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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第二章 試験編
39/103

第三十八話 ―友達として―

第三十八話目です。

今回で第二章最終話です。


前話に続き、家に戻った後の夜の話です。

今回はガーナ視点となります。

アーシスがモルガナと話して部屋に戻ってきた――表情が柔らかくなっているところを見る限り上手く話せたようで安心した。

その後、疲れがあったのかしらね、アーシスはすぐに眠りについたわ。

アーシスが眠ったことを確認したワタシは、話をするためにチアーラの部屋に来ていた。


「あなたはまだ起きているの?」

「あらガーナ、まだ仕事があるもの。

 あなたこそまだ起きていたの、アーシスは?」

「あの子はもう寝たわ。

 それにモルガナだったかしら、あの子ともちゃんと話せたみたいよ」


そう聞いたチアーラは少しほっとしたような表情をした。


「それで、私に何か用事があるのかしら?」

「それはあなたの方じゃないの?」

「そうね――あなたは何故、アーシスと一緒に来たのかしら?」


ワタシは城で話をした時、アーシスについてきたと言っただけで、理由までは言わなかったもの。

彼女はおそらくそれを聞きたいんじゃないかと思ったから、ワタシはここに来たのよね。

私も彼女と話してどんな人間なのか気になったと言うのもあるけど。


「あの子が心配だったからよ」

「心配?」

「あの時は話さなかったけれど――

 あの子はあの熊に勝てないと分かった途端、一人で時間を稼いでワタシを逃がそうとしたのよ。

 会ったばかりの、しかもワタシは人ではない蛇なのに…」


あの時のことを思い出しながら、ワタシはチアーラに話した。

チアーラもワタシの話を真剣な表情で聞いている。


「あなたは何故そこで逃げなかったの?」

「死ぬと分かっていて、助けてくれた相手を見殺しにできるほど、ワタシは薄情じゃないわよ。

 だからワタシがあの子の目の代わりになってあげたのよ」

「そう――あの子のことを守ってくれてありがとう」


あの子を危険なことに巻き込んだのはワタシ自身――むしろ、何を言われてもおかしくないと思っていたのだけど、チアーラはそんなワタシに感謝の言葉を述べた。

何となくあの子があんな風になった理由もわかった気がする――少しチアーラに似ていると思った。


「あの子が私たちの部隊に入りたいと言う出すことは予想していたわ。

 鍛えるのを提案したのも私だし、鍛えたのも私たちよ」


チアーラは静かに話し出した――


「でも、部隊に入りたいと言ったのは、初めてあの子が全部自分で考えたことだったわ。

 だからその思いを無下にしたくなかったのよ。

 アーシスにも、私たちが救えなかったあの子の母親にも申し訳が立たないもの」


ワタシの勝手な予想だけれど、アーシスにはこの話はしたことが無いんじゃないかしら。

チアーラの表情から何となくだけど、そう思えた。


「あの子は『修羅』の一員だから――これから危険な仕事もすることになると思うわ。

 ずっと守ってあげたいけれど、私たちがずっと見ていることはできない」


これが彼女の本心ね。

チアーラも他の者たちも、それぞれに仕事があるから常に守ることはできない。

アーシスのことを一番近くで見て居られるワタシだから話しているんじゃないかしら。


「だからこれからは、あの子が無茶をしすぎないように、心が壊れてしまわないように――

 あの子のことを見ていてあげてもらえるかしら」

「あたり前じゃない。

 ワタシはあの子の――友達なんだから」

「ありがとう」


チアーラと話して、あの子がどれだけ愛されているか分かった。

そして、ワタシにとってもどれだけ大切な存在なのかも。


そうしてチアーラと話したワタシはアーシスが眠っている部屋に戻った。



ワタシがアーシスの部屋に戻ると、アーシスは眠ったままだった。


(ワタシもそろそろ寝ようかしら)


そう思い、アーシスのそばに戻って寝ようとすると、アーシスの方から声が聞こえてきた。


「――さん――母さん…」


アーシスはうなされながら、目じりに涙を浮かべている。

森でアーシスに話を聞いた――母親を失った時の夢を見ているのだろう。

この子の中ではまだ、母親のことは昇華しきれていないようね。

ワタシは尻尾でアーシスの頭を撫でた。


「あれ、ガーナ…」


するとアーシスが目を覚ましてしまったらしい。

悪夢を見ていたんだもの、目を覚ましてもおかしくはないわね。


(不安そうな顔をしてるわね…)


話を聞いたことはあるけれど、ワタシにはこの子の過去を見たわけじゃない。

チアーラにはああ言ったが、ワタシはこの子に何をしてあげられるのか分からないのよね…


「よかった…ガーナはいた…」


その言葉を聞いた瞬間、胸が痛くなった。

この子はまだ自分が無力だと、心のどこかで思っているのかもしれない。


「アーシス、私が生きているのはあなたのおかげよ。

 あなたが助けてくれたから、ワタシが今ここにいるのよ。

 だから自信をもって良いの、あなたはもう守れるだけの力を持ってるんだから」


ワタシにできることは少ないけれど、これだけはワタシが自信をもって言える。


「ありがと…ガーナ」

「ほら、もう寝なさい」

「うん、ガーナがいてよかった」


そう言うと、アーシスはまた眠りについた。

さっきまでとは違って、落ち着いた寝顔だった。

過去のことを乗り越えるにはまだ時間はかかるでしょうけど、それまでワタシが全力で支えてあげよう。

この子の従魔として――何より、友達として。

ガーナはチアーラと話をしたようです。

ガーナは思いのほかアーシスのことを大切に思っていたようです。

ガーナはいてくれるだけで癒しなんじゃぁ...


本日合わせて「第二章キャラクター紹介」も投稿しているので、気になる方はそちらもどうぞ。


★次話から第三章開始、10/05投稿予定です。

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