第四十三話 ―多分麻痺してる―
第四十三話目です。
前話からのロザリアとの話の続きです。
"名持ち"についてロザリアさんに聞いたら、キョトンと目を丸くされた。
そんな顔をされる程、変なことは聞いていないと思うんだけど……
すると、ロザリアさんはため息をついた。
「またチアーラ様の悪いところが出ましたわね……」
やっぱりチアーラさんのせいだった。
どうせロザリアさんから教えてもらえるから、とかそんなところでしょ……?
「名持ちとは"狐"以外の仮面をつけた方々のことですの」
「"狐"以外……ああそっか、チアーラさん達も仮面持ってるんだっけ……
――っていうことは名持ちってチアーラさん達のこと?」
"修羅"所属にしている人は、全員仮面を持っている。
"狐"はその名前の通り、目元を覆う白い狐の仮面――女性は赤、男性は青、筆頭であるロザリアさんは黒で、それぞれ装飾が施されているとのこと。
そういえばあたし、チアーラさん達がどんな仮面なのか知らないな。
"修羅"の一員はチアーラさん達と"狐"だけらしいから、チアーラさん達がその名持ちってことは分かる。
「その通りですわ。
"絢華"であるチアーラ様、"白狐"であるモルガナ様、"絶狐"であるカイナート様、"羅刹"であるブラッド様ですわね。
本来名持ちの方々は戦闘などが主な仕事ではあるのですが、モルガナ様とカイナート様は潜入も得意なため、仮面にも狐の名が含まれていんですのよ」
予想通り、名持ちとはチアーラさん達のことだった。姉ちゃんと兄ちゃんはまだわかるけど、チアーラさんとおっちゃんは仮面の名前聞いただけだとどんなものか分かんないなぁ。
なんか、名前からしても仰々しい気がする。牽制とか戦意喪失のためとは言え、何となく恥ずかしい……
みんなもう慣れているから、特に気にしていないのかな。
問題のあたしの仮面だけど、正直想像がつかない。
言ってしまえば新人なのだから"狐"になる可能性もあるし、皆に鍛えられたからという理由で名持ちになる可能性もある。
まぁ、任命式にならないと分からないんだけど。
「アーシス様は名持ちとして"修羅"の一員なるかと思いますわよ」
と、あたしの疑問を察したようにロザリアさんがそう言った。
「"狐"は中級の魔物までしか単独で討伐できないのに対し、アーシス様は上級の魔物でも一人で討伐できますわ」
「まあ、ガーナと一緒ならだけど……」
「そうね、ワタシがいないとアーシスは見えない範囲が広くなっちゃうものね」
「とはいえアーシス様とガーナ様は従魔契約を結んでいるのですから、ガーナ様も含めてアーシス様の力ということになりますわ。
つまり、アーシス様は"狐"と比べて戦闘の能力が高いんですの」
だからあたしは"狐"ではなく名持ちとなる可能性が高いと言うことらしい。
それに鍛えられたと言っても潜入や諜報の訓練なんかはしたことないし。
「とはいえ、実際のところはチアーラ様と国王陛下次第ですわね」
「だよね……まぁ、任命式までのお楽しみってことかなぁ」
「そうね。でもチアーラ達の仮面の名前から考えると、アーシスは仰々しい名前の仮面になりそうね。
ただでさえ、あなたは小さいんだから」
「む……小さいは余計だよ」
小さいのは自覚してるけど、人に言われるとちょっと納得いかない。
もし名持ちとなるのなら、チアーラさんやローベルト様のことだから、皆みたいな仰々しいものになりそうというのはガーナの言う通りだと思う。
仮面の目的が簡単に言えば威圧だから、侮られるようなものにはならないと思う。
「私からの説明は以上になりますわ。
正式な入隊は少し先にではありますが、これからよろしくお願いいたしますわ、アーシス様、ガーナ様」
「うん、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくね」
そういうわけでロザリアさんとの顔合わせや"狐"の説明についての話は終わった。
ただ、一つだけずっと気になっていることがあった。
「あのロザリアさん」
「なんでしょう?」
「チアーラさん達のことは分かるけど、何であたしまで様つけで呼んでるの?
ロザリアさんの方が先輩だし、年上だから、普通にアーシスでいいよ?」
「そのことでしたか、これは私の癖のようなものですの。
この口調も私の癖ですので、あまり気にしないでいただけると助かりますわ」
「あ、そうなんだ、慣れないからちょっと落ち着かなくて……」
「そう?ワタシはあんまり気にならないけど」
癖なら仕方ないとは思うが、口調はともかく様付けで呼ばれるのはちょっとムズムズする。
ガーナはあんまり気にしてないみたい――そもそも名前で呼ばれることが少し前までなかったからそこの違いかもしれない。
あたしに関してはそのうち慣れていくしかないのだろう。
「そういうことでしたのね。
であればアーシスさまのことは今後、アーシスと呼ばせて頂きますわね」
「ありがと、ロザリアさん」
「ただ、仕事の際は仮面の名前でお呼びしますの。
ですので、アーシスが名持ちとなった場合は様を付けてお呼びしますので、そこだけはよろしくお願いしますわ」
「分かった」
少し申し訳ない気もしたが、ロザリアさんも特に呼びずらそうにしていないから、彼女の言葉に甘えることにしよう。
後はロザリアさんの言ったように仕事中は仮面の名前で呼び合うみたいだから、気を付けなければいけない。
聞いたところによると、チアーラさんのことだけ"絢華様"、と呼んで他の皆は"白狐"、"絶狐"、"羅刹"で問題ないらしい――チアーラさんはこの部隊で一番立場が上だから当たり前だろう。
「――せんわ……」
と、そんなことを考えているとロザリアさんが何かつぶやいたように聞こえた。
ロザリアさんを見てみると、手を口に当てて小さく震えていた。
どうしたのだろうか、体調でも悪くなったのだろうか――チアーラさんを呼びに行った方が良いかもしれ――
「もう我慢できませんわ」
「え、ロザリアさ――んぇ!?」
突然のロザリアさんの大声にどうしたのか声をかけようと思ったのだが、最後まで発することができなかった。
何故なら、あたしはロザリアさんに抱き着かれたから。
(姉ちゃんで慣れてたと思ったのに全く反応できなかった……)
毎回すごい勢いで抱き着いてくる姉ちゃんと違って、ロザリアさんはいつの間にか抱き着いてきていたから気づかなかった。
これだけでもロザリアさんが相当の実力者であることは分かる。
チアーラさんやモルガナ姉ちゃん然り、ロザリアさん然り――なぜかあたしに抱き着いてくる。
この部隊変な人ばっかりだ。
(この人もか……チアーラさんと姉ちゃんはいつものことだし、抵抗しなくていいや……)
結局あたしはその後数時間、ロザリアさんに好き勝手されることになった。
と言っても抱き着かれて、頭なでられただけ――いや、結構大変だわ。
姉ちゃんにされるのに慣れすぎて感覚が麻痺してるだけだなぁ、これは。
今回もチアーラに驚かされた(?)アーシスでした。
で、最終的にはモルガナ同様、ロザリアにも抱き着かれました。
あれ、ロザリアって理知的なキャラの想定だったんだけど、何でこうなった?
マジでアーシスの周りの女性ってこんなのばっかだなぁ...
★次話は11/01投稿予定です。




