第六十七話 ―何をしたの?―
第六十七話目です。
「――っていうことで、ハンターの所持品の調査は騎士団の方でやってくれるって」
《ありがとう、ご苦労さま》
騎士団長への報告もチアーラさんへの報告も終わったし、あたしも自分の作業に戻ろうかな。
通信を終えて砦の外に出ると、縛られた男を担いだ2人の男女が砦に向かって歩いてきていた。あれは拘束した二人を任せたスモーカーのおじさんだね、もう一人はカリナという短い茶色の髪を後ろで結った活発そうな顔つきの女性金等級のハンターだ。
さっきガレリア騎士団長に話したのがこの女性。
「連れて来たぞ」
「ありがとう、スモーカーのおじさん。それにカリナさんも」
あたしが二人にそう言うと、おじさんは渋い顔して、カリナさんは驚いたような表情を浮かべた。おじさんにはちゃんと説明しないで拘束した二人を任せたけど、そんな顔される程じゃないと思う。カリナさんに至っては、初対面だよね?
まぁいいや、まずは連れてきてもらった二人を騎士の人達に引き渡さないと。ちょうど砦の前に警備の騎士がいるね、砦に入る前に話した騎士だ。
「ごめん、ちょっと良い?」
「”般若様“どうされました?」
「さっき伝えた二人のハンターの身柄、連れてきてもらったから引き渡しお願いしても良い?」
「承知いたしました。少々お待ちを!」
騎士はあたしにそう返すと、傍にいた他の騎士に話しかけた。
いくらかやり取りをした後、話しかけられた騎士ともう一人、二人の騎士がこっちに駆け寄ってくる。
「そちらの二人が抱えている者たちですか?」
「うん、ガレリア騎士団長にもこの二人のことは話してるけど、拘留したら騎士団長にも伝えておいてね」
「承知いたしました!」
それだけ伝えると、その騎士はスモーカーのおじさんとカリナさんから、あたしが拘束したハンター――アランとゴル――を預かり、連れて行った。
「じゃあ、あとはよろしくね。何かあったら騎士団長か絢華様に伝えて」
「はっ!」
二人の引き渡しも完了したので、話していた騎士は再び砦の警備に戻った。ここでの用事も終わったしそろそろあたしも自分の作業に戻りたいんだけど、そうもいかなそうだなぁ。
「それで事情は聴かせてもらえるんだろうな?」
「さっきも言ったけど、あの二人が襲ってきたから返り討ちに――」
おじさんの問いに答えようとしていたところで、何か不快感を感じた。
その感覚の原因は――
「っ!」
あたしは腰に挿した短剣を抜いてスモーカーのおじさんの隣にいる女性、カリナに向ける。
短剣を彼女に顔に向けはしているけど、当たらないように距離は空けている――そもそもあたし自身、まだ人を殺すのには覚悟がいるからね、まだ殺気は向けられてないから今のところ傷つけるつもりはない――んだけど、カリナに向けた短剣を持っているあたしの手を、おじさんが掴んでくる。
「何してる!?」
「逆に聞くけど、何をしたの?」
今感じたこの不快感は、間違いなくこの女から向けられたものだ。短剣と目線をカリナに向けながら逆に二人に問い返す。
あたしが短剣を向けた時点で、不快感は消えたけれどこの女が原因で、その女をスモーカーが庇っていることに変わりはないから。
(あの女の魔力があなたに纏わりついていたわよ)
スモーカーの返答が来る前に、耳元でガーナがそう教えてくれる。
魔力が纏わりついているってことは、魔力があたしに干渉するような魔法を使われたってことで、少なくともガーナのような魔力感知ではない――そもそも魔力感知系統の魔法は他人に魔力を纏わせるようなことはないはずだから。
(じゃあ、精神干渉系の魔法?……いやそれも違う)
あたしは心が弱い自覚はある――それだったら悪夢なんて見ないし、夢の中なのに人を殺そうとした時にあの村人たちの表情が浮かぶわけないから。
そうなると――
「――解析魔法?」
人や魔物、食べ物や魔物の素材に対して魔力で干渉することで、その対象の情報が解析できる魔法だって、前にカイナート兄ちゃんに教えてもらった覚えがある。
人や魔物に使えば身体的に弱い場所――怪我の場所とか――を調べたり、食べ物に使えば毒があるかどうかを調べたりすることができる魔法だ。
今の情報だけで思い浮かぶのはそれくらいだ。
「「っ!?」」
あたしがおじさんに伝えた通りにアランとゴルを連れてきたから、あたしやラプラド王国に対しての敵意は無いとは思う。それでも、警戒するに越したことはない。
もし、本当に解析魔法なんだとしても今ここで魔法を使った理由は分からないけど、あの不快感が皆に向けられることは耐えられない。
動揺してるようで返答はまだかえって来てないけど、返答次第ではあたしも覚悟を決めなきゃいけないかもしれない。
身体を見るだけでも簡単な相手じゃなさそうだから。
「なんか分からんけど不快だからとりあえず警戒しよう」な思考になるアーシスでした。
★次話は03/01投稿予定です。




