第五十四話 ―修羅の時間・キマイラ―
第五十四話目です。
さて再びチアーラ視点です。
間が空いてすみません……
本来、魔物とは動物が魔力によって変質・凶暴化した存在であり、元となった動物以外の特徴は存在しない。
しかし、ボロ小屋の壁を破り、男に従うようにこちらを睨みつけてくるのは、複数――少なくとも3種類分――の魔物の特徴を持つ"キマイラ"と呼ばれる魔物。
この魔物は複数の魔物が混ざった姿をしていて強さも個体ごとに異なるのだけど、それ以外には現状何も分かっていない謎の存在。
実は以前からその存在は他国で確認されてはいたものの、このあたりでその姿を確認したことはない。
ここに存在しないはずの魔物が何故この場所にこんなのがいるのかは分からないけれど、3種類程度なら大したことはないわね。
「その女を喰い殺せキマイラァァァ!」
「――考えている暇はないみたいね!」
「コイツがいればテメェなんざゴミ同然だぜぇ!
ギャハハハハ!!」
どうやら"キマイラ"は男に従っているようで、男の指示によって私を噛み殺そうと牙を向けてくる。
もし男が従えているならまずはあの男を捕縛した方が良さそうね。
「"狐筆頭"、あなたは男を捕らえなさい!」
「承知いたしましたわ!」
私が"キマイラ』と呼ばれた魔物の相手をしている間に、"狐筆頭"には男を捕らえてもらいましょう。
私がこの魔物に気を取られている間に逃げられるわけにはいかないもの。
私は"キマイラ"を男から離すため、一瞬だけ雷を纏って後ろに下がる。
――ガァァァ!!
私が下がると"キマイラ"も私を追って前に出てくる――と同時に今度は爪を振り上げ――ることはなく、また私に咬みつこうとしてきている。
私は迫ってくる獅子の横顔に――ドゴッ――と蹴りを叩き込む。
――ギャウッ!?
どういうことかしら、一瞬前まで爪を振り上げようとしていたのに……もしかしてあの男の言った噛み殺せという命令に従っているのかしら?
それにしても違和感があるのよね、もしあの男の従魔だとしても自由を奪うことなんてできないもの。
そういう風に調教されているとも考えられなくもないけれど、それならそもそも爪を振り上げようという素振りもしなかったはずだから、これもないわね。
――ガルルル……!
うん?何か様子がおかしいわね、苦しんでいるような……?
さっきの蹴りもそこまで力を入れていないと思うのだけれど。
もしかして――
《"絢華様"男の方は捕えましたわ》
「ちょうど良いわ」
と、通信用の魔道具を通して、"狐筆頭"から男を捕らえたと連絡が入った。
苦し気な"キマイラ"の様子から少し思ったことがあるのよね。
"狐筆頭"が男を捕らえたみたいだし、少し確認してみることにしましょうか。
「男の意識は?」
《まだありますわ――少々煩かったので口を利けないようにしてはありますが》
「そう、それなら男の意識を奪ってもらっても良いかしら?」
《承知いたしましたわ》
私の確認したいことは、あの男の意識が残っているとできないのよね。
もし私の考えが合っているなら――
《男を気絶させましたわ》
「ありがとう」
――ガルァァァァァァァァァ!!!!!
"狐筆頭"から、男の意識を奪ったと報告を受けた瞬間、先ほどまで苦しんでいた様が嘘のように"キマイラ"は勢いよく吠えた。
《それと、男が箱のような――何かしらの魔道具と思われる物を持っていましたわ》
「当たってほしくなかったけれど、やっぱりそういうことね……」
《どうされましたの?》
「あとでゆっくり説明するわ」
私は通信を終え、今にも襲い掛かってこようとしている"キマイラ"を睨みつける。
後はこと"キマイラ"がどんな動きをするのか、というところね。
――ガァァァ!
少し時間がかかっても確認しようとも思っていたのだけれど、そこはあまり気にする必要はなかったみたいね。
再度吠えた"キマイラ"は先程までとは異なり、右前足の爪を振りかぶった――今度は止めずに。
――ガゥ!?
私はそ右前足に手を添え、その勢いを利用して私の後方――"キマイラ"の進行方向にある木に向けて投げとばす。
"絶狐"が"般若"に教えていた合気、あの子が覚えたと聞いて私も"絶狐"に教えてもらったのよね。
――ガルゥ……ガァァ!!
投げ飛ばされた"キマイラ"は木にぶつかる前に鷲の後ろ脚で勢いを殺して、今度は左前足の爪を振りかぶった。
私が左前脚に手を添えて、その爪をつらして防ぐと今度は右前足の爪を振り下ろす。
その後も先ほどまでとは打って変わって、咬みつき以外の攻撃も向けてくる。
「本当に当たって欲しくはなかったわね……」
私は咬みついてくるその横顔に思い切り蹴りを叩きこみ、"キマイラ"は転がるように吹き飛んだ。
"キマイラ"は立ち上がろうとするが、私の蹴りによって脳が揺れたためかフラフラとして立ち上がるどころではなかった。
「そろそろ終わりにしましょう――【蒼電・纏い】」
私は右腿に挿した一本の短剣を抜きながら、青色の雷を纏う。
"般若"との模擬戦で纏った黄色い雷よりも、少しだけ強力な雷。
とはいえ、【雷電・纏い】とは比較にならない程に力も速度も上がる。
私は蒼色の雷を纏って、一瞬で"キマイラ"の目の前に移動し、短剣をその頭に突き刺す。
そして――
「もう、休みなさい――【蒼電・避雷針】!」
身体からその蒼色の雷を放出する。
その蒼電は突き刺した短剣に収束していき、"キマイラ"の身体を外からも中からも焼いていく。
時間としてはほんの1、2秒程度――その短時間でその身体は焼き切れ、絶命した。
「お疲れ様です"絢華様"」
「ええ、お疲れさま」
"キマイラ"が絶命すると同時に、私の下に"狐筆頭"が捕らえた男を連れて合流する。
彼女は先ほど連絡のあった魔道具と思われる箱を持っている。
「それにしても、コレは……」
「あまり良い予感はしないわね……。
早く報告をしたいところだけれど、まずは他の子たちの報告を待たないといけないわね」
"キマイラ"の出現に"狐筆頭"が回収した魔道具――陛下への報告もそうだけれど、先に"狐筆頭"にも説明しないといけないわね。
他の子たちのことも心配だし、考えなければならない事が多いわね……。
複数の魔物が混ざった様な魔物"キマイラ"が現れました。
同時に謎の魔道具?も発見。
チアーラは何か気づいたようですが、それは一体?
★次話は12/25投稿予定です。




