第三十九話 ―共有―
今話から第三章開始、第三十九話になります。
チアーラとの模擬戦の次の日の話です。
アーシス視点に戻ります。
"修羅"への入隊が決定した翌日、ゆっくり休んだおかげですっきりした。
昨日は色々あったから休もうとも思ったけど、怪我をしたわけでもない。
別に絶対しなきゃならないわけでは無いけれど、サボって身体が鈍ってはいけない。
「いつも通り訓練場いこっか~」
「ちょっと待ちなさい、アーシス?」
訓練場に向かおうとしたところで、ガーナに止められた。
やはり今日くらいは休んだ方が良いかな。
「どうしたのガーナ?」
「お説教よ」
お説教と聞こえたのだが、ガーナに何かしたっけ。
昨日のことを思い返してみるが、特に思い当たる節はないんだよね……
「昨日は色々あって何も言わなかったけれど……
ワタシあまり無茶はしないようにと言ったわよね?」
「うぇ……」
思い出した――チアーラさんとの模擬戦中、理由は分からないがあたしはガーナの視界が頭に浮かんだ。
それ自体はガーナに、というか誰にもそのことは話していないから、このことじゃない。
たふぁ、その時酷い頭痛に襲われたんだよね――ローベルト様の衝撃とかエリーゼの衝撃で忘れていた……
というか自分で「あとで説教だなぁ……」とか考えてた覚えもある。
「思い出したみたいねぇ……?」
「ぁい……」
結局、あたしは大人しくガーナの説教を受けることにした。
「それで、あの時何があったの?」
「あぁ……えっと……」
あたしはチアーラさんとの模擬戦であったことを話した。
その後、滅茶苦茶怒られた。それはもう、何時間とも感じる程にきつく怒られた。
「良い?ワタシはあなたに助けられて、あなたのことが気に入ったのよ。
だからあなたの思いも応援したいと思ってついてきたの」
「うん……」
「あなたが頑張っていることも、必死になる理由も分かってるわ。
でも、無茶をしてあなたに何かあったら元も子もないじゃない」
「ごめん……」
「あなたの思いも大切だけれど、ワタシにとってはあなた自身が一番大事なのよ。
心配する側の気持ちも考えてちょうだい。
あなただって皆が無茶をしたら心配するでしょう?それと同じことよ」
自分のことばっかりでガーナのことを考えてなかった。
ガーナの言う通り、ガーナや皆が無茶をしてたらあたしも心配するし、不安にもなる。
皆が危ない状況なんてそうそうならないと思うけど、今はそういう話じゃないもんね……
「ごめん、今度から気を付ける……」
「分かれば良いのよ」
「うん……」
無茶をしないようにと何度か言われて来けど、その意味がちゃんと分かってなかった。
ガーナに言われてようやく、その意味がちゃんと分かった気がする。
大切に思う相手を失う怖さは、あたし自身よく分かっているから。
「それで、ワタシの視界が見えたんですって?」
「え、うん……」
「あなたにも分からないんでしょう?
