第五十二話 ―修羅の時間・倉庫にて2―
第五十二話目です。
五十三話に続きアーシス視点です。
今度こそアーシスの戦闘ですわよ!
"羅刹"の方は大丈夫だろうし、あたしはあたしの相手に集中しようか。
気が付くと目の前には3人しかいなかった、あと一人は――多分あたしの後ろに回り込んだのかな?
「死ねガキィ!」
「ガキじゃないよ」
まあ仮面をつけてるとはいえ見た目は子供だから仕方ないんだけど、「ガキ」とか言われるとちょっとイラッとする……。
正面から向かってくる3人がほぼ同時にナイフを振り下ろしてくる、3人ともただ振り下ろしてきてるだけだから避けるのは簡単、で残り一人は――
「アーシス、後ろに一人周りこんでるわよ」
「まぁ、だよね」
予想していた通り、残りの一人はあたしの後ろに回り込んでいたみたいで、正面3人は囮で後ろの一人が本命ってところかな。
後ろに回り込んでいる男も正面の3人より少し遅れてナイフを振り上げていて、正面の3人に気を取られているうち、あるいは避けた瞬間に後ろの一人が仕留めるといった流れなんだろう。
普通の騎士とかだったら対処は大変だったかもね、できないとは言わないし思わないけど。
あたしはまず、正面の3人が振り下ろしてきたナイフを、左を向くように右に身体を反らして避ける。
「後ろの奴もあなたの動きに反応してるわよ」
「うん」
予想通りではあるけど、"白蛇"がそう言うなら確定だね、"白蛇"がいるおかげで把握がしやすい。
後ろに回り込んでいた一人は、あたしの動きに反応してあたしの避けた先にナイフを振り下ろしてきていた。
実際あたしは身体を反らして最低限の動きで避けて、殆ど移動してないから反応も何もないんだけどね。
「はっ、とぅっ!」
「ぐはっ……!?」
「なんなんだこのガキ……!?」
「だからガキじゃないって……」
まずは、正面3人のうち右側にいる男の顎に右手の裏拳を打ち込み、続けて真ん中にいた男の顎に左手で掌底を叩きこむ。
二人の男は顎に衝撃を受けたことで気を失ってその場に倒れる。
顎に強い衝撃を与えると、脳が揺れて頭蓋骨に衝突する――いわゆる脳震盪を起こして気絶したということだ。
「後ろ来るわよ」
「うん」
「後ろががら空きだぜぇ!」
正面の2人を気絶させると同時に、後ろに回り込んでいた男がナイフを振り下ろそうとしていた。
せっかく後ろに回り込んだのに何で声をあげながら斬りかかってくるんだろう、そんな事したら声が聞こえた時点で気づかれるのは分かりきってる事なのに……まあいいか。
「死ねガキが!」
「だからガキじゃ――全然話聞かない、なぁっ!」
「ぐおぁ……!?」
あたしは掌底を出した状態から左足を軸にしてナイフを避ける。
そしてその勢いのまま、右足で後ろ回し蹴りを男の横腹に叩きこむ。
その衝撃によって男は気絶して転がっていく――そこまで力は入れてないから骨とか内臓とかには大したダメージはないはずだ。
「調子に乗ってんじゃねぇぞガキィ!!」
「――っだから、ガキじゃないって言ってんだろうが!!」
最後の一人が左手に持ったナイフを突き出してくる――男の狙いはあたしの首だ、あたしは頭を左に倒して避け、ナイフはあたしの顔の右側ギリギリを通りすぎた。
そしてあたしは右手でナイフを見っている左手首を、左手で男の胸倉をつかんで、男が突っ込んできた勢いのまま誠意投げる。
「ぐは――!?」
背中から地面にぶつかった衝撃で、最後の一人も無事気絶させた。
念のためこの4人以外にもこちらに向かって来ていないかを警戒していると、"白蛇"がなんとも言えない顔であたしの顔を見ていた。
「"般若"あなた……」
「あっ……ガキって言われすぎて、つい……」
"白蛇"が呆れたように話しながら、最後に背負い投げで気絶させた男を見たことであたしも気が付いた。
うーん、"羅刹"との訓練の影響でたまに口が悪くなっちゃう……ガキって何度も言われてイライラしてたせいで、力が入りすぎた。
それでもちゃんと手加減できたし特に骨折もしてない、これであたしの方は終わりだ。
「普段気にしてないように見えて、子供って言われるの嫌なのね……?」
「いや、普段もあんまり子供って言われたときは気にしてるよ、自分でも子供にしか見えないのは分かってるから半ば諦めてるだけで……」
あたしは"白蛇"にそう返しながら遠い目をしていたと思う。
自覚はしてるし、もう諦めてるからから別に普段から気にならないんだけど、あんまり言われすぎても頭にくるんだよね……。
――っと、いけない、今は仕事に集中しないと。
「さて、"羅刹"はどう――」
「おう、そっちも終わったみてぇだな」
"羅刹"の方がどうなっているか見たら、ちょうど最後の一人を殴って気絶させているところだった。
人数差あるのにあたしと同じ時間で倍以上の相手を気絶させてるよ……流石だなぁ。
「なんなんだよ!
