第三十二話 ―フェイク―
第三十二話目です。
引き続アーシスVSチアーラ戦の話です。
今話で決着はつくのか...?
あれは確かあたしが15歳の頃だったかな。
ブラッドのおっちゃんとの訓練の休憩中に聞いた話を思い出していた。
「いいかアーシス、相手の武器を警戒するのは大事だが、警戒しすぎるのも良くねぇ」
「???」
おっちゃんにそんなことを言われたんだけど、あたしは意味が理解できなかった。
「あー、何て言えばいいんだろうなぁ…
武器に気を取られすぎると相手の動きを見落としちまうんだよ」
「おっちゃんの言ってる意味は何となく分かるけど…それが何?」
「あのなぁ…たとえ一瞬でも動きを見落とすってことは、相手が次どう動くかの予測もできなくなっちまうんだよ。
本気の戦闘――殺し合いになるとそれが命取りになるんだよ」
「あぁ、なるほど」
そこまで言われてようやくおっちゃんの言いたいことが分かった。
「カイナート兄ちゃんに相手の動きを予測しろってよく言われるけど…
それができなくなるってことだね。
おっちゃん達との模擬戦だと、確かに動きを予測しないと一瞬で負けるもんね…」
「そういうこった」
おっちゃんの言いたいことは分かったけど、なんでいきなりそんな話を?
あたしの不思議そうな顔を見て、おっちゃんはあたしの疑問に気づいたのか、続けて口を開いた。
「話はまだ終わってねぇよ。
いくら武器を警戒しすぎるなっつっても、武器が視界に入れば警戒しちまうもんなんだよ」
「それっておっちゃんとか、他の皆でも?」
「そうだ。
俺たちもそうだし、姉御もそうだろうな…」
おっちゃんの言う姉御とはチアーラさんのことだよね。
チアーラさんの戦っている姿は見たことが無いからわからないのはそうだけど、他のみんなは今まで模擬戦をしててそんな風には見えなかったんだけど…
多分あたしの実力がみんなに追いついていないからなのかな。
「つまりだ、その意識を持って訓練しろってことだ。
まぁ、逆に言えばそれを逆手にとって、相手の意識を逸らすこともできるが――」
そこまで言っておっちゃんは言いよどんだ。
と思ったら、嫌そうな顔をしながら口を開いた。
「――そこら辺はモルガナが一番上手ぇから、気になるならあいつに聞け」
おっちゃんの表情から察した。
多分、モルガナ姉ちゃんにそれで好きにやられたことがあるんだろう。
●
昔おっちゃんと話したことを思い出した。確かあの後モルガナ姉ちゃんにやり方聞いたんだったっけ。
これを上手く使えばチアーラさんに一撃充てられるかもしれない。
逆に言えばこれが通用しなかったらあたしに勝ち目は無いってことだけど。
(痛っ…!)
例の光景が頭に浮かんでから頭痛がやまない。
今は我慢できないほどの痛みは無い――耐えられるうちにチアーラさんに一撃与えないと…!
