第三話
第三話目。
アーシスが2年前に母親を失った夢を見て目を覚ましました。
目覚めとしては最悪ですね...
母さんを失った日のこと。
嫌な夢を見て目が覚めてしまった。
あの夢を見ると見えない左目がズキズキと痛む。
「はぁ…とりあえず飲み物でも飲んで落ち着こう…」
今いるこの家はチアーラさん達が住んでいる家で、彼女以外に3人ほど一緒に住んでいる。
深夜なのでみんな寝ている。
起こさないように静かに部屋を出る。
「あれ?明かりがついてる。チアーラさんまだ起きてるのかな…?」
明かりのついているのはチアーラさんの部屋だった。
扉の隙間から覗いてみるとチアーラさんは紙に何か書いてる。
(何かお仕事でもしてるのかな?邪魔しないように静かにしないと)
「あら?誰かいるの?」
音は立ててないはずなのにチアーラさんに気づかれてしまった。
「アーシスこんな夜中にどうしたの?」
「いや、ちょっと嫌な夢見ちゃって。飲み物でも飲もうかなって」
「そう。私も一緒にいくわ」
「いいの?お仕事中じゃないの?」
「大丈夫よ。仕事よりあなたの方が大事よ。」
そういうとあたしの頭を軽く撫で、部屋から出て居間に向かう。
●
「はい、ホットミルクよ。」
「ありがと」
居間に着くと、チアーラさんがホットミルクを入れてくれた。
チアーラさんの入れるホットミルクは砂糖が入っていて甘くて落ち着く。
「それで?」
ホットミルクを飲んでいると、チアーラさんから声をかけられた。
「何が?」
「何が?じゃないわよ。嫌な夢を見たんでしょ?そういうのは人に話すと楽になることもあるわ。」
何度もあの夢を見ていることを相談するべきなのだろうか。
あたしはこの家にお世話になっているわけだし、こんなことで迷惑かけるのも嫌だ…
「私たちに気を遣う必要はないのよ?
この家に来た時点で、家族みたいなものなんだから。
それに、気を遣うのは大人の仕事。
あなたは子供なんだから、もっと甘えていいのよ」
そう言ってチアーラさんが微笑む。この人の声は本当に優しく落ち着く…
チアーラさんにそう言われたことで、あたしはチアーラさんに相談することを決めた。
「その、毎日…ってわけじゃないけど、昔の…2年前の夢をいつも見るの…
何度も母さんが死んじゃうのを見てる気分になる…
別に忘れたいわけじゃないけど、どうにかできないかなって…」
チアーラさんは少し考えるような素振りをしてから口を開いた。
「そうね…
それはあなたの中で何か後悔があるんじゃないかしら?」
「それは…」
無いわけがない。
あたしが音を出さなければ見つからなかった…
あの時あたしに力があれば母さんを助けられたかもしれない…
「まぁ、無いわけがないわよね」
チアーラさんは少し申し訳なさそうに苦笑を漏らした。
「辛いことを言うかもしれないけど…
死んだ人は二度と戻らないし、その後悔も消えないわ。」
「そんなこと…わかってる…」
「でもこれからのことは違うわ。
強くなりなさい。強くなって誰かを守れるように。
あなたのお母さんに、胸を張って守ってくれてありがとうって言いに行きましょう?」
あたしが一番後悔しているのは、あの時何もできなかったこと。
彼女が言いたいのは、これからは誰かを守れるようになればいくらかその後悔も癒えるのではないかということだ。
「チアーラさんの言いたいことはわかるけど、それで駄目だったら…」
チアーラさんに言われたよう誰かを守れるようになりたいとは思う。
でもそれができたとしてあたしのこの傷が癒えるかは分からない。
「その時はまた一緒に考えてあげるわよ」
今考えても仕方ないことではある。
だから、彼女がそう言ってくれたことであたしも心を決めた。
「チアーラさんがそういうなら…
でも強くなるってどうするの?」
とはいえ、その方法がわからないままである。
するとチアーラさんは可笑しそうに口を開く。
「忘れたの?私たちの仕事のこと」
「お仕事って、王国の騎士でしょ?」
「騎士とは違くちょっと特殊なのだけれど…普通の騎士よりは強いから、あなたを鍛えるくらいはできるわよ」
彼女はあたしには仕事の詳細は教えてくれないけど、国のとある部隊に所属していることは知っている。
確かチアーラさんが隊長で他の3人はその部下と聞いた覚えがある。
「みんなの邪魔にならないなら…」
「大丈夫よ。
でも訓練を始めるまで色々準備があるから、準備ができ次第になるわね」
こうしてあたしは鍛えてもらうことになった。
正直どんな訓練になるのかわからないけど、この人達なら酷いことにはならないと思う。
「さ、今日はもう寝ましょう」
「うん。チアーラさん、その――何でもない」
あの夢を見た後で正直一人で寝るのが少し怖かったからチアーラさんと寝てくれないかと思った。
しかしあたしも10歳。
そんな歳になって一緒に寝たいと言うのは恥ずかしかった。
「アーシス、今日一緒に寝る?」
考えを読み取ったかのようにチアーラさんが聞いてくる。
彼女の言葉に頷いて返すとチアーラさんがあたしを抱きかかえてくる。
「ちょっ、あたしもう10歳だよ?」
「私からしたらまだ子供よ。
それに左目が見えないでしょう?」
「もう2年も経つんだからもう歩くくらいは大丈夫だよ!」
「最近は抱っこさせてくれなくて寂しいのよ。
だからたまにはいいでしょ」
ここに来た頃は片目で歩くことすら難しかった。
それに心細かったからチアーラさんに抱っこされていたのだが、慣れてきた今わざわざ抱っこされるのは恥ずかしい。
あたしは下ろすように抗議するが、チアーラさんはそれを無視してそのまま寝室に連れていかれた。
●
チアーラさんの部屋に着くと、あたしは彼女のベッドに寝かされ、彼女も隣に並んでくる。
散々抵抗はしたけれど、彼女といると胸が暖かくなってくるから不思議だ。
「チアーラさん」
「なに?」
「ありがと」
そういうとチアーラさんに優しく抱きしめられ、頭を撫でられた。
彼女の匂いと柔らかい身体、優しく頭を撫でる手の動きで、あたしはそのまま眠りについた。
チアーラはお国で働いているようで、未登場の3人も彼女の部下として働いているようですね。
どんな仕事をしているかはまたいずれ。もう少し先になりそうです。
次話からはアーシスの訓練パートに入ります。