第六十話 ―物は試し―
第六十話目です。
前話の皆との訓練の後のお話です。
今回は少し長くなってしまいました……
皆との模擬戦による訓練を終わる事には、疲れすぎて夜中に見た夢のことや吐いたこと、気分の悪さはすっかりなくなっていた――粗治療みたいなものなんだろうか?
それはともかく、皆は仕事があるらしく城に行っていて、チアーラさんは書類仕事があるとロザリアさんに部屋に連れて枯れた。あたしは魔力だけは余裕があったから、ガーナとその場に残って前にチアーラさんに言われた魔力操作の訓練をすることにしたんだけど……
「う~ん……」
チアーラさんに言われたように、あたしはひたすら【結界】を作っては消し、作っては消してを繰り返していた。しかし、前に魔力操作の訓練をするように言われてから時間のある時にはこの訓練をやってるんだけど、一向に複雑な形にしたり、生成済みの結界を動かしたり、できる気がしない。
そう思いながら唸ったあたしにガーナが反応した。
「なに唸ってるのよ?」
「なんか、魔力操作が上手くなってる実感無いんだよ……っていうか魔力操作っていうもの自体、正直良く分かってない」
「はっきり言ったわね……」
”魔力操作“っていうのは「本人のイメージに対する魔法の発動のされやすさ」のことで、魔法を使う度に魔力が少しずつイメージに馴染んで、だんだん複雑なことにも対応できるようになっていく――らしいんだけど……馴染むって何!?その馴染むって感覚も分かんないし、チアーラさんに聞いてみても「要は慣れよ」ってしか返ってこないし!そんな曖昧なの分かんないよ!?
駄目だ。色々考えすぎて混乱してきた……一回落ち着こう。
「そもそも魔法ってけっこう大雑把だから、その辺りも大雑把なのかもしれないけどさぁ……」
「まぁ、そうねぇ……『こうしたい』ってイメージしながら自分の中の魔力に意識を向けると、そのイメージに応じて魔力が勝手に動いて発動する――とかチアーラがそんな感じに言ってたわね」
もう少し細かく言うと「イメージを記憶した魔力が体外に放出され、その魔力が魔法へと質を変化させることで発動する」んだけど、概ねガーナの言った通りだ。
「そうそう――って、うん……?」
愚痴のような呟きに対してガーナが返してきた言葉と改めてあたしは何かが引っかかった。
今ガーナが言ったことって『実は、魔力に意識を向ける時に無意識に「こういう魔法をつかうよ」っていう意思やイメージを魔力に伝えていて、魔力はその意思に従って魔力が動いているから魔法が発動する』っていう感じにも言えるんじゃないだろうか。「イメージを魔力に伝えている」って言うのは何の根拠もない想像だけど、もしそうなら「魔力を自分の思った通りに動かす」こともできるんじゃないかな……?
あたしは今思いついたことをガーナに説明してみるとガーナも「確かにあり得るかもしれないわね……」とつぶやいていた。
ガーナもこの反応だし、やるだけやってみても良いかもしれない。
「あ、でもこのくらいだったら昔誰かが試してみててもおかしくないよね……?」
「そうかもしれないけど……とりあえずやってみたらどう?……あなたならワタシの視界で魔力も見えるんだし」
「確かに、魔法は発動させずに掌の上に集める感じでいっか――とりあえず【共有】はしないでやってみる」
チアーラさんにも「聞くことは悪いことじゃないけど、何でもかんでも試しもしないで聞くのはよくない」って言われたことがある。とりあえずやってみてダメだったらチアーラさんに聞いて盛ることにしよう。
魔力が勝手に動くくらい大雑把だから、多分魔力に集中しながら「ここに集まれ~!」って意識したらできると思う。そう考えたあたしは左の掌を前にだして、そこに魔力が集まるように体内魔力に意識を向ける――ちょっと試すだけだから魔力は少なめで意識しよう。
「むぅ……ん~……?」
何となく魔力が掌の上に何かがある感覚がする……ような……しないような……微妙な感覚だった。
自分の魔力であれば体外に出た魔力も知覚できる――見えるわけでもなくなんとなくそこにあるかもっていうのが分かる程度らしいけど――と聞いたことがあるから、まずは【共有】しないでやってみたんだけど……今まで特別意識なんてしてなかったから、正直今感じてるものが魔力なのか気のせいなのか分からない。
「……ガーナ【共有】するよ」
「まぁ、ワタシが言い出したことだものね……でも頭が痛くなったらすぐにやめるのよ?」
「うん、ありがと」
結局、あたしは【共有】によってガーナの視界を通して確認することにした。
そうして【共有】によって頭の中に浮かんでくるガーナの視界に、目を閉じて集中すると――あたしの掌の上に、ちょうど掌くらいの大きさの球状の白い靄が集まっているのが見えた。
「やっ――いや、喜ぶ前に先にこれが動かせるか試さないと……!」
あたしが意識した通りに掌に魔力が集メルことができると分かって喜びそうになったけど、今のままでは体内にあった魔力があたしの意思に従って掌に集まっただけ。問題はあたしの身体から出て掌の上に集まったこの魔力を、更に動かすことができるのか。
あたしはそれを確認するために、引き続き【共有】でガーナの視界を通して魔力を視ながら――今度は掌の上にある魔力に意識を向ける。そして、掌に魔力を集めた状態でその場でグルグルと回るように循環するように意識すると……掌に集まっていた白い靄――魔力がその場でグルグルと回り始めた。
