第二十三話 ―戦闘の末―
第二十三話目です。
魔熊を倒した後の話です。
どうやらアーシスと白蛇さんが何やら話をするらしい。
魔熊を倒した後、あたしは森の浅部まで戻ってくる頃には、あたしも涙は止まっていた。
血の匂いで魔物が寄ってくると思ったんだけど、上級の魔熊を倒したからか下級どころか中級の魔物も近寄ってくることはなかった。
ただし、魔物の森の中ということは変わりないので、警戒は続けなければならない。
とはいえ――
「さすがに疲れた、ちょっと休もう…」
あたしは高めの木の上に登って、いつ魔物が来ても良いように周りを結界で囲んでおく。
「うっ――痛ぁ…」
致命傷にはなっていないが、身体中傷だらけだ。
感染症になっても嫌だし、軽く手当だけでもしといたほうが良さそうだ。
頬、腕、脚、お腹…改めて傷を見てみたけどこれやっぱり跡残るよね…まぁいいか。
「大丈夫?」
「痛いは痛いけどもう血は止まったし、大丈夫だよ?」
「そういうことを聞いているんじゃないわよ」
傷以外なんか心配されることってあったかな?
あ、そうか――白蛇の言っていることが一瞬分からなかったが、すぐに理解した。
「ちょっと怪我の手当てしながらになるけど、少し話しても良い…?」
「ええ、いいわよ」
「何年前かな…あたしが今17歳だから、9年前のあたしが8歳の頃かな――」
あたしは白蛇に全て話した。
母さんが殺されたときのこと、チアーラさん達に保護されたこと、鍛えてもらったこと。
そしてあたしが今この魔物の森にいる理由も。
●
「そういうわけで、あたしが初めて自分で守れたから…」
「そう、辛いのに頑張ったわね…」
白蛇はそう言いながら尻尾で器用にあたしの頭を撫でてくる。
会ってからそんなに時間も経ってないし、相手は人でもないのに、なぜか彼女といると安心してしまう。むしろ人じゃないからなのかな?
「ねえ、次は白蛇さんの話も聞いて良い…?」
「ワタシの?」
「うん、なんで人の言葉話せるのかとか、なんで魔熊に襲われてたのかとか
あ、嫌だったら良いんだけど…」
「そうね、あなたの話も聞いたことだし、ワタシのことも話そうかしら
ワタシだって、元々は――」
それからあたしは白蛇の話を聞いた。
彼女は元々ただの白蛇だったのだが、気づいたら人の言葉を話せるようになっていたらしい。
あたしが考えるに、原因は分からないが魔物化したんじゃないかな、そうでなければ白蛇が話せるわけもないだろうし。
昔は両親の蛇とひっそりと隠れて暮らしていたらしいが、両親は餌を探しに行ったきり帰ってこなかった。
多分魔物に襲われたか、彼女とは違い理性の無い魔物になってしまったんだと思う。
しばらくは巣に残していた食料で生きていたらしいが、それもなくなって食料を探しに巣の外へ出た。
食料を探しているところで、あの魔熊に襲われて、あたしに助けられたのだそう。
「両親のことなんて仕方ないって割り切ってたけど、自分で思っているより気にしてたみたいね…
あなたに話して少しすっきりしたわ。それに、あなたといるとなんだか落ち着くもの…」
白蛇もあたしと同じで、あたしといると落ち着くと言ってくれた。
理由は良く分からないけど、協力して魔熊を倒したからかな?
それ以外思い当たる節がないし。
「あ!」
「な、なに!?」
まったりしている場合じゃない。
今更ながら気づいてしまった。
「ごめん!魔熊倒したのに、白蛇さんの巣から遠くまで来ちゃった!」
「え?」
「いやだって、あそこにいたってことは、巣はあの辺にあったんじゃないの…?」
そう、無事魔熊を倒したは良いものの、他の魔物に襲われないようにするためとはいえ離れてしまった。
あの辺りにいたってことは彼女の巣はあの辺りだろうから、彼女の巣からも離れてしまったということになる。
魔熊と戦った場所からここまでは結構距離があるから、彼女一人では戻れないだろう。
「そんなことなら大丈夫よ」
「そ、そう?」
「あなたと一緒に行くから」
「うぇ?」
思わず呆けた声が出てしまった。
あたしと一緒に来ると聞こえた気がしたんだけど、聞き間違いかな?
