第四十四話 ―装備を貰ったよ―
第四十四話目です。
サブタイトルの通り、何話か前に話が出ていたアーシスの装備についての話です。
さて、"修羅"への入隊が決まってから一週間が経った。
「アーシス訓練の前にちょっと良いかしら?」
「うん、大丈夫だけど……なにー?」
今日も変わらず、あたしの魔力操作やガーナの魔力感知の訓練をするために訓練場に向かおうとすると、居間にいたチアーラさんに呼び止められた。
居間に入ると、机の上には大きめの木の箱が置かれていた。
「何その箱?」
「ふふ、あなたの装備よ」
そう言いながらチアーラさんが蓋を開けた中身を見てみる。
(うわ、真っ黒……)
服やら靴やら色々入っているのは分かるけど、見事に真っ黒。
ところどころ装飾として灰色とか白色とかも交じってるけど、一見真っ黒なんだよね。
何でこんなに黒いんだろう……。
「見事に真っ黒ねぇ……」
ガーナもあたしと同じ感想だった。
「あぁ、この色ね。
私たちは夜に行動することが多くて、それにこの方が威圧的だから――っていう理由ね」
「あぁ、世闇に紛れてってことかぁ」
どの国どの町でも街灯くらいはある――しかしいくら明りがあるとは言え夜は暗い。
服が黒ければ、その夜闇に紛れて色々と動きやすくなると言うわけか。
「さ、着てみなさい、アーシス」
「サイズとか着心地の確認もあるし、着てみるー」
服は次の通り。
首元まである薄手の半そでのシャツ――身体にピッタリだ。
袖の無いジャケット――胸のあたりが堅めで、一応胸当ての役割もありそう。
腰下くらいの丈でフードのついた外套――丈が短めなので外套と言うより上着みたいなものだが。
脛の半ばくらいまでのズボン――結構ダボダボしてるが、裾だけ絞られている。
手袋、タイツ、靴、ベルトに、小さ目のポーチ――これに包帯やら薬やら携帯食料なんかを入れておくらしい。
因みにポーチはジャケットとかベルトにつけられるようになっていた。
●
チアーラさんに着かたを聞きながら、何とか着終えた。
来ただけだが、動きは阻害されなさそうだし、むしろ靴とかは動きやすい――訓練用のものとは全然違う。
「お~!似合ってるっスね~!」
「着心地はどう?」
「なかなか様になってんじゃねぇか」
「着心地は悪くないよ」
気づくと姉ちゃん達が三人とも居間に集まっていた。
三人とも今は仕事はないらしいから特におかしいことではないけど。
着心地が悪くないのは良いけど、それ以上にひとつ気に入ったものがある。
外套は肩――というか首元までしっかり羽織る造りになっているんだけど、首元に空間ができてるんだよね。
「これ良いわね。
動きやすいし、前だけじゃなくて横も後ろも見やすいのね!」
「よかったね、ガーナ」
そう、あたしの首元にいるガーナのための空間で、これによってガーナも動きやすく周りも見やすくなっている。
流石にフードを被ったら前以外は見えなくなるだろうけど。
ガーナのための構造でも作ってくれているのが、何よりもうれしい。
「っとそうだ、この辺のやつってどうすれば良いの?
あと、なんか外套の内側にポケットみたいなのあるんだけどこれってなに?
それに、あたしの武器は棍なのに短い棒二本だし……」
あたしは机に置いてある、鉄糸3つ、苦無6本、短剣2本、2本の棒と、該当の内側を指をさして聞いてみた。
ガーナのための構造に夢中になってて、服を着るときにチアーラさんに教えてもらうのを忘れていた。
「一つずつ説明していくわね」
「うん」
チアーラさんがそう言うと、なぜかモルガナ姉ちゃんが机の苦無と鉄糸を持って近づいてくる。
姉ちゃんが教えてくれるんだろうけど、いきなり抱き着かれたりしないだろうか――苦無持ってるし大丈夫だよね?
