第二十七話 ―悪夢は―
今話から第三章開始、第二十七話目です。
今回はちょっと暗い話になったかも...?
魔物の森でのサバイバルが終わってから2日が経過した。
チアーラさんから言われた次の試験は明日だ、城でやるって言ってたから騎士達相手の対集団戦とかかな。少なくとも、人相手の試験であることは間違いないだろう。
とはいえあくまで想像の範囲だから明日にならないと分からないか。
「明日に備えて、今日は休もっか…」
「そうね」
魔物の森から帰ってきてから、ガーナはあたしの部屋に住むようになった。
まぁ、ガーナのことはチアーラさんに話してないし、人用の部屋だと小さな蛇であるガーナには大きすぎて逆に住みづらいだろうしね。
それに、あたしもガーナと一緒の方が安心できる。
「じゃあ、おやすみガーナ」
「ええ、おやすみアーシス」
そうしてあたしはベッドに入って眠りにつき、ガーナもあたしの枕元に丸まって眠りについた。
●
気が付くとあたしは薄暗い森の中にいた。見覚えの無い場所だ。
右手には棍が握られていて、腰の後ろには短剣が2本挿さっている。
あたしの首元には小さな白蛇、ガーナもいた。知らない場所だけど、それだけで安心できた。
「何してるのなにぼーっとしてるのアーシス!」
「え?」
ぼーっとしてたのは確かだけど、何でかガーナに怒鳴られた。
すると、背後から――ガサガサッ――と音が聞こえ、そこには10人程の見覚えのない鎧を着た男たちが立っていた。
「いたぞ!」
「散々手間かけさせやがって!」
その男たちは突然あたしに斬りかかってきた。
男たちが振り下ろしてきた剣を避け、棍で弾き、受け流してから後ろに飛んで距離をとる。
なんでいきなり森にいるのかも、見覚えの無い騎士達に追われているのかも、何もかも分からないけど――
「人が相手なら気絶させれば…」
人数は多いけど相手は人なので、気絶させていけば数は減らせるはずだ。
彼らの命を奪わずに済むのなら、それに越したことはない。
「っ――フッ!」
飛び退いた先に真っ先に距離をつめてきた騎士の上段からの振り下ろしを受け流し、棍を回して騎士の顎を思い切り叩き上げる。
続けて別の騎士の付きを交わして横腹に棍を叩きこみ、後ろから近づいてくる騎士の腹を蹴り飛ばす。
「これで3人は気絶――え?」
3人の騎士はさっきので確実に気絶させて、残りの騎士達の相手をしようとしたのだが、3人とも何事もなかったように起き上がっていた。
騎士達の動きや体つきを見ても、今のを耐えられるはずはないと思うんだけど…少なくとも最初の一人は脳震盪をおこして立ち上がる事は難しいはずなのに、何事もなかったように立ち上がってる。
「ねぇガーナ、どうなってるの…!?」
「ワタシにも分からないわ…!」
なにがどうなってるのか分からないのでガーナに聞いてみたが、ガーナにも分からないらしい。
こっちが困惑していることも構わず、騎士達はあたしを殺そうとしてくる。
あたしはとにかく、襲ってくる騎士達の剣による攻撃を避け、逸らし、弾いて、棍を返す動きで対処していく。
「やっぱり気絶しない…」
どれだけ強く棍を叩きこんでも、騎士達は何事もないように立ち上がってあたしに向かってくる。
このまま戦っていても終わりは見えない、となれば正直気はすすまないけど騎士達を殺さなければならないな…
「やるしかないか――」
目の前にいる騎士達を殺さなければいけないとは思うんだけど、如何せん数が多い。
10人程度とはいえ鎧を着ているし、確実に殺すとなれば短剣で接近しなければならない。
何より、これで解決できるかは分からない、もし殺す気でやっても変わらなかった場合、10人も周りにいたんじゃ囲まれるだけになる。
騎士達はあたしの正面に3人、左右に2人ずつ、後ろに3人か…
「まずはこの人達の距離を離さないと…ね!」
まずは正面の3人からだ。あたしは身体を屈めながら正面の3人の内の真ん中の騎士の懐に潜り込み、棍を突き出して勢いを緩めずにそのまま吹き飛ばす。
そして棍を引き戻して地面に突き立てて身体を浮かしながら左側の騎士を思いっ切り蹴り飛ばし、着地すると同時に棍を回して今度は右側の騎士の横腹に棍を叩きつけて、この騎士も吹き飛ばす。
「つぎ!」
まずは3人を吹き飛ばして距離をとった。数メートルは飛ばしたからすぐに戻ってくることはないだろうが、その3人が戻ってくる前に他の騎士達も同じように距離を離さないと意味がない。
あたしは残りの騎士達も、さっき吹き飛ばした3人と同じように殴り、蹴り、棍を叩き込んで吹き飛ばしていき、最後に9人目を吹き飛ばす。
1人残っているが、それはさっき考えていた仮説――殺さなければ止まらないという予想――を確かめるため。
「すぅ――ふぅ…」
あたしはひとつ深呼吸をする。
そして、棍を地面に突き刺して腰に挿した短剣を抜きながら最後の一人の騎士に近づいていく。
あたしが近づいたことで、騎士は剣を構えあたしに振り下ろしてくる。
――キィン!
