第七十二話 ―騎士団長ガレリア―
第七十二話目です。
タイトル通り今話はガレリア騎士団長視点でございます。
「おう、調子はどうだ?」
チアーラとの話を終えてハンターの所持品調査を行っているハンターの待機所に来たところで一人の騎士に話しかける。今のところ報告もねぇし、例の薬の発見も問題もないだろうがな。
「例の薬の所持者は今のところなく、問題ございません」
「わかった、続けろ。警戒は怠るなよ」
「はっ!」
問題ないのは予想通りだがあんなもんを持ってるヤツが何人もいてたまるか。とはいえまだ調査が終わったわけじゃねぇからな、警戒さえしてりゃもしもの時も対応できる。いや何もないに越したこたぁねぇがな。
とにかく、オレも調査の場に行くか。
『ハッハハハハハハハ――!!!!』
『全員退避しろ!ハンターもだ!!』
『団長呼んで来い!!』
と、オレも調査の場に行こうとしたところでそんな声が先の方から聞こえてきた。
あー、起きたわ問題……『ねぇよなぁ』って言った時とか、忙しい時に限って問題起こんの何なんだろうな――あぁ、こんな事言ってる場合じゃねぇわ、行かねぇと。
「団長!」
「聞こえてた。被害は?」
オレが急いでその声のする方向に向かっていくと、その方向から騎士が走ってきていた。さっきの声を聞いた限りだとオレを呼びに来たやつだろう。
立ち止まっている暇もないため、オレは騒ぎの現場に向かいながら話を聞くことにした。
「ハンター用の天幕が二張り壊されましたが、負傷者はおりません!
現在は騎士数名で抑えております!」
「了解だ――っと、あれか……」
その場に到着すると、一人の男が数人の騎士に襲い掛かっていた。騎士達は上手く連携し近づきすぎず離れすぎずの距離を保って対応している。盾や鎧には傷がついちゃいるが怪我は特にないようでひとまずは安心だな。
しかし……こりゃブラッドのやつからの報告、それに各国からの情報と同じだな。意味がわからねぇくらい筋肉が膨張して皮膚が爛れてやがる。ブラッドのやつが人型筋肉とか言ってたのも頷ける姿だ。
「よくやった、後は任せろ。お前らは休んどけ」
「だっ、団長!」「ありがとうございます!」
オレが男を抑えていた騎士達に声をかけると、安心したような顔をしてすぐにその場から離れた。それなりに疲れたみたいだな。後で労ってやるか。
それはそれとしてこの場にオレと薬を使ったと思われる男だけになった――もちろん周囲は騎士達が包囲してるけどな。因みにハンターはこの場にはもういない。やつが薬を取り出した時点で騎士達がハンター達を退避させてたからな。
『ガアァァァァァァ!!!!』
「あー、やっぱり理性がぶっとんでやがんな。ったく……この忙しい時に手間増やしてんじゃねぇよこのクソガキがぁ!!!!」
『グガァ……!?』
真正面から馬鹿みてぇに突っ込んでくるその男の頭を思いきり殴り落とす。
こいつのせいで仕事が増えてんだ、少し力を入れすぎたかもしれねぇが……まぁ大丈夫だろ。ブラッドのやつが殺ったやつも頑丈だったって話だしな、怪我はしても死ぬことはねぇだろ。
それ以前にオレは騎士団長って立場だからな適当やって人的被害を出すわけにはいかねぇからな。
『ガッ……ガアァァァァァァ!』
「マジかぁ……」
オレが殴った衝撃と、その勢いで地面に激突した衝撃で気を失ったと思ったが。思いの外頑丈らしい。これはブラッドのやつみてぇに、こいつも殺るしかねぇな……。
『ガァァァァ!!!!』
「って嘘だろっ――速すぎんだろ……!」
さっさと殺ろうと思った矢先、オレと真逆の方向に走り出しやがった。オレも追おうと思ったんだがヤツが早すぎた。それにここの後始末もしなきゃなんねぇからオレがこの場を離れるわけにはいかねぇ。
一応騎士の何人かが追いかけちゃいるが、あの分だと見失っちまいそうだな……。
『我々が追います――”修羅“の皆様は明日から万全で臨んでいただくべきでしょうから』
「調査部か……その通りだな、任せるわ」
『承知』
オレがどうしようかと考えてる間にいつの間にか一人の女が立っていた。こいつはラプラド王国の調査部に所属してるやつだ。”修羅“の”狐“共に似ているが、あいつらは主に国外の情報収集で、この調査部のやつらは国内で起きた問題の調査は犯罪者の足取りを追うのが仕事。
だから逃げ出したあいつを追うならオレたち騎士よりも適任だ。
オレが調査部のやつらに任せると言うと、即座にその場を離れヤツを追いに向かった。
「ひとまずはこれで良いか……おい」
「はっ!」
ひとまずヤツを追うのは調査部に任せるとして、オレはこの場の後始末だな。オレは近くの騎士を呼び寄せ、話を伝える。
「ハンターはヤツの姿は見てねぇんだよな?」
「はい、ヤツが変異しきる前にハンター達は退避させましたので」