旋棍による攻撃を弾いたことで、チアーラさんはほんの少し体勢を崩した。
「今から責めに移るから…よろしくねガーナ」
「任せなさい」
ガーナに声をかけると、あたしは棍に鉄糸を巻き付け、それが上になるように地面に軽く突き刺す。
この訓練場が砂を固めた地面で助かった――石で作られていたら突き刺すことはできなかった。
棍を突き刺すと同時に、残った鉄糸が巻かれている筒を上に軽く放り投げておく。
「なんのつもりかしら、アーシス?」
「接近戦のつもりだよ…!」
あたしが棍を突き刺している間に体勢を整えたチアーラさんは既にあたしの後ろに移動している。
ガーナの見ているであろう光景のおかげで、チアーラさんの居場所は分かっている。
「今回は反応が遅いみたいね!」
「そんなわけないでしょ…!」
チアーラさんが旋棍をあたしの頭に向けて横に振ってくる。
ガーナの視点が見えているあたしは振り返らずに、屈んで避け――二本の短剣を抜いておく。
屈んだ状態のまま、あたしは突き刺した棍を足場にして、チアーラさんの脚の間を通り抜ける。
「そのために棍を突き刺したのね…!」
流石にチアーラさんも少しは驚いたようだ。
チアーラさんはあたしが棍を突き刺した理由を察したようだけど、本当の目的はそうじゃない。
「【二連結界・弱】…!」
「また結界で何かするつもりね…!」
チアーラさんの脚の間を通り抜けると同時に、結界を二箇所に生成する。
一つはあたしが移動した先――チアーラさんの背中から少し離れた位置。
もう一つはチアーラさんの頭上――チアーラさんの頭から身長半分くらい話した位置。
「何度も止められる程私は優しくないわよ…!」
チアーラさんはあたしの移動した先――さっきまでのチアーラさんの背後の足元――に向けて裏拳で旋棍を振るってくる。
「いない…?」
チアーラさんの振るった旋棍はあたしには当たらなかった。
というのも二つの結界を生成した直後、チアーラさんの背後に移動した勢いを殺さずに次の行動に移っていた。
あたしは一つ目に生成した結界に向かって目一杯ジャンプしていたのだ。
いくらチアーラさんでも、見えて無ければあたしの位置も動きも把握できない。
だからあたしはチアーラさんの攻撃は当たらなかった。
「【三重結界・強】――っ!」
一つ目に生成した結界を足場にあたしはまた大きく飛びあがる。
そして、あたしとチアーラさんを囲う三つの結界を生成しながら、二つ目に生成した結界――チアーラさんの頭上に生成した結界に飛び乗った。
この三重の結界は、単純にチアーラさんの行動範囲を狭めるためだ。
「今…!」
チアーラさんはまだあたしを見失っている――一瞬でも間を置けばすぐに気づかれるかもしれないが、今はこの一瞬で十分だ。
「目が回るぅ~…!」
「ごめんガーナ!
もうちょっと我慢して!」
ガーナには悪いと思うが、ここで止めるわけにはいかない。
我慢してもらおう!
あたしは先ほど上に放り投げた鉄糸の筒を掴み取った。
ガーナがチアーラさんを見てくれているおかげで筒の位置を常に把握できていた。
そして先ほど掴み取った鉄糸の筒を、横に向けて引っ張る。
同時に、鉄糸の筒を持ってあたしが今乗っている足場に一周巻き付け――さらに左手に持っていた短剣に巻き付ける。
巻き付いた鉄糸が引っ張られたことで、軽く地面に刺さっていた棍が横に傾く。
そして続けて鉄糸の筒側を巻き付けた短剣を――筒の巻き取りのボタンをおして、チアーラさんの背後にそっと落とす。
「――!?」
チアーラさんは先に傾いた棍に気づいて、そちらに意識を向けるが――
「棍はフェイクね――」
一瞬でフェイクだと見抜かれてしまったが、それは問題ない。
これは棍を傾けて、攻撃しているように思わせることが目的。
「――後ろっ!」
チアーラさんは一瞬で振り返ったと思うと、あたしが落とした短剣を弾き飛ばす。
でも――
(フェイクが棍だけとは限らないよね…!)
「まさかこれも…!?」
ここまで驚いているチアーラさんは初めて見る。
流石のチアーラさんでも、フェイク二連続は想定外だったようだ。
「――っ!」
「アーシス!
あなた本当に大丈夫…!?」
「もう少しだけ…持たせるから――大丈夫…!」
少し前までズキズキとした痛みだったのが、時間が経つにつれて強くなってきた…
おそらく長くは耐えられそうにない。
(これは…終わったらガーナの説教かな…)
あと少し――気合を入れて本格的に攻めに移る。
すみません、決着つきませんでした...次話には何とか決着つくはず...!
今話はブラッドとの会話の回想から始まりました。
チアーラに一撃でも当てる隙を作るために、ブラッドから聞いた話を試すアーシス。
アーシスの狙い通り、チアーラはフェイクに引っ掛ったようです。
チャンスだぁ!いけぇ!
次話で決着つけてく!頼む!
★次話は09/05投稿予定です。




