第四話 ―訓練記録01―
第4話目です。
アーシスの訓練が始まります。
まずは身体づくりの訓練かららしい。
なんの訓練をするにもスタミナ、筋力、柔軟性がないと怪我をするからとのことだ。
そうして連れていかれたのは家の裏手の小さな森(?)の中。
「どう、この訓練場。すごいでしょう?」
「え、こんなところあったの…?」
中央に何もない広場でその周りが木が組み合わさったアスレチックで囲われている。
アスレチックの方は地面が泥だったり、水だったり、砂だったり――様々な環境を想定しているらしい。
端から端がギリギリ見えるくらいの広さだが、周囲は木々に囲われ外からは分からなかった。
後で聞いた話だが、この訓練場はチアーラさんが国に作ってもらったらしい。
普通家の裏にこんなの作らないから、もしかしてチアーラさん偉い人…?
「まずはこの周囲を走ってスタミナをつけながら、筋トレとストレッチで筋肉と柔軟性をつけていくわよ」
「わ、分かった…」
家の裏手にこんなものがあったとは…驚きすぎてそう返すのでいっぱいいっぱいだった。
「アーちゃーん!」
「え?モルガナ姉ちゃ――へぶっ!?」
あたしが訓練場を前にして戦慄していると、急に声が聞こえてきた。
一瞬赤色の髪が見えたと思ったら、物凄い衝撃に襲われた。
「モ、モルガナ姉ちゃん…苦しい…」
今飛び込んできたのは暗めの赤色の短い髪で大きなタレ目の女性。
何より胸がでかい…チアーラさんよりも。
飛び着かれて倒れることはなかったが、身長差のせいで胸に顔が埋もれて窒息しかけた…
「あ、ごめんなさいっス」
離してくれたので窒息死は免れたが、毎回抱き着くのはやめてくれないかな。
(いつものことだからもう諦めたけど…)
因みに今はモルガナ姉ちゃんに後ろから抱き着かれている。
胸が頭に乗ってて重い…
「さっそくアーちゃんの訓練を始めるんスか?」
あたしが訓練を始める話はモルガナ姉ちゃんは知らないと思っていたのだが…
チアーラさんは彼女にも話していたようだ。
「ええ」
「確か身体づくりからっスよね?
アーちゃんは鍛えていたわけでもないし、初めは軽くっスかね」
「あら、アーシスには優しいのね」
「いや、元々鍛えてたならともかく、アーちゃんは全く鍛えてないっスから。
初めからやりすぎたらアーちゃんが潰れちゃうっスよ」
「ふふ、分かってるわよ。
それにしても感慨深いわね。昔のあなたなんて――」
「わぁぁ!自分のことは良いっスから!」
チアーラさんが姉ちゃんの昔のことについて話そうとしたところで、モルガナ姉ちゃんが止めた。
正直気になるけど、あまり聞かれたくないことっぽいし、こういう事はあまり聞かない方が良いだろう。
あたしだってあまり話したくないことはあるし。
「と、とにかく、自分がアーちゃんの訓練を見るんで!」
「本当は私が見てあげたいんだけど、ちょっと忙しくて…」
「大丈夫っス!自分に任せるっスよ!」
「よろしくね」
元からモルガナ姉ちゃんが鍛えてくれる話になっていたようだ。
あたしの訓練について簡単に流れが決まったらしい。
●
この日はまずは様子見とのことで、あたしがどれだけ身体が出来上がっているかの確認だった。
「流石にスタミナと筋力は飛びぬけてではないっスけど、10歳にしてはアーちゃんは結構あるっスね
柔軟性に関しては抜群に良いっスよ。めちゃくちゃ柔らかいっス。」
「そう…なの…?」
「そうっスよ!」
村にいた頃は主に母の手伝いをしていたが、たまに猟師の手伝いもしてたからそれが理由かな?
狩りに出てはいないけど解体は手伝っていた。あれはあれで体力や力がいる仕事だった。
ストレッチに関しては母さんと毎晩一緒にやっていたから、多分それが理由かな。
「これだけ身体が柔らかいなら、少し無茶してもけがはしなさそうっスね…」
「なんか言った…?」
「いや、なんでもないっスよ?」
モルガナがボソッと何言ったようなのだが、疲れすぎてまともに聞き取れなかった。
なんか聞き逃しちゃいけないことを聞き逃した気がする…
「さて、今日は様子見っスから、今日はもう終わって休むっスよ」
「はぁ~い…」
●
訓練事態は走る、筋トレ、柔軟だけだったが、一つ意味の分からないものが出てきた。
ポーションだ。
ポーションとは肉体の自然治癒の能力を高めて短時間で怪我を直すことができる薬。
身体を動かせば少なからず肉体が損傷する。
普通ならご飯食べて休んで回復するのだが、ポーションでその時間を短縮すると言うのだ。
因みに傷の治癒にも体力を消費するはずなのに何故か体力も回復するのだが、その原理までは知らない。
そうして次の日から、そのポーションを使ってひたすら訓練をした。
走ってポーション飲んで筋トレしてポーション飲んでストレッチして――――
逃げ出そうとしてモルガナ姉ちゃんにモフモフされて…
走るのは、ランニングなんてものじゃなく常に全力。
筋トレも体力や筋肉がついていく度に回数がどんどん増えていく。
ポーションを飲めば疲れは殆ど回復するので、休憩はポーションを飲む時間とご飯の時間とのみ。
しかもポーションで体力が回復するとは言っても万能ではない。
夜になる頃にはもちろん肉体的にも精神的にも疲れ切って夕食を食べた後は朝まで死んだように眠った。
そんな生活が1年は続いた。
何度も逃げ出そうとしたが、あたしより体力も瞬発力もあるモルガナ姉ちゃんからは逃げられなかった。
何よりきつかったのは、逃げ出そうとした後。
その日の夜から次の日の夜までモルガナ姉ちゃんにモフモフされる。
5回目くらいからもう無心でされるがままになったのは、最早懐かしい記憶。
姉ちゃんどんだけ体力あるんだよ…
大体半年経過した今、スタミナも筋力も柔軟性もかなり身についた。
1日中全力疾走しても殆ど疲れることはない。
そこら辺の木くらいなら、握り潰せるくらいにはなった。
「これ、女の子としてどうなんだろう…」
女の子らしく――とかそんな事はどうでも良いのだけど、なんとも言えない気分になる。
とはいえこの家の皆の反応は変わらないだろうし、強くなるためだから今更ではある。
因みにチアーラさんやモルガナ姉ちゃん達は普通の岩くらいだったら拳で破壊できるらしい。
「普通の人からしたらあたしも相当なんだろうけど、あの人たち化け物だよね…」
以前そんなことを言ってみたら「これくらい普通 (っス) よ」と返された。
(多分あの人たちは感覚がぶっ壊れているんだろうなぁ…)
今日もいつものように訓練場に行くと、そこにはモルガナ姉ちゃんだけではなく、チアーラさんもいた。
「あれ、チアーラさんもいるの珍しいね。どうしたの?」
「今日から別の訓練も始めるから、その準備をしているのよ」
そう言ったチアーラさんの示した方を見てみると、様々な武器が乗せられた台とその傍に二人の男の姿があった。
新キャラモルガナ姉ちゃん登場です。
姉ちゃんによるスパルタ基礎トレーニングでした。
休憩する時間はありますがほんの少しの時間で、それ以外はひたすらトレーニング。
普通のトレーニングならまだしも、私だったら余裕で心折れます。
★次話は04/15投稿予定です。