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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第二章 試験編
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第二十八話 ―第二試験開始―

第二十八話目です。


今話からアーシスの二つ目の試験が開始です。

前話でチアーラが決めた試験の内容とは?

夜中に悪夢で目が覚めた後、枕元でガーナが眠っている姿を見て安心したのか悪夢は見なかった。

ガーナには夢の話はしなかった。あの話をしたらガーナに止められるだろうから。


朝の支度を終えたあたしは、二つ目の試験のために城の訓練場に来た。

普通ならあたしが城に自由に出入りできないのだが、クラウディア様と訓練していたのもあって、今では騎士の人に言えば通してもらえる。


(それだけ信用してくれてるってことなんだろうけど、不用心過ぎない…?

 あたしは特に悪いことするつもりもないし、楽だから良いんだけどね)


そんなことを考えながら、あたしは訓練場に到着した。


「うぇ?」

「どうしたの――ってすごい人ね…」


あたしが訓練場に来ると、そこには誰もいなかった――ガーナも驚いている。

正確には訓練場にはいないだけで、周りの観戦席――って言っていいのかわからないが――に大勢の人がいる。

街の人ではなく、殆どが騎士達だ。何度か見たことがある顔もあった。


(クラウディア様は予想してたけど、なんであんな方までいるんだ…)


見渡していると、クラウディア様と、その隣にこの国の国王――ローベルト・ランドブル・ラプラド陛下がいた。

また、クラウディア様の隣に小さい女の子が見えるが、どこかで見覚えがあるような...遠目では良く分からないな。

更にその近くには家の皆――もとい『修羅』の面々も見える。


(あれ、あの人誰だろ…)


『修羅』の面々を見ていると、ひとりだけ見覚えの無い人が目に入った。

金色の髪でどこかの使用人のような服を着た、如何にも清楚と言った印象のある女性――見たこと無いし、服装からしてお城の人なのかな。


「待たせてごめんなさい」


あたしが見渡して呆けていると、チアーラさんの声が聞こえた。

なんだか嫌な予感がしてきた…

今日は二つ目の試験の日で、普段騎士達が訓練している場所いるのはあたしとチアーラさんだけ。


「びっくりさせてごめんなさいね。

 クラウディア様と陛下に今日のことを話したら見たいと言われてしまって…

 いつの間にか騎士達にも話が伝わっていたみたいで…」


チアーラさんはそう言いながら苦笑を浮かべた。

なんだか真顔以外のチアーラさんの表情を久しぶりに見た気がする。

いや、今はそんな事考えている場合ではない。


「チアーラさん、二つ目の試験ってもしかして…」

「察しが良いわね。

 二つ目の試験は私と模擬戦してもらうわ」


(やっぱりかぁ…終わった…)


試験の内容を聞いて、あたしは絶望した。

というのも、あたしはチアーラさんと戦ったことは無いんだけど、前に聞いたことがあるんだよね。

姉ちゃん達三人が本気で挑んでも、なんとか攻撃を当てることが精いっぱいで、本気のチアーラさんに勝てたことが無いと。


(あたしまだギリギリ姉ちゃん達に一発当てられる程度なんだけど…)


「と言っても私に勝てと言っているわけではないわよ?

 私に一撃でも攻撃を当てられたら合格、その前にあなたが気絶したら不合格よ」

「うぇぇ…」

「もちろん私は本気を出さないけれど――私を殺す気で来なさい。

 出ないと一瞬であなたの意識を刈り取るわよ」

「…!」


一気にチアーラさんの雰囲気が変わった。威圧感が半端ない。


(殺す気かぁ…

 『修羅』に入ることになれば人を殺すこともあるから、その覚悟を持ってるか確認するってことかな…

 まぁ、あたしの実力の確認もあるだろうけど…)


実際に殺さなければ殺すと言われたわけじゃない。

多分だけど、要は人を殺す覚悟を持てと言っているんじゃないだろうか。


「わかった」


あたしは一つ深呼吸をして覚悟を決め、棍を構える。

それを見たチアーラさんも構えた――チアーラさんの武器は初めて見たがあれは旋棍(せんこん)だ。

チアーラさんは超接近武器で、あたしは棍で近中戦の武器なので、近づかれるとあたしの方が不利になりそうだ。


(あんまり棍にこだわらないで、厳しかったら短剣に変えた方が良いかもね…)


