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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
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第六十二話 ―砦すごいね―

第六十二話目です。


今回は氾濫の対処を行う場所に向かいます。

 翌朝、日の出と共にあたし達は居間に集まった。


「皆、準備は問題ないかしら?」


 チアーラさんにそう問われてあたし達は「問題ない」と答えた。

 持ち物は任命式前に貰った装備と、任命式で貰った仮面。後は包帯、薬品などの応急処置の道具と、もしもの時の携帯食料――これらは貰った小さなポーチに入れている。


「あらかじめ決めていたように、一部の”狐“は国内の監視および警備のために残ること。

 他は私たちと一緒に砦へ向かうわよ」


 チアーラさんは通信の魔道具を起動するとあたし達と、通信を通して”狐“達にもそう伝える。基本的に”修羅“のメンバーは氾濫の対処に向かうが、もしものことが無いとは言い切れないため、一部の”狐“を国内に残しておく必要がある――氾濫前にあたし達と騎士で王国に入り込んだ犯罪者たちは一斉に捕らえたけどそれでも何があるか分からないから。


《承知いたしました》


 通信の魔道具から”狐“からの返答が返ってくると、チラーラさんは通信を終え、氾濫を迎え撃つための砦へ向かった。魔物の森以外でもたまに魔物は現れるんだけど、先に騎士達が先行したからあたし達は今のところ全く魔物に遭遇していない。

 今もモルガナ姉ちゃんとチアーラさんが話をしている。


「アーちゃんも体力ついたっスねぇ!」

「そうね、”修羅“への所属が決まってからも訓練を続けていたものね」


 移動中に何で体力とかそんな話をしているのか?それは簡単な話で、あたし達が走って移動しているからだ。

 国を出てから氾濫の砦までは、馬車で二日と少しかかるくらいの距離があるんだけど、あたし達はあまり目立たない様にしないといけない。いや、普通に馬に乗って行けば良いじゃん――となるところだけど、あたし達なら走った方が早いし、何より”訓練になる“から。


「一日くらいなら全力疾走しても疲れないくらいには体力ついたけど、皆ほどじゃないし…」

「ねぇ、アナタ自分の感覚が可笑しいことわかって言ってるの……?」


 自分でも相当体力がついたと実感してはいるものの、それでもやっぱり皆ほどじゃない。あたしがチアーラさんにそう返すと、ガーナにそんなことを言われた。

 失礼な、あたしだって自分の体力が異常なことくらい自覚してるよ。でも一番身近なのが”修羅“の皆なわけで、それに比べると全然なんだよね……


「だけど”狐“達はもう少し体力をつけた方が良いんじゃないかな?」

「だなぁ、アーシスの方が体力があるぞ」


 と、あたし達の会話を聞いていたカイナート兄ちゃんとブラッドのおっちゃんがそんなことを言いだした。あたし達の後からついてくる数人の”狐“が「え!?」って声が聞こえてきそうな程に驚いた。見たところ”狐“達は1日中走ればそれなりに疲れが出る程度の体力なんだと思う。今も少し汗をかいているみたいだし。

 いや、あたしに「どうにかして……」って視線向けられても困るんだけど……?


「いや”狐“の皆はこれが()()じゃないんだからさ……

 諜報にも体力は必要だろうけど異常な体力があっても逆に怪しまれるでしょ?」


 あたしがそう言うと「それも確かに…」と二人とも頷いた――おっちゃんはともかく、兄ちゃんもたまに脳筋よりの考え方なんだよね……あたしも脳筋にならないように気をつけないと!

 ”狐“達も「助かった…」と言わんばかりにホッと息をついていた。皆も大変だね……



 なんだかんだそんな話をしながら、あたし達は出発してから半日ほどで砦に到着した。

 移動は馬車よりも走った方が早いから、到着までの時間は妥当なところだと思う。


「ほへぇ~……」

「すごいわね……」


 建てられた砦を見たあたしとガーナはそんな呆けた声を出してしまった。砦はラプラド王国と北にある”魔物の森“を完全に分断するように建てられていて、見る限り相当頑丈でかなり迂回しなければラプラド王国に向かうことはできないように作られている。

 初めて見た人なら、あたし達みたいに呆けた声を出してもおかしくないと思う。


「ほら、私たちも手伝うわよ」


 砦には既に騎士やハンターたちが集まっていて、物資を運んだり氾濫への準備を進めていて、あたし達も氾濫が始まるまで、彼らの手伝いをすることになっている。

 あたしも含めた全員が懐から仮面を取り出してつけながら、服についた魔石に魔力を流す。


「「「「「【換装(かんそう)】」」」」」


 そう唱えたことによって、あたし達が来ている服が漆黒に色を変えていく――完全に真っ黒というわけでは無いけどね。


「氾濫の間は仮面は外さないこと――人の目が無い専用の天幕の中なら別だけれどね」


 あたし達が”修羅“だと周囲――特にハンターたちに示すためだ。そうしないと面倒な輩に絡まれかねないからだ――特にあたしなんかは見た目だけで言えば10歳前後の子供だからねぇ……

 まぁ、仮面付けてても子供に間違えられそうだけど”修羅“の存在を噂程度でも知っていれば無駄に絡んでくる輩も少ないだろう。


「それじゃあ、各員作業開始!」


 チアーラさんがあたし達が手伝う作業が書かれた紙を渡すとそう言葉を発する。

 その言葉にあたし達は「了解」と言葉を返し、渡された紙に書かれた作業を行う場所に向かっていく。

本来は馬や馬車で移動するのを、話をしながら走って移動す頭のおかしい人達でした。

”狐“さん達も上司が脳筋だと大変っすね……ガンバッテ!!


★次話は02/05投稿予定です。

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