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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
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第七十一話 ―最終確認―

第七十一話目です。


氾濫開始前の最終確認のための会議です。

 作業のため先程まで出ていたカイナート兄ちゃんが戻ってきた。今この天幕の中にはあたし達五人だけじゃなくて、”狐“も数人この場にいる。ラプラド王国内にも”狐“は残しているけど、この場にいるのはあたし達のサポートをしてくれる人達だ。


「さて、カイナートや”狐“達も揃ったことだし、最終確認を始めるわよ」


 確認の内容は、対処を行う場所の地形、騎士やハンター達の班分けや配置、そしてあたし達『修羅』のそれぞれの役割。


――地形について――

 ”ラプラド王国“の北に”魔物の森“があるわけなんだけど、その魔物の森は幸いにも東西を高い山脈に囲われているから東西への警戒は殆ど不要。だから魔物の森の手前側に半円状、”戦場“、”堀“、”槍柵“、”戦場“、”高見台“、”砦“の順に建てられている。


――配置について――

 氾濫は3日間昼夜問わずに続くため、班分けや配置、それに担当する時間の割り当ても重要になってくる。

 まず、魔物の森に近い場所である森と堀の間の”戦場“――つまり前線を担当する”前線討伐班“。

 実力があり周りの状況も把握できる人達が立ち、中級以上の魔物を引き付け討伐する役目。

 魔物は自身を強くする魔力を求めて人を襲う習性がある。だから人の多い場所を嗅ぎつけて向かうんだけど、攻撃を受けた場合は攻撃してきた相手を襲う。その習性を利用して中級以上の魔物を向かわせないようにするのが役目だ。


 次に、堀と槍柵の後ろで弓や魔法の遠距離での攻撃による討伐を担当する”中継援護班“。

 前線から抜けてきた下級の魔物や、鳥や虫などの飛んで前線や柵を超えてくる魔物を対処する――上空の飛んでいる魔物を殲滅しながら後方に流れる魔物を減らす役割を担う。

 森と堀の間、槍柵と砦の間に配置される人は地上の魔物に集中しなければならず、この班が飛んでいる魔物を逃すたびに上空からの強襲によって地上の魔物を対処している人たちに危険が及ぶことになる。


 そして、槍柵と砦の間に配置された後衛で討伐を行う”後衛討伐班“。

 前線で強力な魔物を引き付け、中継で上空の魔物を打ち落とし、堀や槍柵で地上の下級の魔物を減らしはするが、それでも下級と言えども大量の魔物がここまで雪崩れ込んでくる。その魔物たちを殲滅するのが役目。

 この班が最も人の数が多く、人が減らない限り魔物たちがここから後ろ――砦や、延いてはラプラド国――に向かうことはない。とはいえ先にも述べたように大量の魔物がここになだれ込むことになるため、気を抜くと一気に魔物の大群に飲まれて命を落としてしまう。


 最後に、そのほかの支援を行う”後方支援班“

 砦上から”後方討伐班“の援護を行ったり、全ての怪我人の治療、物資の管理、氾濫参加者のスケジュール管理などの役割を担う。この班が瓦解すると全ての氾濫の対処が立ち行かなくなる、何気に最も大事な役割でもある。


 ”前線討伐班”“中継遠距離班“”後方討伐班“はどれも危険な役割だけど、”後方支援班“を守ると言う役割もある。逆に”後方支援班“が管理を怠ってしまえば、他の三班が立ち行かなくなる。互いが互いを支え合って氾濫の対処に臨まなければならないのだそ。


――”修羅“の役割――

 ”前線討伐班“と”後方討伐班“に分かれ、魔物を殲滅しながら危険な状況に陥った騎士やハンター達の救援を担う。

 担当としてはチアーラさんとブラッドのおっちゃんが”前線討伐班“で、カイナート兄ちゃんとモルガナ姉ちゃんとあたし、そして”狐“達が”後方討伐班“でその役割を担うことになる。チアーラさんとブラッドのおっちゃんは前線で中級や上級の魔物を討伐する役割で、あたし達は遊撃および救援という感じだ。


「――ここまでは問題ないかしら?

後、対応する時間だけれど――私、カイナート、アーシス、ガーナが昼間、ブラッド、モルガナが夜間の担当よ。”狐“達も事前に話した通りに交代しなさい」


 チアーラさんの言葉に”狐“を含めたあたし達はチアーラさんの言葉に頷く。

 ブラッドのおっちゃんも姉ちゃんを含めた夜間担当のメンバーは全員が夜目が効く。そして、氾濫は昼夜問わずとはいえ、夜より昼間の方が多いから一番強いチアーラさんが昼間の前線に出て、後方もあたしを入れて人数を少し多くということだろう。


「最後に、私たちの仕事は魔物を討伐すること。だけどそれ以上に参加する騎士とハンターを守ることよ。あなた達自身と彼らの安全を何よりも最優先に動きなさい」

「「「「「「了解」」」」」」

「確認は以上、アーシスとブラッド以外は解散して良いわよ」


 そうして氾濫前の最終確認が終わったんだけど、何であたしとおっちゃんは残らないといけないの?おっちゃんもあたしと同じように「なんで?」って顔してるし。


「二人はお説教よ」


 忘れてた……

 ん、兄ちゃんがあたしの肩に手を置いて来たんだけどなんで――あ、ガーナが兄ちゃんの腕を伝って逃げた!?


