第七十四話 ―あたしの役目―
第七十四話目です。
前話読んでいない方はそちらからどうぞ。
ガレリア騎士団長の挨拶や指示出しが終わり、昼間の担当となっている騎士やハンター達と共に配置についた。あたしは後方討伐で担当するのは西側全てだ。去年まではカイナート兄ちゃんが全域対応していたらしいから、負担が少しでも減らせると思うとちょっと嬉しい。
まだ日が昇ってないから空は暗いんだけど、辺りの地面には明りがついていて視界も良好だ。煙とか匂いがないから魔道具か何かかな。
「”般若殿“三日間よろしくお願いします」
「ライラさん、よろしくね」
氾濫の開始を待っていると一人の女性騎士が話しかけてきた。
この人はライラ。城の訓練場でガレリア騎士団長と訓練してる時に紹介された人なんだけど、騎士の中でも一番気さくに話しかけてくれる人なんだよね。二十歳とあたしとの歳も近いから”修羅“の皆以外だと一番話しやすい人で、あたしの数少ない――自分で言ってて悲しくなるけど――友達といえる人なんだよね。
騎士の人達共大体は知り合いだけど友達って言えるわけじゃないし、街の方にはあたしは全然知り合いすらいないからね。
「別にいつもみたいな口調で良いのに……」
「私は騎士ですから。周りの目もありますのでそういうわけにはいきませんよ」
むぅ……普段はもっと砕けた口調なのに、騎士として行動するときは絶対今みたいに丁寧な口調になる。ライラの言うようにここには騎士だけじゃなくてハンター達もいるから、騎士が砕けた口調を使うところを見られるのは良くないのは事実なんだよね。
あたしも周囲を気にしてライラさんって呼んでるから彼女のことを言えないしね。”修羅“の皆とは呼び方が変わるだけで普段と態度は変わらないから、口調を変えられるのって慣れてないんだよねぇ……
「あの”般若殿“……」
あたしが考え事をしてると、ライラが戸惑ったようにそう声を発した。その理由は周りのハンター達。こちらをじっと見てくる人もいれば、横目で盗み見るようにしている人もいる。悪意や敵意は感じはないんだけど、あたしもライラもそんな風に見られる覚えはない。周りの騎士に目を向けて見ても分からないと言いたげに首を横に振ってる。
「あー、多分この子のせいね……」
「え、”白蛇殿“それはどういう……?」
「この子、昨日ハンターの待機所に物資運ぶ時三箱くらいまとめて一人で運んでたのよ。携帯食料って言ったかしら、あれがぎっしり詰まった箱をね……」
確かに三箱まとめて運んだのは事実だけど、そんなに驚くことかなぁ?ちょっと重いけど全然運べない重さじゃないと思うんだけど。ガレリア騎士団長も三箱くらいは運べるだろうし、皆だったら倍くらいは余裕で運べると思う。うーん、別におかしなことはしてないはずだよね?
ほら、ライラや騎士の皆だって「そんなに驚くこと?いつもの事じゃない?」って顔してるよ。
「あのねぇ、手伝ってくれていたハンター達は二人で一箱だったのよ?それを子供にしか見えないアナタが一人で!しかも3箱もまとめて運んでたら!!誰だって驚くでしょ!!!」
「はっ――原因あたしじゃん!!」
「だからそう言ってるわよ!アナタ自分の感覚がおかしいこと自覚しなさいよ!?」
うん、原因あたしだった。ごめんって。そんなに睨まないで。あたしにとって一番身近なのが”修羅“の皆だから皆基準で考えちゃうんだもん。
ライラや他の騎士達も「はっ、そう言われれば……」って感じで頷いてるじゃん。あたしが感覚がおかしいのは自覚してるつもりなんだけどなぁ。って言うか騎士の皆だって似たような反応してるじゃん!
