第六十九話 ―ガレリアは思う―
第六十九話目です。
今回はガレリア視点でお送りします。
アーシスが二人のハンターおよび薬の報告をした騎士団長です。
オレはラプラド王国騎士団団長のガレリアだ。
今は年に一度の氾濫の準備中だったんだが、久々にアーシスの嬢ちゃん――いや今は”般若“の嬢ちゃんか――に会った。確か、初めて会ったのは王妃陛下と訓練場に来てた時だったか。色々と珍しいと思って声をかけたのがきっかけだ。
「いやマジで、最初に見たときは珍しいのがいるくらいだったんだがなぁ……」
「”エルフ“に”獣人“に”ドワーフ“ですよね?」
「ああ」
”エルフ“は、長い耳が特徴的で、魔力が多く薬に詳しい種族。
”獣人“は、獣のような耳や尻尾を持ち、身体能力が高く狩り得意とする種族。
”ドワーフ“手先が器用なうえ力が強く、鍛冶や細工が得意な種族。
因みに”人間“は良く言えばバランスが良いと言えるが、ぶっちゃけると一番特徴が無い種族とも言える。
「白い髪、赤い目、褐色の肌。どれも”エルフ“、”獣人“、”ドワーフ“各種族の血を引く者にしか現れない特徴ですからね」
「しかも異種族間じゃ子供ができづらいからな」
異種族間では『十年以上かけてようやく一人の子供ができた』とか『何十年かけても一人も子供が出来ない』とか、そんなレベルで子供ができない。同じ種族の混血同士だとまだマシらしいが。
オレは立場上、色んな場所に行って色んなやつに会ってきたが、混血なんて人間と各種族のが一人か二人、合計しても五、六人しか会ったことがねぇ。それだけ嬢ちゃんが珍しいんだ。
「しかも二種族どころか、人間も含めて四種族の混血だぞ。珍しくない訳ねぇだろ」
「母親は人間だったらしいですから、父親が彼女と同じ混血なんでしょうね」
白い髪、赤い目、褐色の肌。これらはその種族の血を引いていれば必ず現れる特徴だからな――飽くまで過去の資料からわかる事ではあるがな。
母親にはそれらの特徴が一つも見られなかったってことだから、ネスの言うように父親がそうなんだろう。父親も四種族の混血ってことだからそれも珍しいんだがな……
ん?そういや――
「嬢ちゃんから母親の話は聞いた事あるが、父親の話って聞いた事ねぇよな?」
「そうですね……例の事件の際も父親の姿はなかったようですから、恐らく彼女が小さい頃に亡くなってしまって、記憶が無いのでは?」
「ああ、そう言われりゃそうか」
嬢ちゃんもまだ母親のことがトラウマみてぇだし蒸し返すのも悪いな、父親のことは置いておくとしよう。
まぁそんなわけで珍しい見た目の嬢ちゃんに声をかけたのがきっかけだった。嬢ちゃんは”修羅“に所属したわけだからあの時声をかけなくても顔を合わせることにはなってただろうがな。
それにしても――
「あの頃は鍛えてる途中って感じだったが、今じゃすっかり頼もしくなったもんだ」
「シンディー嬢の面倒も見てくれますもんね。」
「そうなんだよなぁ……」
機会は多くないが嬢ちゃんもシンディーの面倒見てくれるんだよなぁ。嬢ちゃんと一緒だとシンディは実の姉みたいに慕って、いつも楽しそうにしてるんだよな。
あー、やっぱ良いよな……
「どうしました?」
「いやな、息子も良いと思うんだが…姉妹ってのも良いと思ってよ」
「あぁ、急に何を言い出すかと思えばそういうことですか…」
おい、面倒臭そうな顔すんな――いや、悪かったよ、仕事中に急にこんな話してよ。いつも、オレが何か言う前に表情読んだうえに、滅茶苦茶嫌そうな顔で話切り上げやがるんだよなコイツ。
とくだらない話をしているところで――コンコンッ――と扉がノックされた。
「言いたいことは分かりますが、誰か来たようですよ?」
「……」
コイツが『言いたいことは分かる』って言ったことに血少し驚いたが、そういやこいつも既婚者っつーか娘が二人いるんだったわ。
ああいや、今はそんなこと考えてる場合じゃねぇな。
「わかった、通してくれ」
「どうぞ」
ネスが扉に向かって声をかけると「お邪魔するわね」と言いながらチアーラが入ってきた。
昼間嬢ちゃんが例の薬について報告に来たが、また別に問題が起きたのか?
