第四十九話 ―修羅の時間・始まり―
第四十九話目です。
そろそろ修羅のお仕事始まりますかね...
会議から数日経過したところで、チアーラさんが"狐"から報告が入ったとのことで、あたしたちは再び集まった。
チアーラさんからもらった書類を確認しながら話を聞いていく。
そして、分かったこととは――
「まず、氾濫まではもう少し期間はあるけど、既に国内に入っているみたいね」
「氾濫中は門を閉じますからね、それに今はクラウディア様が結界を張ってくれますし。
おかげで、そういう輩の動向が分かりやすくなったんですけどね」
「氾濫中は警備が減るけど期間中は入国できない、だからその前に入らなきゃいけないっスからねぇ」
「不断に比べりゃ減っちゃいるが、それは警備が薄いのとはちげぇからな」
話に出たように氾濫中は入出国ができないように門を閉じている。
これは、氾濫中に国外に出た人が氾濫に巻き込まれル可能性をなくすため、そして盗賊や犯罪者などのそういう輩の入国のタイミングを操るためということだったらしい。
「氾濫中に門を閉めるのは他の人を巻き込まないためというのは前に聞いたけれど、他にもそういう理由があったのねぇ」
ガーナも納得しているみたいで、ここに来てから一カ月くらいしか経ってないのにガーナも人――というか人の社会と言えばいいのかな――にも結構慣れたみたいだなぁ。
あたしも色々教えてるけど、たまに姉ちゃんとか兄ちゃんにも教えてもらってるみたいだし――おっちゃんは戦闘以外はあんまりだから除くけど――そのうちガーナに教えてもらうことにもなるかも……。
ガーナは魔物だけど知能高いし、単純な知能だけで言ったらあたしよりも高いんじゃないかなぁ。
「それで、潜伏場所は分かったんですか?」
「前に予想していた通り、郊外の倉庫と南方の森にあるボロ小屋ね」
「倉庫の方は分かるんだけど、何で森のボロ小屋までわかったの?」
以前、チアーラさんがこの二箇所に潜伏するだろうとは言っていたんだけど……郊外の倉庫はわかる、郊外となれば人通りが少なくそういう輩にとっては絶好の場所だ。
でも森のボロ小屋にいるなんて分からない、というよりボロ小屋なんてあるのも知らなかった……。
「そういう組織っていうのは事を起こす場所から離れた場所に隠れ家を選ぶものなのよ。
逃走にしろ盗んだ物の保管にしろ、その場所の付近だとすぐに気づかれるもの」
「まぁ、それで森って言うのは分かるんだけど、ボロ小屋って?」
「作ってもらったのよ、小屋が無いと森の中で野宿することになるのだけど、それだと捜索が手間なのよ……」
「あー、なるほど……」
こわぁ……これって完全にそういう輩の心理を把握して、行動を誘導してるってことだよね――しかも本人たちは気づかないっていう……。
多分チアーラさんかクラウディア様あたりの考えなんだと思う、単純な勘だけどローベルト様はそういう搦め手みたいなものは得意じゃなさそうなイメージあるし。
あたしもこういうところは見習った方が良いのかなぁ……?
「で姉御、それで潜伏場所はその二箇所だけなのか?」
「いいえ、あとは商店街にある空き家の地下よ」
「また面倒な……」
そうこぼしたのはおっちゃんだ、静かな行動が苦手だもんね。
ボロ小屋はそもそも国外の森だし倉庫は郊外だから良いんだけど、商店街ともなれば民家が多く人も多いから騒ぎになりやすい。
できるだけ騒ぎが起きないようにしなきゃいけなくなるから、おっちゃんには向かないんだよね。
「さて、例の盗賊団の潜伏場所は森のボロ小屋に郊外の倉庫、そして商店街の空き家――空き家は地下だけれど。
この盗賊団以外にも数人単独の手配者がいるわ」
「まぁ、いるっスよね……」
「とはいえそっちは"狐"と騎士達に対処してもらうから、あなた達は盗賊団に集中してもらって良いわよ」
なんで数日でここまで確定できたんだろうね……。
話しの最初に聞いたところによると、ローアブールからの資料に加え、この国の情報部の管理していた入出国者の記録、調査部隊と"狐"による調査によって、確定まで至ったと言うことらしい。
っていうかこの国の情報部すごいなぁ、入出国者とそれに伴う積み荷を全て記録しているって話だし。
「詳しくは後で話すから、まずは誰がどこの対応か話していくわね」
そう言いながらチアーラさんは今まで見ていた物とは別の書類を出した。
チアーラさんが言ったように、見たところ誰がどこの対応につくかという内容のようだ。
詳細っていうのも書いてあるけど、チアーラさんの話を聞きながらの方が理解しやすいだろうし、今は置いておこう。
「まず"商店街の空き家の地下"はカイナートとモルガナにお願いね」
「分かりました」「了解っス」
「次に"郊外の倉庫"はブラッドとアーシスとガーナね」
「了解だ」「分かった」「分かったわ」
「最後に"南方の森のボロ小屋"は私とロザリアが向かうわ」
どうやらあたしはおっちゃんと一緒に"郊外の倉庫"に向かうことになったらしい。
でも確か倉庫の人数は15人で一番多かったはず……あたしで大丈夫なのかな?
まぁ、それも今からチアーラさんから説明があるんだろうけど。
「じゃあ、詳細の方を話していくわよ
まず――」
そうしてチアーラさんは詳細について話し始めた。
ところどころあたしには分からないことはあったけど、逐一みんなが教えてくれたから理解できた。
あたしが分かんなかったのにガーナは理解できたのは正直納得いかない……あたしの知識量と大して変わんないと思うんだけどなぁ。
「――っといったところね。
行動開始は明日の夜よ、それまで装備を点検して身体を休めておくように」
チアーラさんのその言葉にあたしとガーナを含めた全員は頷いて了解の意をしめす。
あたしも貰った装備を実践では使ってはいないが、訓練では使ったから点検は必要だろう。
これがあたしの初めての仕事だ、気を引き締めていかないと。
●
国中が静かになった夜中、月明かりに照らされた倉庫の上に見えるのは二人の人影――大柄な人影と小柄な人影だ。
大柄な方は鬼の骸骨のような仮面を、小柄な方は怨嗟に燃える骨ばった角の生えた女の面をつけている。
月明かりのみに照らされたその二人は、なぜかゆったりと休んでいるようにも見える。
《準備は良いかしら?》
何処からともなく聞こえたその言葉に、二つの人影は「問題ない」と答えた。
それを合図にしてか、先ほどまで休んでいるようだった二人の雰囲気がガラッと変わった。
今では恐怖の象徴のような様相と化している。
《さあ、ここからは修羅の時間よ。
不届き者に思い知らせましょう、思う存分――舞いなさい》
続けてどこからか聞こえたその声を合図に、二人は今までいた屋根の上から倉庫の中に飛び込んでいった。
えー修羅の仕事が始まるのは次話になりました...
次話から戦闘シーン書けます、嬉しい!
★次話は12/01投稿予定です。