「嬢ちゃん注目されてるな」
「仕方ないですよ、ボクも昨日びっくりしましたし。スモーカーさんも唖然としてたじゃないですか」
あたしが心の中でガーナに抗議してると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。昨日色々あったスモーカーのおじさんとカリナさんの二人だ。昨日話したこともあって他のハンター達とは違って普通に接してくれる。カリナさんもあたしが脅したみたいになっちゃったけど気にしてないみたいで良かった。
「そういえば二人もここの担当だったね」
「前に出るのは”白金等級“以上のハンターだけで、”金等級“以下のハンターは全員後ろに配置されてるからな」
「前の方は魔物が素通りするって言っても、中級以上の魔物を引き付けないといけないからね」
「でも騎士団やハンター合わせても、確か二十五人ですよね、大丈夫なの?」
後方で魔物が進んでくるのを待っている騎士やハンターは大勢いるんだけど、カリナさんが言ったように前に出る人はちチアーラさんにブラッドのおっちゃん、ガレリア騎士団長に数人の騎士とハンターを含めても、昼間と夜間でそれぞれ二十五人と少ない。魔物一体相手だったら過剰戦力なんだけど今は氾濫。だから彼女の心配も最もだと思う。
「ガレリア騎士団長はお一人でも上級五体、他の前に出てる騎士もお一人で三人程度は相手にできます。”絢華殿“――”般若殿“達の隊長殿は上級十体でも余裕ですから。それにハンター達も過去に参加したことのある三人以上で組まれている”白金等級“ですから問題はありませんよ」
「まぁ、ハンター達が危なくなったら”絢華様“が何とかするだろうし」
「そうなんですね……」
ライラがカリナさんに説明すると周りの騎士達も強くうなずく。ついでになるけどあたしもフォローをいれたんだけど、カリナさんはまだ少し心配なようだ。
あたしや騎士の皆はチアーラさんや”修羅“の皆、それにガレリア騎士団長の実力を知っていて信頼してるからあまり心配はしてない。でも、それを知らない彼女にとってはやっぱり不安なんだろうね。
とは言っても緊張や不安とはなんか違うような……?
――ピピピッピピピッ
あたしがカリナさんの様子について考えていると、首から下げている通信用の魔道具から音が鳴った。彼女の様子が気になるけど、今は仕方ない。
「……ちょっとごめんね――はい」
《皆準備は良いかしら?》
ライラや、スモーカーのおじさんたちに断りを入れて通信の魔道具を起動し答えると、チアーラさんの声が聞こえてきた。
あたしはその言葉に"大丈夫"と答える。他の皆の声も魔道具を通して聞こえた。
《氾濫が始まったわ。これからは修羅の時間よ。思う存分――舞いなさい》
『『『『「了解」』』』』
チアーラさんさんの言葉にあたし含めて”修羅“の全員が答え、通信が終わった。騎士の方にもガレリア騎士団長から連絡があったようで、騎士から氾濫開始の連絡を聞いてハンター達も魔物を迎え撃つ準備をしていく。ある人は槍柵の後で弓を構え、ある人は剣や槍を構える。
そして事前に決められた三人一組になっていく――三人ならもし一人が負傷しても一人が負傷者を抱え、もう一人が魔物から二人を守ることができるからだ。
通信を終えて周りの人たちが準備を進めている姿を見て、あたしはもう一度カリナさんをもう一度見ると、準備を進めながらもその表情や身体が強張っているように見えた。
あたしがその様子を見ていると、カリナさんがポツリと言葉を漏らした。
「やっぱり、少し不安です…」
(あぁ、そっか……)
カリナさんのそう言葉で、ようやく彼女の気持ちが分かったような気がした。
この女性は一度ハンターを引退して協会の職員に転職、そしてまたハンターとして復帰している。”エミリア神聖法国“からの情報でも個人情報は細かいところまでは載っていない――主に経歴や実績、人柄に戦闘方法が主だ――だから一度ハンターを引退した理由までは分からなかった。
(多分この人、あたしと同じなんだ……)
彼女自身が魔物に怪我を負わされたか――いや、見たところ古傷とかはなさそう。なら、引退前に仲間のハンターが魔物に怪我を負わされたのか――いや、これも違いそう。そうなると、魔物によって亡くなったのか……多分、目の前で魔物に仲間が殺されてしまって、守れなかったことか、守られるだけだったか、それがトラウマになってしまったんじゃないかと思う。
いつも夢を見た時のあたしと、なんか似てるんだよね……。
(あたしも人のことを言えるほど吹っ切れたわけじゃないけど、少しくらいはカリナさんの心を軽くしてあげたいよね)
だからあたしはカリナさんの彼女の手をとり、一つずつ言葉を選びながら口を開いた。
怪力のせいで周りからチラチラ見られていたアーシスでした。
次回から氾濫始まります。
★次話は04/05投稿予定です。