「ガ――」

「アーシス正座」

「ぁい……」


 ガーナを引き留めようとしたけど、その前にチアーラさんに圧をかけられてその試みは失敗した。

 うぅ、チアーラさんが怖い……やっぱこの状態のチアーラさんから逃げようとするのは駄目だね。


『お休みのところ申し訳ございません!』


 とチアーラさんのお説教が始まろうとしたところで、天幕の外からそんな声が聞こえてきた。ここに来るってことは騎士の誰かかな。あんまり慌てた様子はないけど、氾濫の予兆のことは聞いたし……そうなると所持品の調査で何かあった?

 あたしが考えていると、天幕には入らずそのまま騎士は報告を続けた。


『ハンター達の所持品の調査を行っていたところ『般若様』が回収された例の薬を所持している者を発見しました!』

「……続けて」

『回収を試みましたが所持していたハンターに使用され、その者が暴れだしました。薬を使用した者は以前"羅刹様"、"般若様"が対峙された者や、各国からの情報と同様の変異をしておりました』


 その言葉を聞いた瞬間、その場の空気がピリッとした緊張感に包まれた。あの薬を使った人は姿が変異するだけじゃなくて、力も以上に強く理性までもなくして暴れる。一般の騎士でも数人であたれば問題ないとは思うけど少なからず怪我は負ってしまうだろうし、その場にいた騎士やハンターが心配だ。


『その場に騎士団長が対処してくださったおかげで、天幕が二張り(ふたはり)破壊されたのみで騎士やハンター達にも被害はありませんでした。ただ……』


 ガレリア騎士団長がいたおかげで人的な被害はなかったらしい。それを聞いて安心したんだけど、それ以外に何か伝えなきゃいけないことがあるみたいだった。

 言い淀んでいる騎士に対してチアーラさんが「どうしたの?」と問いかけたことで、騎士は言葉を続けた。


『団長のおかげで被害は少なく済みましたが、当の薬を使ったハンターに逃げられました……』

「……逃げたハンターの捜索は?」

「氾濫の予兆が確認されたことと、逃げた先が北――魔物の森の方角だったため、現状での捜索は不可と。騎士団長が判断されました」


 ガレリア騎士団長やあたし達ならともかく、一般の騎士達は魔物の森に入ること自体が危険だ。もうすぐ氾濫が始まろうとしているタイミングであれば猶更。あたし達が今の時点で抜けるわけにもいかないし。その元ハンターのことが気がかりではあるけど、ガレリア騎士団長の判断は間違ってないと思う。

 それはチアーラさんも同じらしかった。


「そう、ガレリアの判断は間違ってないわ……私たちは念のため、その元ハンターにも注意していろってところかしら」

「おっしゃる通りです」


 また、騎士から聞くところによると、その元ハンターが暴れだした時点で騎士が対応しハンター達は避難させた。おかげで変異した後の姿や、逃げ出したところを目撃したハンターはいないんだそう。ハンター達には「突然暴れだした男を騎士団長が拘束し砦に拘留している」と伝えたとのこと。薬について情報が規制されていることと、これ以上不安を煽らないようにとの判断らしい。

 それを聞いたチアーラさんは眉間に皺をよせながらも「報告ありがとう」と騎士に伝え、騎士は天幕から騎士達の待機所へ戻っていった。


「まったく、氾濫が始まる前から予想外の事が起こりすぎね。正直その元ハンターの捜索に向かいたいところだけれど、私たちが抜けるわけにはいかないものね……」

「あたしが行く?」


 ため息交じりに漏らしたチアーラさんの言葉に、あたしはそう返す。”狐“を含めて皆が「は……?」と驚いたような声を出した。

 昨年まで兄ちゃんが担当していた範囲の一部をあたしが担当することになってるんだけど、そもそもあたしが”修羅“に入っていなかったら今年も兄ちゃんの担当の範囲は変わらなかったはず。それに”狐“達の担当自体は昨年までと変わってないらしいし。それならあたしが捜索に向かっても兄ちゃんの担当範囲を昨年までと同じに戻せば問題ないんじゃないかな。

 あたしがそう皆に伝えると、チアーラさんは笑顔のまま青筋を浮かべながらも、言葉を発した。


「分かったわ、ただし二日目だけよ。一日目と三日目は魔物の数が多すぎて危険だもの……一日目に例の元ハンターが出てくれば二日目も配置変更は無し。でなければカイナートの担当を昨年までの範囲に戻してアーシスには森に捜索に向かってもらうわ」


 チアーラさんもかなり怒ってるっぽいんだけど、こっちに圧が飛んでこないところを考えるとあたしにじゃなくて、多分ガレリア騎士団長に向けた怒りだと思う。チアーラさんからしたらガレリア騎士団長が逃がしたせいであたしが森に行かなくちゃいけなくなったわけだし。


「捜索の事は私からガレリアに伝えておくわ――それじゃあ解散」


 チアーラさんの言葉に締めくくられた会議はそこで終了し、あたし達は解散した。

 あ、いや、あたしとおっちゃんは解散できなかったけどね。チアーラさんのお説教があったから!

 まぁ、チアーラさんもガレリア騎士団長と話しがあるっていうことでいつもより短くなったのは良かった。いや、逃げられたこととか氾濫の事とか考えると良いとは言えない状況ではあるけどね……。

例の馬鹿二人の他にあの良く分からん薬を持っているハンターがいたらしいです。

被害者が出る前に対処したガレリア騎士団長も優秀……かと思ったら逃げられてました。


そして二日目に、逃げた元ハンターの捜索に向かうことになったアーシスと、ガレリアが逃がしたせいで青筋浮かべてるチアーラでした。



★次話は03/20投稿予定です。

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