"修羅"なんて、噂じゃなかったのかよ……!
くそ、こうなったら――」
残りは一人なんだけど、その最後の一人は逃げようとしたところをあたしの結界に阻まれていた。
"羅刹"が言っていた通り、その男は取り乱していた。
「俺にはコレがあるんだよぉ!」
逃げられないと悟ったのか、声を荒げつつも男はこちらに向き直って、懐から注射器のようなものを取り出そうとしていた――何かは分からないが、何かしらの薬だと思う。
「まずいぞ"般若"!」
「あれ、なんか嫌な感じがするわ!」
「え、なに!?嫌な感じ!?」
「"般若"やつを止めろ!
――できれば殺さずにな……!」
羅刹はあの薬について何かを知っているらしく、あたしに男を止めるように声をかけてくる。ガーナも嫌な感じがすると言っているし……!
問題はその注射器を自分に使おうとしていて、あたしも"羅刹"も止めるには間に合わないってことだ。
「――ったく、無茶言うなぁっ……!?」
とはいえ、羅刹が止めろと言っている以上、止めないわけにはいかない。
あたしは急いで外套の内側に仕込んでいる苦無を取り出し、注射器を持っている男の腕に向かって苦無を投げつける。
注射器を持っている男の腕に投げて、刺すことができれば止められるだろうから。
「クソッ……!」
あたしが投げつけた苦無は男の腕には当たったが、切り傷を付けただけで、刺さるには至らなかった。
急いだせいで、少し狙いがずれた……!
切り傷程度では男の腕は止められず、注射器は男の首に射し込まれた。
「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
注射器を自分の首に射した男は突然苦しみ始めた。
何がどうなっているのかは分からないが、今のうちに拘束した方が良さそうだ――あんまり良い予感がしない。
「"般若"やつを拘束しろ!」
「了解!」
あたしはすぐに苦しんでいる男の下に向かい、左腰に付けた鉄糸の筒を外して鉄糸で男を拘束した。
拘束が終わると、急に男が落ち着きを取り戻した――息はしているようで死んだわけではなさそうだ。
――バチッ、ブチブチッ!!
嘘でしょ……糸になってるとは言え鉄製なのに、鉄糸がちぎられた……!?
音の正体は男を拘束している鉄糸がちぎられた音だった。
見てみると、男の身体が膨れ上がっていく――筋肉がどんどんと膨張しているようだ。
「ガァァァァァァァ!!!!!」
あたしが混乱した一瞬の内に、鉄糸をちぎって拘束から抜けた男の拳が迫って来ていた。
その拳は人間の速度ではなく、今からじゃ避けることはできない……!
「"羅刹"!」
「え、ちょっ――」
「おい"般若"!」
男の拳は避けられない、結界も間に合わない、この拳を受ければあたしはまだしも、"白蛇"は無傷ではいられない。
そう思った瞬間、あたしは"白蛇"を首元から話、"羅刹"に向けて投げていた。
そして――
――ボッ
男の拳を受けたあたしの身体は吹き飛ばされ
――ドゴォ!!!!
その音と共に倉庫の壁に激突していた。
薬(?)を打ち込んんだ男が苦しみだして筋肉モリモリに!?
そいつに殴り飛ばされたアーシスは無事なのか?
★次話は12/15投稿予定です。