「急に悪いわね」
「いや、良い。それでどうした?」
「ちょっと、例の薬についてのことよ」
アレについては昼間嬢ちゃんから報告を受けたし、所持品調査の準備も進めてるんだが、また何かあったのか?そろそろ準備も終わると思うんだが……
「金等級ハンターのカリナ、分かるかしら?」
「確か……」
「あの二人のハンターの聴取の件でで”般若殿“から特に話を聞くと良いと言われたハンターですよ」
ああそうだったな、オレはどうにもそう言うのを覚えるのが苦手なんだよな――まぁだから補佐官をつけられてるんだが。
だが既に嬢ちゃんから話は聞いてるし、わざわざコイツから聞くこともねぇと思うが?
「そのハンターが解析魔法を使えるのよね」
「ネス――」
「エミリア神聖法国に依頼の確認を出しました。
依頼の可否については氾濫後には返答が来るかと」
「……おう」
お前行動早ぇよ、いや別にオレもそう指示しようと思ったが、嬢ちゃんとかの前だとオレの指示待つくせに、なんでコイツの時は勝手に行動するんだこいつは。
どうせ『今更”絢華殿“の前で取り繕う必要はないでしょう』とか言いうんだろ?オレはもうわかってるから最早言葉には出さん。
「本人には詳細は話していないけれど、簡単には伝えてあるわよ」
「助かる――しかし良く分かったな」
「あの子がそのカリナってハンターに解析魔法を使われたのに気づいて脅――じゃないわね、注意してたのを見つけたのだけど、それであの子が良い事思いついたって話してくれたのよ。
あんなに可愛いくてそのうえ賢いなんて本当に良い子よねぇ――そう思うわよね?」
「そうだな……」
こいつが今”脅し“と言いかけたのは一旦といておく――解析魔法ってのは勘の良いやつだと使われると不快感を感じるからな。大方、コイツらに向けられるのが嫌だったってところだろ。
それよりもその後の発言と一緒に”絢華“から意味が分からんくらいに圧をかけてくるもんで、オレはこいつの『そう思うわよね?』に同意するしかなかった。
嬢ちゃんのことになると怖ぇんだよこいつ……嬢ちゃんを拾ってくる前――確かあの時はこいつも18くらいだったか?――はこんな親バカになるとは思わなかったもんだ。
おいネス、こいつの相手をオレに丸投げすんな。
こいつと嬢ちゃんは親子ではないし、互いに親子と言うことはねぇ。だが、周りから見ればそこらの親子となんら変わりはない。オレも一人の親だ。子供が可愛いと言うのは同意するが、この状態のこいつは非常に面倒くせぇ……
「失礼いたします!」
そんなことを考えてるといつの間に一人の騎士が部屋に入って来ていた。ネスが通したんだろう。オレがそいつに視線を向けると、その騎士は直ぐに言葉を続けた。
「団長、ハンター達の指示品調査の準備が完了しました。ただ……」
「どうした?」
「氾濫の予兆も確認されました」
「わかった。それなら明日の朝から担当のハンターを優先で調べろ。
ネス、お前も先に行ってろ」
「承知しました!」「はい」
オレが伝えるとネスと騎士は退室して行った。
正直なところ氾濫の開始はもう一日待ってほしいところだが仕方ねぇ。氾濫の準備が終わってて助かったぜ。”修羅“がいなかったら終わってなかったがな。
オレも準備してさっさと向かわねぇとな。
「っつーわけだ氾濫の予兆を確認したことは”修羅“の連中にはお前から伝えておけ。
オレも行かなきゃなんねぇが他に何かあるか?」
「いいえ大丈夫よ。私たちは待機で問題ないのかしら?」
「……ああ大丈夫だ。何かあったら報告い行かせるからよ」
ハンターの所持品調査をこいつらにも手伝わせようとも思ったがやめておこう。
準備も万端で何度も氾濫を経験しているやつ――騎士もハンターもだ――が多いから対処自体は問題ないんだが、”修羅“がいねぇと死者や重傷者が少なからず出ちまう。逆に言えば”修羅“のおかげで騎士もハンターも軽傷で済んでるってわけだ。だからしっかり休んで明日からの三日間を万全の状態で働いてもらわないといけねぇんだ。
「分かったわ。それなら私はこれで失礼するわね」
チアーラも他には報告も無いようで、オレにそう答えると退室していった。
それを確認したオレも早々に準備をして騎士達が所持品調査をしている場に向かった。
人間以外にもいくつかヒト種と呼ばれる種族がいるらしく、実はアーシスは混血らしいですが、詳細は不明らしいですね。
そしてアーシスが解析魔法で不快感を感じたとすぐに思い当たるあたり、もしかしてこの男も解析魔法を使われたことがあるんじゃね?とか思ってます。
それはさておきそろそろ氾濫開始ですが、その前にワンクッション挟みます。
★次話は03/10投稿予定です。




