第五十一話 ―修羅の時間・倉庫にて―
第五十一話目です。
今回はアーシス視点に戻ります。
初仕事始まります!
次の日の夜、あたしはブラッドのおっちゃんと、盗賊達が潜伏いていると言う倉庫にやってきた。
装備は身に着けてるけど仮面はつけてない、チアーラさんから連絡が来たらあたしは"般若"おっちゃんは"羅刹"としての行動を開始することになっている。
で、それまではその倉庫の屋根で二人並んで座って中の様子を見ている。
正面とかにいるとすぐにバレそうだし、離れすぎても中の様子を把握できないから、結界を足場にして上ってきたんだよね。
「さて、"般若"にとっては初の仕事だな。大丈夫か?」
ブラッドのおっちゃんからそんなことを聞かれたのだが、あたしはいまいち意図が分からなかった。
「人間を相手にするんだ、お前の覚悟は大丈夫かって聞いてんだ」
おっちゃんにそう言われてようやく意図が分かった。
クラウディア様から修羅の話を聞いた時から覚悟はできている、とはいえ実際に人間を相手するのは初めてだからね。
おっちゃんなりにあたしのことを心配してくれてるんだろう。
「もちろん覚悟はできてるよ。もちろん、すすんで人の命を奪おうとは思わない。
でも、それで誰かが傷ついたり、死んだりするのは嫌だから、必要となれば躊躇はしないよ」
「……」
「もし、相手を殺すことになったら、あたしはその命も背負っていく。
殺すことに慣れたりはしない。相手がどんな人だろうと、一つの命であることは変わらないんだから」
「そうか、それがお前の覚悟なんだな。」
今まであたし自身が殺した相手はちゃんと覚えている、母さんを殺した男のことも魔物の森の魔物のことも。
感情に任せて人を殺してしまうことが無いように。そして、いざという時に迷わないように。
何より、母さんはもういないけど、あたしが誰かを守れるようになったことを母さんに胸を張って言えるように。
「だが、もし辛くなったらすぐに言え、俺でも姉御でも良い。"狐"共も含めて俺たちはお前の家族として、お前のことを支えてやる」
「ワタシのことも忘れるんじゃないわよ?」
「うん、ありがと」
あたしの考えは自分でも甘いと思うけど、それでも支えてくれると言ってくれた。
まぁ、おっちゃんが修羅の皆のことを家族って言ったのは少し驚いたけど、何年も一緒に過ごしてきたんだから皆が支えてくれるのはとっくに分かってるからね。
「それでおっちゃん、この倉庫には荒事担当の奴が集まってるって話だったよね」
「その通りだ。民家からは離れてるからある程度なら騒ぎは問題ねぇ」
「了解、んー、見たところ情報の通り15人だね」
「そうね、魔力の糸も見えないから従魔契約を結んでいる人間もいなさそうよ」
"白蛇"には人と従魔の間の魔力の糸が見えるからね。従魔契約を結んでいる人が相手なら、その従魔次第では戦い方を考えなきゃいけないから。
おっちゃんも横で「便利だなぁ……」とか言ってる。
そんなに見ても"白蛇"はあたしの従魔で友達なんだから渡さないよ……?