それならチアーラやカイナートに聞いた方が良いんじゃない?」
「あぁ、そっか!」
ガーナのおかげで暗くなりかけていた空気がなくなった。
むしろ、大事なことを思い出した――というかなんで忘れてたんだあたしは。
もういいや、ローベルト様とエリーゼの衝撃のせいということにしておこう……
「じゃあ、チアーラさんに聞いてみよっか。
今日は特に急ぎの仕事は無いって言ってたし」
例のガーナの視界が見えた件について聞くために、チアーラさんの仕事部屋に向かった。
●
「だからあの時あんなに反応が良かったのね……」
「反応……?」
「模擬戦をしているとき、あなたの反応が妙に早いと思っていたのよ。
いくらガーナが教えてくれるとは言え、少なからず反応は遅くなるはずだもの」
チアーラさんに例の件を話すとそんなことを言われた。
あの時のチアーラさんは本気ではないとは分かっていたけど、そんなことまで考える程余裕があるとは思わなかった。
「そうねぇ確かこのあたりに――あったわ」
チアーラさんはそう言うと、部屋にある棚から一冊の本を取り出した。
その本をペラペラとめくると、あるページを見せてきた。
「共有……?」
「あなたとガーナは従魔契約を結んでいるわよね?」
「うん」「そうね」
「共有というのは、従魔の視覚や聴覚などの様々な感覚が従魔の主、人に共有されることを言うのよ。
これはお互いの信頼もそうなのだけど、特に人側が従魔に相当に信頼を持っていないと発現しないものなの」
ガーナのことは信頼してるから、チアーラさんの言うことは納得できる。
ただ気になるのは、チアーラさんの表情が少し暗く見えること。
「あなたの場合は、ガーナに頼りすぎて無意識に発現してしまったみたいね……」
「頼りすぎ……?」
信頼しているのは自覚しているが、頼りすぎというのは良く分からない。
「あなたは片目が見えない分をガーナに見てもらっているから、普通よりガーナに頼りすぎてしまうのよ。
それに、この共有は人側の頭に負担がかかるのよ。思い当たることがあるわね?」
「うん、すごい頭が痛くなった」
それを聞いたチアーラさんは「やっぱり……」と頭を抱えてため息をついている。
と思ったらすぐに、真面目な表情でこちらに目を向けてきた。
「良い?あなたはガーナに頼りすぎないこと、そしてガーナ――あなたもアーシスを甘やかしすぎないこと」
「ん、分かった」
「頼ってくれるのは嬉しいけれど、アーシスに何かあってもいけないものね――分かったわ」
ガーナに甘やかされる――というのは少し納得いかない。
正直、発現しないようにできるか、発現してしまったときに直ぐにやめることができるかは分からない。
ガーナの視界が見えるのは助かるとはいえ、もし余裕のない場面であの頭痛が来たら危険なのもそうだしなぁ。
チアーラさんの言う通り、ガーナに頼りすぎないように気を付けないと。
「あ、そうだ――ひとつ確認したいことがあるんだけど」
「確認したいこと?」
「ガーナの視界が見えたとき、チアーラさんが白い靄みたいに見えたんだけど……
それがガーナの魔法と何か関係あるんじゃないかなぁって思って」
あたしの言葉に首を傾げたチアーラさんに、あたしはそう返した。
初めはガーナの視界が見えたことが、ガーナの魔法だと思っていたんだけど、それは違かった。
つまり、そのガーナに魔法があるとしたら、その白い靄がガーナの魔法に関係あるのではないかと思ったわけだ。
「だから、ガーナの魔法を調べてほしくて」
「そういうことね……」
チアーラさんが少し何かを考えるような仕草をした後、ガーナの方を向いた。
「ガーナ、その白い靄っていうのはあなた自身も見えているの?」
「そうね……普段は見えないけど、確かアーシスが結界魔法っていうのを使った時やあなたが雷を纏った時には見えたかしら。
そういうものだと思ってたんだけど、あなた達は違うの?」
ガーナが「なんで?」と言った感じにあたしとチアーラさんの顔を見ている。
そういえばあたしが教えるまで、ガーナは魔法について知らなかった。
チアーラさんも何か考えているようだ。
「おそらく、魔力感知だと思うけれど、一度調べた方が良いかもしれないわね。
今後のあなた達のためにもね。
――少し待ってて」
そうしてチアーラさんは今あたし達がいる部屋を後にした。
おそらくあたしの魔法を調べた水晶を取りに行ったのだろう。
前半はガーナからのお説教でした。
なんか、ガーナが保護者みたいになってる...
後半はチアーラとの模擬戦で発現した【共有】という現象についてでした。
かなり便利とはいえ、使うたびに頭痛が襲ってきたらキツいよね...
これが使える日は来るんですかね。
★次話は10/10投稿予定です。




