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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第二章 試験編
36/103

第三十五話 ―覚悟と確認―

第三十五話目です。


前話の最後に男性が入ってきましたが、その続きの話です。

クラウディア様や皆が部屋に入ってきた後、少し遅れて一人の男性が部屋に入ってきた。


(なんでこの方がここにいるの…?)


入ってきた男性はローベルト・ランドブル・ラプラド――このラプラド王国の国王陛下だ。

国王直属の部隊に入ろうとしているんだから、いつかは会うこともあるだろうと思ってたけど、あたしはまだ正式に入ったわけじゃ無い――こんなタイミングで会うとは考えもしてなかった。


「あ…」


あたしが固まっているのを、国王陛下が「大丈夫か?」と言った感じに見ている。

そこでようやく、あたしが国王陛下の前でベッドに座っているままの状態なのを思い出した。


「す、すみません…!」

「ああ、そのままで良い」

「いえ、でも…」


このままでは失礼にあたるので、あたしは直ぐにベッドから降りようとする。

が、国王陛下から止められてしまった。


「陛下も良いと言ってくれてるのだから、そのままで良いのよ。

 そんなことで怒るような方ではないわよ」

「チアーラの言う通りだ。

 まあこやつはちと無礼が過ぎるがな」

「そういうことであれば…」


国王陛下がそう言ってくれているので、その言葉に甘えることにした。

そうしてベッドに座りなおしたあたしは姿勢を正して国王陛下に向き直る。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません、国王陛下。