「まぁ、荒事専門の野郎共とは言え、俺たちに比べたら大した力はねぇ」
「だね、寧ろ手加減しないと、おっちゃんなら殴っただけで頭吹き飛ばしそう」
「流石にそこまでの腕力はねぇよ……」
「あなた達なんて会話してるのよ……いくら強くたって油断は駄目よ?」
「うん、分かってる」「わーってるよ」
おっと、"白蛇"に叱られてしまった……まぁ、いつも油断は絶対にするなって言われてるしね。
あたしもおっちゃんもそんな話をしながらも気は抜いていない。いつ何が起きても対処できるように。
《準備は良いかしら?》
おっちゃんとあたしの持っている通信用の魔道具から声が聞こえてきて、あたしとおっちゃんは仮面をつける。
あたしは"般若"、おっちゃんは"羅刹"として意識を切り替える。
「問題ないよ"絢華様"」
「問題ねぇぜ"姉御"」
声の主はチアーラさん――修羅としての名前は"絢華様"――の声だ。
"羅刹"はいつもと変わらず"姉御"って呼んでるけどね。
そろそろ"絢華様"の合図の頃かな。
《さあ、ここからは修羅の時間よ。
不届き者に思い知らせましょう、思う存分――舞いなさい》
「「了解」」
これが"修羅"の行動開始の合図なんだって。聞いたところによるとこの国の部隊は各々隊長が合図を決めるらしい。
初めて聞いた時は正直少し恥ずかしいと思ったけどね、訓練中に何度も聞いて流石に慣れた。
「じゃあ行くよ、"羅刹"、"白蛇"」
「おう」「ええ」
"羅刹"と"白蛇"の返答を聞いたあたしは、さっきまで中の様子を見ていた窓のガラスを割った。
まずはあたしと首に巻き付いている"白蛇"が、続いて"羅刹"はそこから倉庫の中に飛び降りる。
「なっ、なんだぁ!?」
あたし達が倉庫に飛び入ってきたのを見て、中にいた男達は驚いたような声を上げた。
まぁ、全身真っ黒で謎の仮面をつけたよく分からん二人組がいきなり上から飛び込んできたら、そりゃ驚かない方がおかしいよね。
しかも見るからにマッチョと子供ときた――いや、あたしは身長だけ見たら子供に見えるってだけだけど……。
「頼むぜ"般若"」
「了解――【包囲結界】」
男たちが驚いているうちに、予め決めていたように倉庫全体を結界で囲う。ここから逃げられないようにするためだ。
まぁ、いくらこちらの方が強いとはいっても、人数が多いと逃げられる可能性もある。
あたしは追跡はできるけど"白狐"と"絶狐"程じゃないし、『羅刹』は追跡はあんまり得意じゃないからね。
因みにこの結界はほぼ透明で生成しているから、かなり注意して見ないと分からない。
前まではこんなことできなかったんだけど、チアーラさんと模擬戦の後に訓練してできるようになった――魔力操作がそれだけ上手くなったってことだと思う。
わざわざ透明にする必要はないと思ったんだけど、"羅刹"曰く――
「目に見えて閉じ込められてるってわかるより、見えない何かに阻まれてるって状況の方が相手に恐怖を与えやすいし、戦意喪失させやすいんだよ」
――とのことらしい。
確かに、見えない壁に阻まれて逃げられないって結構な恐怖だと思う。
"羅刹"よくこんなこと思いつくよね、怖いよ……。
まぁ、その方が戦意喪失しやすいってことは同意だから、言われたとおりの結界を張ってるわけだけど。
「お、おい……こいつら"修羅"ってやつじゃねぇのか……?」
「黒ずくめで仮面をつけてるってのは聞いたことはあるが……」
「なんで俺たちのことがバレてんだよ……!」
少し落ち着い男たちがこちらを見てそんなことを口にした。
この男たちも"修羅"のことを知っているっぽいけど、まぁここにいるってことはあくまで噂程度なんだろうね。
っていうか、こっちが何も言ってないのに自分たちが犯罪者ってことを言っちゃってるんだけど、なんでだ……?
とはいえ、この人数だし犯罪者どころか盗賊団の一員っていうのは確定と思って良いだろうね。
「関係ねぇ、所詮は噂だろうが!」
「俺たちのことを見つけたのは褒めてやるが、残念ながら俺たちは殺しが専門なんだよ」
「奴らは二人――しかも片方はガキだ、さっさと始末しろ!」
その声を合図に男たちはそれぞれナイフを抜いて構える。
いや、あたしの見た目というか身長考えると子供だと思われてもおかしくないとは思ってたけど……。
まぁ、子供だと思って油断してるみたいだし、ある意味ではこの見た目も武器ひとつの武器になるってことかな。
それはさておき、まずは男たちを対処しないと。
「"般若"やるぞ」
「うん、"羅刹"はやりすぎないでね。
"白蛇"は死角を見ておいて、大丈夫だとは思うけど油断は禁物だからね」
「そうね、任せなさい」
男たちは4人があたしに、10人は"羅刹"に向かってきている。
子供だから人数が少なくて十分で、"羅刹"は明らかに強そうだけど数でおせば余裕、とか考えてそうだ。
男たちの動きを見る限り、一般の騎士だと1対1でも余裕で対処できそうな実力――二人だとどうかな、ともかくこのくらいなら棍や短剣も必要なさそうだ。
あたしは構え、目の前の4人の対処に集中することにした。
男たちは"修羅"のことを噂だと思い込んでます。
噂だと良いね♪
って言うか戦闘シーンまで書けなかった…おめぇらさっさと襲い掛かれよ!
★次話は12/10投稿予定です。