「まず、苦無は該当の内側のポケットに入れておくんスよ。
ポケットは苦無が固定される造りになってるんで、ちゃんと入れておけばずれたり落ちることはないっスよ」
「なるほど」
「で、鉄糸はベルトに固定できるっス――アーちゃんは左腰だったっスよね?」
「うん」
外套の内側のポケットみたいなものは苦無を入れるためのものだったらしい。
蓋が無いから心配だったけど、少し動いてもズレた様子はない。
鉄糸3つも筒をベルトの左腰につけるが、しっかり固定されている――姉ちゃんの言う通り、落ちることもなさそうだ。
「それで、短剣は――ちょっとごめんね
――よいしょ、こうやってジャケットの後ろに挿しておくんだよ。
あと、挿すだけじゃ無くて、ちゃんと固定しておいてね」
「そのための輪っかだったんだね――分かった、挿すときはちゃんと固定しておく」
着るときにジャケットの後ろの輪っかが気になっていたのだが、この短剣を挿すためだったらしい。
短剣の鞘とジャケットの両方に固定するベルトのようなものがついているので、これで固定するようだ。
ちょっとやそっとじゃ少しもズレる感覚がない。
「それで、この二本の棒は?」
「あぁ、それはな――よっと」
あたしが使うのは棍なんだけど、それっぽいのが無い――しいて言えばこの短めの二本の棒だ。
おっちゃんはそう言いながら二本の棒をとると、棒の端を合わせ、軽く回した。
カチン――と音がすると、さっきまで二本の棒だったものが一本の棍になった。
「こうやって一本にすんだよ――常に手に持つには流石に邪魔になるだろ。
こんな造りでもただの棍に比べたら強度は高い方だが、無茶な使い方はしない方が良いな」
「そういう造りになってるんだ……。
あーでもそれなら使うときは結界で補強した方が良いかな……」
あたしはまだ大きさや強度を何段階かに分けて結界を生成するくらいしかできないんだけど、やろうと思えば棍棒を結界で囲うくらいのことはできる。
とはいえ円形はまだ難しいくて四角状にしかできないから、使い勝手が変わっちゃうからあんまりやりたくないんだよね。
おっちゃんの言ってるように強度はあるみたいだし、だから無茶な使い方をするときだけ結界で強度を上げるって使い方にする方が良いかも。
「あぁ、おめぇだとそんなこともできんのか――できるんならその方が良いかもな。
んで、使わねぇときは――ベルトの後ろのこいつに挿しとくんだよ」
おっちゃんが棍を再び二分割すると、あたしの後ろ側に回ってベルトの二つの筒に差し込んだ。
着替えるときにポーチを入れる筒かと思ったのだが、ポーチも入らないし何に使うのか分からなかったけど、このためだったらしい。
あたしが言うことではないかもしれないが、良くこんなのが思いつくものだ。
「ちょっと背中の棍が違和感あるけど――うん、動きやすい」
「棍に関してはそのうち慣れるわよ。
ガーナも大丈夫そうかしら?」
「ええ、ワタシも気にいったわ!」
ガーナも気に入ったみたいで良かった――というか嬉しそうなガーナが可愛い……。
背中は少し気になるが、今の状態だと外から見ても苦無や短剣、棍は見えないようになっている。
手に持つ物が減るだけじゃなくて、隠すための服でもあるようだ。
「その服なんだけど、普通の服よりは丈夫で汚れづらいのだけど……あくまで服ということには変わりないから、そこは覚えておいて」
「わかった」
破れにくい、汚れずらい、動きやすい――これだけで相当便利なものだとわかる。
ただ、便利なのは分かるんだけど、あたしは一つ気になっていることがあった。
アーシスの装備についての話でしたが、
説明回になってしまって申し訳ない...
★次話は11/05投稿予定です。