「分かった。それならハンター共には突如暴れだしたハンターを捕らえ拘留したと伝えろ。騎士達にもヤツが逃げたことは口外しないように共有しておけ」
「承知しました!」
薬の事は情報を規制してて周知されてねぇからな。ハンターが目撃してないならこう言うのが良いだろう。無駄に不安を煽って氾濫で負傷者を出すわけにもいかねぇしな。
後は”修羅“の連中にも伝えなきゃな。ネスはどこに――
「調査部の方が戻り報告を受け次第、”修羅“の皆様に報告に向かわせます。仮に生きたまま森に向かったようであれば、”修羅“の皆様には念のため警戒するように伝えさせておきます」
「……おう、頼むわ」
ネスを探そうと思った矢先、ネスの方からオレのところに来たうえ、そんなことを伝えてきた。騎士達も既に所持品調査を再開しているあたり仕事が早いとは思うが、こいつに至っては早いどころじゃねぇと思うんだが……。
なんでオレが指示しようと思ったことを先々に済ませてんだコイツ。
「わたしは団長のようには戦えませんからね。少しでも貴方の負担を減らすのがわたしの仕事ですよ」
「ああ……今後も頼むわ」
「はい」
これもいつもの台詞だな。実際コイツのおかげで増えた仕事が一瞬で片付いたわけ出しな――報告書の確認はするが、確認だけに減ったのはマジで助かった。
オレはその場でネスが作成した報告書を確認しながら、ハンター達の所持品調査に立ち会うことにした。幸い他にあの薬を持っている者はなく、暴れるような者も現れることなく調査は終わった。
ヤツの捜索は氾濫が終わった後にするとして、カリナと言うハンターへの協力要請――”エミリア神聖法国“の返答次第だが、国王陛下への報告書の作成と、例の薬に関してやることはまだあるが、とりあえずはひと段落だ。ここまで問題が起こると油断は出来ねぇが、とにかく氾濫だ。
●
しばらくして戻ってきた調査部のやつの話を聞くと、逃げ出したヤツは北――魔物の森に向かっていったらしい。流石に調査部のやつらは”修羅“の連中みてぇに戦闘ができるわけじゃねぇからな。
仮眠を取ろうと思った矢先――騎士から報告を受けたチアーラが「忙しいところ悪いわね」と言いながら来やがった。こいつの雰囲気からして真面目な話っぽいな。
「聞いたわ、薬を使ったハンターが森に逃げ込んだそうね」
「ああ、今じゃ捜索は無理だからなとりあえず氾濫に集中してから魔物が少なくなった期間で――」
「それだけれど、二日目にアーシスが捜索に森に向かうことになったわ」
普段は”魔物の森“はその名の通り魔物が大量にいるが、氾濫直後の数日は魔物の数が極端に少なくなる。数日たてば原理は分からんがすぐに数が戻るが。って言うかなんで氾濫時以外で魔物が森から出てこねぇのも意味が分からん――って今はそれどころじゃねぇな。
それよりもアーシスの嬢ちゃんが森に捜索に向かうって話だ。
「なんでまた……」
「あの子が言い出したのよ。『自分が担当するのは今までカイナートが担当してた範囲の一部だから、一時的に抜けても問題無いでしょ』って、あの子が行っていることも間違っていないし……実際に捜索するなら早い方が良いもの」
「まぁ、その通りだが……嬢ちゃんお前らに似てきてねぇか?」
詳しいことは省くが、こいつらは度々無茶をしすぎる。元々無茶を強いられる生き方だったから仕方ねぇとは思うんだが……嬢ちゃんは元々普通の子供だったからなそんなに無茶するとは思ってなかった。
いや、よくよく考えれば、無茶をするやつらに育てられたら、無茶をするようにもなるか……?
「あの子が私たちに似てきてるって言うのは嬉しいけれど――素直に喜べないわねその言い方……」
「まぁ、とにかく二日目に嬢ちゃんが捜索に向かうってのは分かった」
「じゃあ、私はこれで失礼するわね」
そう言ったチアーラは、今いる部屋から出ようとして、立ち止まって「そうそう……」と言いながらこっちを向いて来た。何か言い忘れたことでもあったのか?
「あなたが逃がしたせいであの子が危険な森に行くことになったんだから……氾濫が終わったら貴方、鍛えなおしよ」
「……」
「返事は?」
「分かった……」
最後に爆弾発言を残して、チアーラはこの場を後にした。
すまんシンディ。氾濫が終わった後チアーラとの訓練でオレ死ぬかもしれん……。
忙しい時に問題起こした馬鹿にキレたガレリア騎士団長でした。
そして逃がしたせいでチアーラの訓練に付き合わされることになったガレリアでした。
なお、ガレリア騎士団長はブラッドたち程とはいかないまでもアーシスより強いです。
そしてそのブラッドたちは全員本気でかかってもチアーラにボコられます。
ここまで言えばどうなるか分かるね、南無三。
★次話は03/25投稿予定です。




