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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第二章 試験編
35/103

第三十四話 ―医務室にて―

第三十四話目です。


チアーラとの模擬戦の後、気を失ったアーシスが目を覚ました後の話です。

目を覚ました時、あたしは知らない部屋のベッドに寝かされていた。


(どこだここ――ん?この匂い…)


なんだか懐かしい匂いがする。

周りを見てみると、他にもいくつかベッドが並べられ、部屋の中にある棚には様々な薬が置かれていた。

あたしが嗅いだ匂いは棚に置かれている薬の匂いだった。


(やっぱり薬の匂いだ…

 まだ村にいた頃――って言うか家にいた頃はいつも薬の匂いがしてたなぁ…

 母さんが薬師だったもんね…)


「起きたのね」

「うぇ?」


そんなことをしみじみ思いだしていると、知らない女性の声が聞こえてきた。

声のした方を見てみると、眼鏡をかけ白衣を着た女性がこちらを見ていた。


「アーシスちゃんだったわね?」

「は、はい…」

「あなたはチアーラ様との模擬戦の後、魔力切れで気を失っていたのよ。

 ちょっと待ってて、チアーラ様を呼んでくるわ」

「あ、はい」


あたしが今いる場所は、城の医務室なのかな。

先ほどの女性が部屋を出てからしばらくすると、部屋の扉が開いた。


「チアーラさん、とガーナも」


入ってきたのはチアーラさん――チアーラさんの首元にはガーナもいる。

あたしは二人(?)を見て立とうとしたのだが、チアーラさんに止められたのでベッドに座ったままだ。

一週間とちょっとだけど、あんまり話してなかったせいか、なんか気まずい。


「この子から色々聞いたわ」

「カイナートとブラッドだったかしら…?

