第七話 ―訓練記録04―
第七話目です。
引き続きカイナートとの組手です。
組手をしながら木の実を全て掴むと言う意味の分からない訓練、アーシスはクリアできるのでしょうか。
あたしが逆立ちという不安定な体勢になっている状態で、カイナート兄ちゃんが木の実を放り投げた。
兄ちゃんは既にこっちへの攻撃の準備を始めている。
(まずは体勢を整え――いや、それじゃ間に合わない…!)
あたしは腕に力を入れて逆立ちの状態を保つ。
そのまま足を広げて上半身の力だけで身体をひねり、兄ちゃんに向けて横なぎで蹴りを放つ。
「よっ――」
(あれもこれも簡単によけられるな…
でも、一瞬の時間は出来た!)
兄ちゃんはあたしの蹴りを避けるのに少しだけ後ろに下がった。
その隙に逆立ちの状態から体勢を整える。
同時にさっき兄ちゃんが放り投げた木の実を視界の端で捉え、数と位置を確認する。
(数は3つ――あたしが取りに行くタイミングで兄ちゃんも攻撃を仕掛けてくるはず…)
木の実は既に落下を始めている。
カイナート兄ちゃんの左拳も正面から向かってきている。
正面から迫る左拳を受け流しつつ、合気であたしの後ろの方向に兄ちゃんを投げ飛ばす。
そしてちょうどその場に落下してきた木の実の一つを掴み取る。
(残りの2つも取りたいけど――)
兄ちゃんは既に体勢を直してこちらに向かってきている。
更には真っすぐに蹴りをこちらに放ってこようとしている。
木の実を取ろうとすれば兄ちゃんの攻撃を受け、兄ちゃんの攻撃に対処すれば木の実が落ちてしまう。
木の実が地面に落ちた時点で失敗なら――
(――木の実を地面に落とさなければいいだけだ!)
カイナート兄ちゃんの蹴りがあたしに当たる寸前で飛び上がる。
兄ちゃんの脚を足場にして再び逆立ちの状態になりながら、残り二つの木の実を上に蹴り飛ばす。
「えっ」
「地面に落ちてないからまだ失敗じゃないよね!?」
「そう、だね!」
(あ、良かった。やったもののダメって言われたらどうしようかと思った…)
失敗にならなくて安心したが、まだ組手は続いている。
木の実を蹴り飛ばした後、兄ちゃんに向けて足を振り下ろす。
「せぇい!!」
「くっ…!」
兄ちゃんはあたしの振り下ろした蹴りを両腕をクロスさせて受け止める。
その腕を足場に、脚に力を入れて兄ちゃんを蹴り飛ばしながら上に飛ぶ。
そして先ほど蹴り上げた2つの木の実を掴み取り、体勢を整えて着地する。
――木の実は邪魔になるのでポケットに入れておく。
「数は3つ!全部掴み取った!」
「正解!でもまだ組手は終わってないよ!」
木の実を全部掴み取っても組手は終わりではない。
あたしが着地する頃にはカイナート兄ちゃんが左の手刀をこちらに向けていた。
(受け流しても多分そのまま柔術で投げられる…
それなら――)
ガシッ――と兄ちゃんの左腕を右手で掴んで止める。
それと同時に左足を前に踏み込み、兄ちゃんに向けて左手で掌底を放つ。
「はぁっ!」
「ふっ」
ガシッ――とあたしの掌底も兄ちゃんに掴んで止められる。
「これ、どうすれば良いの…?」
今は二人とも両手がふさがっている。
どちらも脚は自由だが、動かした瞬間に柔術か合気で投げられる。
つまりあたしもカイナート兄ちゃんも動けない状態になっている。
「よく頑張ったね。」
「じゃあ」
「うん、ひとまず今回の組手はここまで」
組手中に木の実の訓練をする――何度もやってきたが、今回が初めての成功だ。
今まで数を間違えたり、掴み損ねたり、木の実を全部掴めてもその直後に兄ちゃんの攻撃をくらったり…
それはもう大変だったが、ようやく成功させることができた。
「やった…!」
「とはいえ、まだ一回成功しただけだからね。
少し休憩を挟んだらもう一度やるよ」
「うん!」
それからもしばらく、この訓練は続いた。
あたしが成功すると、兄ちゃんは攻撃のスピードを上げたり、木の実の個数を増やしてきた。
更には、地面につく前に上に飛ばそうとするのを阻止してきたり、一回の組手で何度も木の実を投げたりしてきた。
結局、慣れるのに毎回時間がかかってしまい、成功したのは数回程度だった。
木の実の数は3個ですが、何とかクリアできました。
ただ、クリアするたびにカイナートが難易度を上げるので結局は数回らしいです。
いや、なんでできんの...?
★次話は05/01投稿予定です。