「ガーナ、よろしくね」

「任せなさい」


あたしの首に巻き付いているガーナに声をかける。

ガーナもやる気満々のようだ。


「いつでも良いわよ」

「分かった――ふっ!」


あたしは足に力を入れてチアーラさんに接近し、棍を振り下ろす。

それに対してチアーラさんは――


「いない…!?」

「後ろよアーシス!」


ガーナの声で後ろを振り返ると、チアーラさんが右手の旋棍を振りかぶったところだった。

あたしは急いでチアーラさんの攻撃を防ぐために防御する。


「良く反応したわね」

「うぉわっ…!?」


なんとか棍で受け流そうとしたのだが、間に合わなかった。

真正面から受け止めてしまったあたしの身体は浮き、吹き飛ばされた。


「っぶな――どこに――」


なんとか棍で衝撃を和らげ、訓練場の壁ギリギリで止まった。

あたしがすぐにチアーラさんのいる方を見ると、さっきまでいた場所にチアーラさんの姿はなかった。


「上か…!」

「正解よ」


チアーラさんは既にあたしの真上まで来て、旋棍を振り下ろしてきていた。

あたしはギリギリで身体を反らして避け、チアーラさんめがけて棍を振り上げる。


「――っ…!」

「良い反応よアーシス」


あたしの棍はチアーラさんの旋棍によって簡単に防がれてしまう。

おそらく、わざわざ防がなくてもチアーラさんなら避けられたんじゃないかと思う。


「気を抜いては駄目よ」

「分かってる!」


チアーラさんはすぐに反対の旋棍で攻撃を向けてくる。

あたしはそれを棍で――今度は受け流して防ぐ。


(攻撃が重すぎる…!)


受け流しているはずなのに、腕にかかる衝撃を逃がしきれない。

どんだけ力が強いんだこの人...!


チアーラさんが旋棍で殴って来て、あたしは棍でそれを受け流す時間が続いた。

おそらくだが、チアーラさんはあたしが受け流せるように攻撃のタイミングを遅らせているんじゃないんだろうか。

不自然なほどに攻撃の感覚が開いているんだよね。


旋棍の攻撃範囲は自分の腕の長さ。

両手に持っていてあたしが受け流した瞬間に追撃できるはずなのに、あたしが受け流せるように体制を整えるまで追撃してこない。


(確かに本気じゃないみたいだけど…

 それでもこれって、キツすぎる…!)


チアーラさんの攻撃を受け流しながら、あたしはどうやってチアーラさんに一撃与えるか考える。

無理に攻勢に移ったとしても、簡単に防がれる――それ以前にそうしようとした瞬間にあたしが攻撃を受ける。


「ちょっ、ちょっとアーシス、大丈夫なの!?」

「何とかね…!」


ガーナもチアーラさんの異常性が分かったみたいだ。

でも、戦い方はいくらでもある。何より、姉ちゃんや兄ちゃん、おっちゃんには見せたことはあるが、あたしは結界魔法を使いながらの戦闘をチアーラさんには見せたことはない。

意図して見せていなかったわけではないんだけどね、チアーラさんが忙しくて見るタイミングが無かったってだけで。

つまり、道があるとしたら結界魔法でチアーラさんの不意をつくしかない。


あたしはチアーラさんの攻撃を防ぎながら、どうやって不意を突こうか考えるのだった。

二つ目の試験はチアーラとの模擬戦で一撃与えることでした。


模擬戦でなら、モルガナ・カイナート・ブラッドが3人でかかれば何とか戦えるレベルです。

ただし、本気で殺しあったらまともに戦いにならないくらいの実力です。


アーシスが何とか対応できる程度に調整できると言うだけで、チアーラの実力がうかがえます。

何気に相手に合わせるのって結構難しいんですよね...


★次話は08/15投稿予定です。

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