「――ふっ!」
あたしは騎士の振り下ろしてきた剣を短剣出受け流し、身体を屈めて騎士の脚を払い、騎士を背中から地面倒れさせる。
騎士は直ぐに起き上がろうとするが、あたしは剣を持っている右腕を左足で押さえつけて、騎士に馬乗りになる。
そして、騎士の首元を目掛けて短剣を構え、短剣を振り下ろす。
「――っ!」
「どうしたのよ…?」
手が動かない…
ガーナも動かない足しを見て困惑している。
相手を殺さなきゃ守れないものもあるって分かってるし、人を殺す覚悟も出来てたはずなのに手が動かない。
「なんで…!」
「ア、アーシス…?」
何でここまで来て、あの時の光景を思い出すんだ…
あの時の村人達の表情――痛み、恐れ、絶望、そんな感情を孕んだ村人たちの表情、そしてあたしを守るために痛みと苦しさに耐えながら殺された、母さんの表情を。
(早くしないと他の騎士達が戻ってくるのに――
なんで、ここまで来て覚悟が出来てないだよ…!)
ここまで来て、あたしは人を殺すのが怖いのか…?
固まった状態でどれだけ時間が経ったか分からないけど、もう直ぐ他の騎士達が戻ってくるだろう。
すると――ガッ――と後ろから羽交い絞めにされた。
鎧の腕――先ほど吹き飛ばした騎士達が戻ってきてしまったのか…
でも一人だけならまだ――身体を動かせない…!?
「なっ…」
「ちょっと、大丈夫なの…!?」
吹き飛ばした騎士達は全員戻って来ていて、あたしは数人がかりで身体を押さえつけられていた。
振り払おうとした時にはもう遅かった、藻掻いても微動だにしない程に。
ふと正面から殺気を感じて顔を上げて見てみると、騎士の一人が剣をあたしの首の左側から振り下ろそうとしていた。
あたしは直ぐにガーナのいる顔の左側に顔を向け――
「ガーナ逃げ――」
「アーシ――」
逃げて!と叫ぶことはできなかった。そして、ガーナの声も最後まで聞こえなかった。
そう声を上げた瞬間には、剣はガーナの板場所を通過して、あたしの首まで迫っていたから――そして、あたしの視界に入ったのは、頭の無いガーナの身体と落ちていくガーナの頭だったから。
●
あたしは――がばっ――と身体を起こした。
あたしがいるのは自室のベッドの上――さっきまでの夢だと分かった。
ガーナと出会ったばかりなのに、なんだってこんな夢を見るんだ…
「夢でよかっ――!?」
あたしは今なんて言おうとした?
夢で良かった?
良いわけないだろうが!
なにが分かってるだ、なにが覚悟はできてるだ、あたしの覚悟ができてなかったせいでガーナが死んだんだぞ…!?
あたしがガーナを守るって言ったのに!!
「クソッ…!」
あたしは人を殺す覚悟なんかできちゃいなかった…
いつまでも甘ったれてんじゃねぇよ!
「ふぅ…」
少し落ち着かないと…夢とはいえ自分の甘さが分かった。
もう、絶対に躊躇ったりしない、なにがあっても。
二つ目の試験の前日、サブタイトル通り悪夢の話でした。
★次話は08/10投稿予定です。