 私はチアーラさん達にお世話になっております、アーシスと申します」

「いや、こちらもいきなり来て驚かせてしまったな。

 知っているとは思うが、私はこのラプラド王国の国王ローベルト・ランドブル・ラプラドだ」


あたしができるだけ丁寧にあいさつをすると、国王陛下も丁寧にあいさつを返してくれた。

子供のあたしにそんな風に接してくれるとは――器の大きい方だ。

あたしがそんなことを考えていると、国王陛下が話始めた。


「早速で悪いが――アーシスよ」

「は、はい」

「『修羅』はこの国の部隊でも最も多くの、そして危険な仕事――更には他国に関わる仕事、人間以外のヒト種の関わる仕事もする。

 君は本当に『修羅』に入るつもりなのか?」


真面目な表情であたしを見ながら、国王陛下がそう尋ねてくる。

改めて『修羅』という部隊に入りたい理由を思い返し――全てを話した。


――村が襲われ、母さんを目の前で殺されたこと。

――母さんが殺されたことによる怒りで、母さんを殺した男を殺したこと。

――その時のことをずっと夢に見ること。

――チアーラさんに相談して、守れる力をつけるために鍛え始めたこと。

――クラウディア様に『修羅』のことを聞いて、その助けになりたいと思ったこと。


全てを話し終わった時、その場は静寂に包まれていた。

あたしが自分からすべてを話すことは今までなかったから。

静寂の中、最初に口を開いたのは国王陛下だった。


「チアーラやクラウディアから凡その話を聞いてはいたが、そういうことだったのだな…」


全部話したのは失敗だったかもしれない――国王陛下にまで気を遣わせてしまった。


「君の気持ちは分かった。

 しかし『修羅』は――『修羅』だけではないが、部隊に所属していれば人の命を奪うこともある。

 それだけではない――いくら力を持っていたとしても全てを守り、救うことはできない。

 それは分かっているか?」


あたしがこの空気をどうしようと考えていると、国王陛下からそんなことを聞かれた。

覚悟と現実の話だ。


「分かっています。

 人の命を奪わなければ守れないものがあるということも――守れない命があるということも。

 あの日、母さんが殺された時から…」


あたしは真剣な思い出、国王陛下の目を見ながらそう答えた。


「そうか、強く育ったのだな」

「みんなのおかげです」


あたしの言葉を聞いた国王陛下は表情を緩めそう言った。

あたしは先ほどチアーラさんに答えたのと同じように、心の底から思っていた言葉で答えた。


「チアーラ――それにお前たちも良いのだな?」

「はい、実力も――覚悟も問題ありません。

 それに、この子が自分で決めたことですから」


国王陛下がチアーラさんにそういうと、皆がうなずき、チアーラさんも真剣な表情で答えた。

カイナート兄ちゃん、ブラッドのおっちゃん、そして――まだちゃんと話せてないけど、モルガナ姉ちゃんも。

改めて、皆やチアーラさんに認められた気がした。


「分かった――後日改めて任命式を行うことになるだろうが、今ここでも宣言しよう。

 アーシスを特務部隊『修羅』の一員として任命する。」

「ありがとうございます」

「ラプラド王国の民、そして同盟国の達を守るため、力を貸してくれ」

「あたしの力の限り」


そうして国王陛下はあたしの『修羅』への入隊を認めてくれた。


「それじゃあ、アーシスの装備の話を始めましょうか」


あたしの『修羅』への入隊が認められた直後、チアーラさんがそんなことを言いだした。

もうちょっと余韻に浸りたかったのだが、チアーラさんだけじゃなく、他の皆やクラウディア様もノリノリだったので諦めることにした。


「装備…?」

「『修羅』の一員になる時はみんな専用に装備を貰うのよ。

 騎士達は決められた鎧や剣なのだけど、私たちはそれぞれで使う武器や役割が違うからね」

「そうなんだ…」


あたしが尋ねるとチアーラさんが説明してくれた。

遊びでないことも分かっているし、子供っぽいかもしれないけど、専用と言われるとワクワクしてくる。

皆がノリノリなのもわかる。


そうしてあたしの装備についての話が進んでいく。

あたしよりみんなの方が楽しそうに話していた――モルガナ姉ちゃんもこの時はたくさん喋っていた。

改めて姉ちゃんにも好かれてたんだと思って、少しうれしくなった。


色々話して決まったのは次の通り

――武器は棍に短剣二本、苦無を数本、あと武器ではないが鉄糸も何個か

――そして携帯食料や薬や包帯などを入れるための小さいポーチを複数

――服はシャツポーチをつけられるジャケットやベルト、外套、パンツ、手袋、タイツ、靴

  みんなが盛り上がってどんどん決まっていったので、正直あたしはあんまり分かってない…

――そして最後に『修羅』の隊員がつける「仮面」


因みに仮面というのは『修羅』に所属している人はみんな持っているものらしい。

顔を隠すことで、表情や目線から考えを読まれづらくすることができる。

更には、仮面=『修羅』と言う認識が広がっていて、敵国や犯罪組織への抑止の意味もあるらしい。


「装備は任命式の前には渡すから、任命式ではその装備を身に着けて出るように。

 ただし、仮面だけは任命式の際に渡すからそのつもりでな」

「分かりました」


装備はでき次第、チアーラさん経由であたしに渡される。

その後の任命式では貰った装備を身に着けて出席して、仮面を受け取る。

騎士の場合は、正装で剣を国王から受け取ることが任命式で行うことらしいが、『修羅』は仮面を受け取る形式らしい。

武器とかも皆違うから、この形式になったとのことだった。


「っと、もうこんな時間か――私は仕事があるのでこの辺で失礼する」

「国王陛下、ありがとうございました」

「構わん、それと私のことはローベルトで良い――チアーラや他の者もそう呼んでおる」

「分かりました、ローベルト様」

「では、また任命式でな」

「はい」


そんな話をして、ローベルト様は部屋を出た――次にお会いするのは、任命式の時だ。

ローベルト様にも『修羅』への所属を認めてもらったが、正直まだ実感がない。

任命式が済んだ頃には実感が持てるのだろうか。


「それじゃあ解散して問題ないわよ。

 あでも、アーシスちゃんだけ待ってもらえる?」

「あ、はい」


一通りの話も終わって解散となり、チアーラさんや皆は仕事があるらしいので先に帰った。

しかし、あたしだけクラウディア様に呼び止められた。


「じゃあ、ちょっとついてきて――あなたを紹介したい子がいるのよ」

「わ、分かりました…」


クラウディア様の口ぶりからして、あたしが何かしてしまったとかではなさそう。

でも、あたしに紹介――ではなくあたしを紹介したいってどういうことなんだろ。

あたしも『修羅』の一員となるわけだし、騎士の偉い人とかと会うのことになるのかな。


そう言われて医務室を出て、クラウディア様に連れられてきたのは、とある部屋の前だった。

王妃に続き国王とも対面したアーシスでした。

アーシスが特別というより、『修羅』がこの国で特別な立場という感じです。

そして国王ローベルトから直々に『修羅』の一員に任命されました。


最後アーシスだけ残ってまた別の部屋に連れていかれました。

クラウディア曰くアーシスを紹介したい相手がいるらしいですが、はてさて誰だろうか


★次話は09/20投稿予定です。

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