代したあたし達は一度”修羅“用の天幕戻ってきて、装備の点検をしている。


「それで、今のところ重傷者はいないのよね?」

「軽傷者は数人いますが氾濫の対処に支障がある者はいないみたいです」


 そう話しているのはチアーラさんとカイナート兄ちゃん。氾濫が始まって今までの被害状況を確認している。切り傷程度の怪我をした人はいるみたいだけど、動かない程の怪我や命に係わるような被害を受けた人はいないみたいだ。


「軽傷を負った者も魔物の数が多かったハンターが殆どで、初めて参加するハンターには負傷者が殆どいないようです」

「あら、いつもなら初めて参加するハンターの負傷が多かったと思うけれど……」

「それはアーシスちゃんのおかげですね」

「んむぇ――あたし?」


 あたしは二人の話を聞いてるだけだったから、急に自分の名前が出てびっくりした。

 でもなんでここであたし?単純に今年はそうだったってだけじゃないの?


「アーシスちゃんのおかげで僕や"狐"達が注意する範囲が狭くなって動きやすくなったからね」


 ああなるほど。

 今まで兄ちゃんと”狐“達が担当してた範囲の一部をあたしが担当することになったことで、各々が担当する範囲が狭くなった。更にそのおかげで、騎士やハンターをより注意深く見ることができるようになって、助けに入るのが早くなったってことか。


「でも、アーシスちゃんが初めて参加するハンターを注意して見てくれたから、っていうのが一番だよ」

「そうだったのね、偉いわねアーシス」


 兄ちゃんは笑顔であたしの頭を撫でながらそう言うと、チアーラさんも続けてあたしの頭を撫でてくる。褒められてるのは嬉しいんだけど”狐“の皆もいるから恥ずかしい……。

 あたしも十八歳になって成人したのに皆からの子供扱いが無くならないんだよね。ガレリア騎士団長が前に"親にとっては子供はいつまで経っても子供なんだよ"って言ってたけど、似たような感じなのかなぁ……。

 ってあれ?


「なんであたしが注意して見てたって、兄ちゃんが知ってるの?」

「アーシスちゃんに助けられたハンターが言ってたからだよ『小さい鬼っ娘に助けられた』って」

「そうなん――なんて!?」


 一瞬聞き流しそうになったけど何”小さい鬼っ娘“って!?

 謎の呼び名が気になってあたしが聞き返してみても、兄ちゃんはただ優しく笑ってるだけ。その笑顔だけで教える気が無いって察した。


「さぁ、私たちもそろそろ休みましょう。明日に疲れを残さないようにね?」

「そうですね」

「……はーい」


 あたしが問いただすのを諦めたのを察したのか、チアーラさんがそう言葉を発した。

 ハンターからのあたしの呼び名は解せないけど、まだ二日も残ってるからチアーラさんの言うように休まないといけないのも事実。

 あたしは小さくため息を吐きつつも、仮眠をとるために寝床に向かった。

次話につきまして04/15を予定しておりますが、近ごろ少々忙しく投稿が遅れてしまう可能性がございます。

可能な限り予定通りに投稿できるように尽力いたします。

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