「やったじゃない!」
「うん!――そうだ、せっかくだしこのまま結界にできるか確認しちゃおう!」
魔力をその場に留めて循環させるだけでもとてつもなく集中している――多分、集中が切れたらこの魔力もそのまま霧散してしまう気がした。それに【共有】はまだ長い時間は出来ないから、頭痛がする前に色々試した方が良いと思った。
あたしは魔力を球状に循環させたまま、その魔力が結界になるように意識する。
すると、循環していた魔力が少しずつその動きを止めて球状にとどまり、掌の上に球体の結界が現れた。
「できたぁー!」
魔力が結界に変わったことに喜んだ途端――パリンッ――と音を立てて結界が壊れてしまう。嬉しくて思わず握り潰しちゃった……まぁ、魔力量は少なくって意識してたし仕方ないか。
ともかく、これで自分の意思で魔力を動かすことと、その魔力で結界を創り出せることが分かった。あと多分だけど、球状の結界になったから、多分この魔力で作った形の結界が出来上がるんじゃないだろうか――これに関しては今後試していくしかないかな。
う~ん、思ったよりも簡単にできたんだけど……なんで誰も知らないんだろ……いや、これは単純にあたしが知らなかっただけで、チアーラさんの事だから自分で気づかせるとかそんな目的があったのかも……いや、これは後でチアーラさんに聞いてみよう。
「これが分かっただけでも良いんだけど……せっかくだし、もうひとつだけ確認しておこっか」
あたしが確認したいのは、制御できる魔力の最大量。
以前大量の魔力を消費しても良いから、凄く硬くて凄く大きい結界を創り出そうとした時があったんだけど、その時は何も起きずに終わった。あの時魔力が一気に抜けた感覚と倦怠感が襲ってきたから魔力が消費されたのは確実だと思う。つまりその大量の魔力が「魔法を使うって意思」だけでは制御できなくて霧散したんじゃないかと思うんだよね。
だから意識して魔力を制御できると分かった今、どの程度の魔力量までなら制御ができるか確認してみたい。後は、今は初めてだから少ないんだろうけど、これを続けていくうちに慣れて制御できる量が増えるんじゃないかと思ったからだ。
「さっきと同じ様に球状で循環するように魔力を集めて……大きさは同じでいいか」
もう一度【共有】でガーナの視界を通して掌の上に集めた魔力を確認しながら、今度はそこに魔力を少しずつ足していく。そうして魔力を足し続けていくと、球状に循環していた魔力が少しずつ形を崩し始めた。
まぁ、制御の上限に達しても霧散するだけだろうし、それまで魔力を足し続けてみ――
――ボンッ!!!
「うわぁ!?」
「きゃぁ!?」
魔力を足し続けていると、掌に集めていた魔力が……なんと爆発した。
そしてその爆発によって、あたしの身体は軽く吹き飛ばされ、地面を二度三度転がった。更に魔力を集めていた左手を見ると、切り傷がいくつも刻まれていた。皮がすこし切れてるくらいで大した怪我じゃなかったけど、びっくりした。
「今の音はなに!?」
「アーシス様一体何がありましたの!?」
なんで爆発したのか分からず、あたしとガーナが唖然としていると、爆発音を聞きつけたチアーラさんとロザリアさんがこっちに走って来ていた。
とても慌てた様子で心配してくれる二人に、あたしはガーナと一緒に試していたことを説明すると、二人とも驚いたような表情を浮かべていた。
聞くと、直接魔力を動かすことができるなんて聞いたことが無いらしい――試した人はいなかったのか聞いてみると……試した人はいるけど、そもそも魔力の場所や形などの詳細なんて把握のしようがないから、早々に断念されたらしい。
あたしみたいに【共有】ができなくても【魔力感知】の適性がある人に手伝ってもらえばできたんじゃないの?――とも思ったんだけど、そもそも【魔力感知】は歴史上でも数える程度しか確認されていないらしい。当時試した研究者たちも適性者を探したらしいけど、結局見つからなくて諦めたんだとか。
「とにかくこの件については陛下に報告が必要ね……」
「そうですわね……しかし明日の日の出には氾濫の対応のためここを出なければなりませんわよ?」
「詳しい話は氾濫が終わった後にして……先に簡単な報告書でも届けさせましょう」
あたしが色々考えているうちに、そんなふうに話が進んでいた。多分、国王陛下への報告はあたしも一緒に行かなきゃダメだよねぇ……国王陛下は気の良い方だけど、流石に直接会うのはちょっと緊張するんだよね。
「アーシス、その訓練をするのは構わないけれど、私がいる時以外はダメよ?」
「うぇっ?」
「当たり前でしょう!今回は少し皮が切れたくらいで済んだけれどもっと大怪我してたかもしれないのよ!?」
「……」
「良いわね?」
「ぁい……」
チアーラさんに言われて、魔力量を少なくすれば大丈夫だと思ったんだけど……その考えを見抜かれたようにチアーラさんが笑顔で釘を刺して来る。
チアーラさん本気で怒ってるのが分かる。多分内緒でやってバレたら一日中お説教になる気がするから大人しくチアーラさんの言うことを聞くことにした。
そうして爆発騒ぎは終わり、あたしとガーナは国王陛下――ローベルト様への報告書を作るための手伝いをして、氾濫後にチアーラさんと一緒に城に行くことになった。
前やった時何も起こらなかったから大丈夫だよね→爆発……なんで?
そしてチアーラにくぎを刺されて大人しく従うアーシスでした。
★次話は01/25投稿予定です。