 あの二人も一緒に説明してくれたんだから、あとでお礼言っておきなさいよ?」

「うん」


兄ちゃんとおっちゃんには森から帰って来てすぐに話したので、二人も一緒に説明してくれたみたいだ。

ガーナの言う通り、あとでお礼を言っておこう。

そんなことを考えていると、チアーラさんに頭を撫でられた。


「あなたもちゃんと、力が身についていたのね…」

「――うん」


チアーラさんにそう言われて、あたしは目頭が熱くなった。

魔物の森で散々泣いたのに、思わずまた泣きそうになってしまった。

あたしが涙が出ないように堪えていると、チアーラさんは続けて話し始めた。


「それと――危険なことをさせてごめんなさい…」

「チアーラさん…」


危険なこと――魔物の森での試験のことだと思う。

ガーナから話を聞いたと言うことはあたしが上級の魔熊と戦ったことも知っているのだろうから。


「そんなこと気にしないで」

「そんなことって――」

「それだけ危険な仕事をする部隊ってことでしょ。

 それに、あたしが危なかったら助けに入るつもりだったんでしょ?」


最初森に入った時は、本当に意味が解らなかったけど、逆に言えばそれだけ危険な仕事なのだと言うことは直ぐに分かった。

部隊に入りたいと我儘を言ったのはあたしだから、チアーラさんが謝る必要はないのだ。

それでもチアーラさんはまだ、暗い表情をしている。


「チアーラさんとなり座って」


もしここであたしが泣いてしまえば、かえってチアーラさんを困らせてしまう。

チアーラさんを元気にする方法を思いついたあたしは、正面に立っていたチアーラさんに隣に呼んだ。

意図が分からないといった表情をしつつも、あたしの隣に座った。

チアーラさんが座ったことを確認したあたしは、隣にいるチアーラさんを抱きしめた。


「ちょっと、どうしたのアーシス…?」


チアーラさんに保護されて2年くらいはずっと不安で、あたしはチアーラさんにずっと抱き着いていた。

そのたびにチアーラさんは、あたしを優しく抱きしめてくれて、その体温や匂いがすごく落ち着いたのを覚えている。


10歳にもなると不安も薄れて、恥ずかしさもあったのであたしから抱き着くことはなくなった。

思えば7年ぶりくらいかな。

だから少し恥ずかしいのだが、チアーラさんには伝えておかなければいけないことがある。


「あの森に行ったおかげであたしはガーナに会えたし、ガーナのことを助けられたんだよ」

「そうよ、アーシスがいなかったらワタシは死んでたんだから!」

「あなたたち…」


大変なのはその通りだけど、あの森に行かなければガーナには出会えなかったし、ガーナを救うこともできなかった。

あたしとしてはそれだけであの森に行った意味があったとも言える。


「だからチアーラさんは気にすることないの。

 むしろ、ありがと」

「そうね、私こそありがとう」


チアーラさんはそう言いながら、あたしのことを締めて抱きしめてくる。

やっぱり、チアーラさんに抱きしめられるとすごく落ち着く。

これが母性というものなのかな…昔は母さんにこうしてたっけ…


「いつの間にかこんなに成長していたのね…」

「成長――あたし8年くらい身長は殆ど伸びてないよ?」

「「…」」


あたしがそう答えると、チアーラさんは困ったような表情をした。

ガーナを見てみると、ガーナもチアーラさんと同じように困ったような様子だった。


(なんか変なこと言った?)


「私の言っているのは、ここのことよ」


チアーラさんはそう言いながら、あたしの胸を指さした。

そこが成長しているってこと何だと思うんだけど…


「胸…おっきくなってないよ…?」


ここ8年身長どころか、あたしの身体は全体的に成長してない。

あたしは今17歳、もうすぐ18歳になって成人するけど、見た目で言えばあたしは10歳くらいなんだよね…

あたしがそう言うと、今度はチアーラさんもガーナも固まった。


「「はぁ…」」

「なんで二人してため息つくの…?」


何故二人が固まってしまったのかわからないけど、様子を見ていると二人ともため息をついた。

何故ため息をつかれたのか分からない――成長してないのは事実なのに。


「あのねぇ…チアーラが言いたいのは身体の成長のことじゃないわよ」

「まったく…ガーナちゃんの言う通りよ。

 私が言っているのは、あなたの心の成長よ」

「心の…」


二人に言われてようやく気付いた。

あたしは全く見当違いのことを考えていたみたいだ――二人が呆れるのも納得だぁ。

自分では良く分からないんだけど、チアーラさんが言うならそうなのだろう。

もしあたしの心が成長していたのなら、それは――


「チアーラさんとみんなのおかげだね」

「本当に立派になったわね…」


あたしがそう言うと、チアーラさんは笑顔になって、あたしを抱きしめたまま頭を撫で始めた。

チアーラさんに抱きしめられるのは落ち着くから好きなんだけど――チアーラさんはいつも頭を撫でてくる。

これも気持ち良いのだけど、これが恥ずかしくて抱き着くのをやめた理由でもあるんだよね。

他に人がいたら多分、こんなことしないし


(まぁ、チアーラさんも元気になったみたいだし…

 たまには良いかぁ…)


今日はチアーラさんに元気になってもらうため、それにあたし自身も久しぶりで嬉しいことには変わりないから、良しとしよう。

そんな風にチアーラさんに撫でられていると、部屋の扉が開いた。


「そろそろ良いかしら?」


チアーラさんに抱きしめられながらそちらを見てみると、空いた扉の先にはクラウディア様が立っていた。

良く見てみると、チアーラさんだけでなく、カイナート兄ちゃん、ブラッドのおっちゃんもいた。

モルガナ姉ちゃんもいるが、ちょっと後ろの方にいる。


チアーラさんとは今話したから今まで通り話せるようにはなった。

けれど、モルガナ姉ちゃんとはまだ話していないから、姉ちゃんも気まずいのかもしれない。


(家に戻ったら姉ちゃんと話してみよう…)


あたしがそんなことを考えていると、みんなが医務室に入って来て椅子を準備している。

みんなが一椅子の準備をしているのを見ていると、ひとりの男性が遅れて部屋に入ってきた。


「…え?」


入ってきた男性を見た瞬間、あたしは驚きのあまり思考が停止した。

アーシスが部隊に入りたいと言い出してから口数の少なくなったチアーラを今まで通り話せるようになりました。

しかしモルガナとは話していないので、モルガナはいまだ気まずそうにしています。

モルガナと今までのように戻れると良いのですが...


まあ、モルガナもアーシスのことを嫌っているわけでは無いようなので、大丈夫――なはず。

モルガナとアーシスの絡み自体は少ないけど結構好きなんだよなぁ...


★次話は09/15投稿予定です。

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