「このままここで暮らしても、どうせ他の魔物に襲われるでしょうしね。
それにあなた危なっかしいのよ。
片目が見えないで死ぬかもしれないのに、見ず知らずのワタシなんか助けようとするし。
助けてもらったワタシが言うのも変だけど、馬鹿じゃないの?」
「そ、そんな言わなくても…」
「だからあなたが死んでしまわないように、これからもワタシがあなたの目の代わりになってあげる」
白蛇の言うことも否定できない…実際彼女があたしの死角を見てくれたのも助かったのは事実。
それに、あたしが馬鹿とかそういうのは置いといて――このまま森で暮らしても彼女は他の魔物に襲われる可能性が高いのも彼女が言う通り。
しかし、協力したとはいえ彼女は謎が多すぎる…
(でも、う~ん)
いや、危険なことはないとは思うけど、人の言葉を話せる魔物は聞いたことが無いんだよね。
つまり彼女の存在は珍しいっってことだし、それだけで人に狙われてしまうかもしれない。
まずはそこを確認した方が良いかもしれない。
「人の言葉を話せる白蛇さんはいろんな人から狙われるかもしれないよ?
それでも一緒に来る?」
「…いいえ、あなたに迷惑が掛かってしまうなら、ワタシは一緒にはいかないわ」
「分かった」
白蛇は少し悩んだ素振りをすると、そう口にした――あたしに迷惑が掛かるなら来ないと。
あたしのことを考えてくれてるんだってことが、その言葉だけでわかる。
それならあたしの答えはひとつだ。
「じゃあ、一緒に行こう」
「え?」
あたしがそう言うと白蛇は戸惑ったような声を上げた。
まあ、一緒に行かないって言ったのに、一緒に来てって言われたら戸惑いもするよね。
「あたしの迷惑なんて考えなくていいんだよ。
もし、あなたを狙うような人が来たら、あたしが絶対に守る。
これからもあなたが手助けしてくれるんでしょ、それならあたしだってあなたのことを守るから。
だから、一緒に行こう」
「ええ、ありがとう」
あたしからしたら、目の代わりをしてもらうってことは白蛇に迷惑をかけることになるんじゃってなるんだけど、自分から言ってきたなら彼女はそう思ってないってことだ。
それなら、あたしだって彼女と一緒にいて何があっても迷惑だなんて思わない――あたしが守れば何も起こってないのと変わらないんだから。
あたしの言葉を聞いて、白蛇は嬉しそうな声でそう答えた――蛇とは言え結構声色とか表情とか分かりやすいんだよね。
「あたしはアーシス」
「これからよろしくねアーシス――小さなご主人サマ」
「小さいは余計だけど――よろしく。
えっと…」
「ワタシに名前は無いわよ?ただの蛇だもの」
そう言われればそうだ。
喋る謎の蛇とは言え、この森の中で生きていたのであれば名前は無いのも当たり前か。
とはいえこれから一緒にいるのに「白蛇さん」と呼ぶのも嫌だなぁ…
「それじゃあ、あなたがワタシの名前を付けてくれる?」
「いいの?」
「もちろんよ」
あたしが考えていることを察したのか、彼女から名前を付けてほしいと言い出した。
本人が良いと言ってくれてるわけだし、あたしは白蛇の名前を考えることにした。
何やかんやあって白蛇もといガーナはアーシスと一緒にいることになりました。
アーシスはガーナに、ガーナはアーシスに自分のことを互いに話しました。
どうやらアーシスもガーナもお互いに一緒にいると落ち着くようです。
協力して魔熊を倒したからか、お互いのことを話して距離が近くなったのか。
最後になんか光出しました。
もうちょっと落ち着かせてくれぇ...
因みにガーネットは和名では柘榴石と呼ばれています。
柘榴と言われるだけあって赤色が主ですが、黄色とか緑、紫なんかもあるようです。
どの色もきれいです。
★次話は07/20投稿予定です。




