第五十三話 ―修羅の時間・家屋地下―
第五十三話目です。
今回はカイナート視点でお送りします。
僕とモルガナちゃんは盗賊の一員がいる商店街の空き家、その家の中に来ている。
家の中からは音はせず、地下からは音が聞こえてくる。
音を聞けばある程度の情報を得ることができるのだが、立てる音を限りなく小さくしているらしく、完全には把握できない。あくまで僕は人より耳が良いだけだから。
「仕方ない【収音】」
僕の魔法は風系統に属する、振動の魔法。
音というのは簡単に言ってしまえば空気の振動で、その空気の振動は距離が離れたり障害物があるとその振動は次第に小さくなっていく。
そこを振動魔法で音の聞こえる距離を延ばしたり障害物を貫通させたりすることで、僕の耳に振動を届けて収音することができる。
「どうっスか、カイナートさん?」
「空き家に地下室があること、あとは8人ということは確かだね」
「流石っスね~、自分はカイナートさんほど魔力操作が得意じゃないっスからねぇ」
「ははは、まぁ同じ風系統でも種類も違うしね。
それに、僕の場合は魔力操作を鍛えないと殆ど役に立たないし」
そう、振動の魔法は正直言って使い勝手が悪い魔法だ。
単純に強い振動を発生させれば気絶相手をさせられるんだけど、それだと関係ない人にまで被害が出てしまう。
だから魔力操作を鍛えて指向性もたせる必要がある。
「音だけだから確定は出来ないけど、対した武器も特に持ってはいないようだね」
「盗み専門のやつらっぽいっスし、そりゃそうっスよね」
モルガナちゃんが言う通り、ここにいるのは盗賊団の中でも盗みを専門としている者たちだ。
アーシスちゃん達が向かった倉庫にいる者たちが騎士と相対したり陽動をしている間に、ここにいる者たちが盗みを働く、といったところだ。
多少力は身に着けているだろうけど、忍び込んで盗みを働くのに武器は邪魔だからね。
「捕縛については予め決めておいた通りで問題ないかい?」
「問題ないっス」
「さて、そろそろかな」
正直もう少し情報を集めたいところだけど、多分そろそろチアーラさんからの連絡が来ることだろう。
僕とモルガナちゃんは、"絶狐"と"白狐"の面を取り出した。
《準備は良いかしら?》
思った通り、僕とモルガナちゃんの通信用の魔道具からチアーラさんの声が聞こえてきて、僕とモルガナちゃんは仮面をつけた。
そして、僕は"絶狐"、モルガナちゃんは"白狐"として意識を切り替える。
「問題ありません」
「問題ないっス"絢華様"」
この連絡が来たということは、行動開始の合図が来る頃だろう。
《さあ、ここからは修羅の時間よ。
不届き者に思い知らせましょう、思う存分――舞いなさい》
「「了解」」
"絢華様"からの合図を受け、僕と"白狐"ちゃんは行動を開始する。
「行くよ"白狐"ちゃん。【消音領域】」
振動魔法を使って、この家を音を打ち消す領域で囲う。
発生した振動に対して、僕が振動魔法で振動をぶつけて打ち消すことで、この範囲の外に音が漏れないようにできる。
完璧にとはいかないけれど、爆発音とかじゃなければ耳を澄まさないと聞こえないくらいにはできる。
「それじゃ"白狐"ちゃん、あとはよろしく」
「任されたッス」
この魔法には一つだけ欠点があって、集中力が必要だからこの間僕は動けなくなる。
だから盗賊達の捕縛は"白狐"ちゃんに任せることになる。
まぁ、彼女は広範囲での殲滅力も高いから心配する必要はないけど。
「じゃあ、行ってくるっス」
そう言って"白狐"ちゃんはこの家の地下に向かう階段を下りていく。
そして地下室の入り口についた彼女は扉を開け、中に入っていく。
『なっなんだテメ――』
『なにが――』
――ドゴォ!!!!
『――ぐぁっ!?』
『――ぎゃぁぁ!?』
一瞬、大きな音が鳴ると、続けて盗賊達の悲鳴が聞こえてくる。
"白狐"ちゃん、やりすぎてないかな……?あの子細かい魔力操作が苦手で魔法の使い方が大雑把なところあるから少し心配だなぁ……。
音や盗賊達の悲鳴がなり止むと、地下室の扉から"白狐"ちゃんが出てくる。
「もう終わったっスよ」
「了解」
"白狐"ちゃんの報告を聞いて僕も地下室に入っていく。
「全員気絶してるみたいだね。
【領域解除】」
地下室に入って、盗賊達が気絶していることを確認した僕は【消音領域】を解除する。
"白狐"ちゃんは盗賊達の拘束と持ち物の確認を始め、僕はこの地下室の荷物を調べた。
今回は盗賊達を捕らえることが一番の目的だったけど、それとは別で調べなきゃいけないこともある。
「う~ん、こいつらはアレは持ってないみたいっスね」
「だね、情報もなかったよ」
「ダメ元っスからね、仕方ないっスよ」
僕達が探していた物は、少なくともこの盗賊達は持っていなかったようだ。
「じゃぁ、"狐筆頭"には僕から報告を入れておくから」
「自分は騎士達呼んでくるっスね」
そう言って"白狐"ちゃんは地下を出て行った。
僕は"白狐"ちゃんが騎士を呼びに向かったのを確認すると、通信用の魔道具を取り出して魔力を流した。
相手は"狐筆頭"だ。
《はい、こちら"狐筆頭"ですわ≫
「こちら"絶狐"全員捕縛完了したよ。
それと、アレは盗賊達はここの盗賊達は持っていなかった、情報も無かった」
《承知いたしましたわ》
それだけ言うと僕は通信を終えた。
アレについては情報はあるんだけど、調べようにも実物が無いと情報だけじゃどうにもならない。
あまり期待はしていなかったけれど、"白狐"ちゃんの言ったように仕方ないかな。
「そういえば……」
僕はここでひとつ気付いてしまった。
"羅刹"さんと"般若"ちゃんも僕達と同じように調べることになっているんだけど、"般若"ちゃんへの説明は"羅刹"さんに任されていた。
"羅刹"さんは戦闘では頼りになるんだけど、こういう連絡とかを忘れることがある。
「いや、まさかね……」
いくらあの人でも、これも仕事の一つだから忘れるわけないよね……。
一度気づいたら気になってきた、正直ちょっと不安だ……。
一瞬で壊滅した……姉ちゃん凄いっすね……
兄ちゃんも音を通さないって意味が分からねぇっす。
仕事を終えたカイナートには心配事が……きっと大丈夫だよ♪
★次話は12/20投稿予定です。




