第二十二話 ―決着―
第二十二話目です。
サブタイトル通りVS魔熊の決着です。
白蛇の声で後ろを振り返ると、やはり魔熊は爪を振り下ろそうとしているところだった。
あたしは身体を横にして顔スレスレで避け、あたしの目の前を魔熊の爪が通りすぎていく。
よし、少しも体勢は崩していない。
「【小結界・弱】!」
あたしは頭上――魔熊の顔の前あたり――に小さい結界を生成ながら右手に持っていた短剣を口にくわえる。
この結界は魔熊の攻撃を防ぐために生成したわけじゃない。
「よっ!」
あたしは頭上の結界に向かって飛び上がり、空いた右手をかて片腕での懸垂のように右腕の力だけで身体を持ち上げる。
ちょうどあたしの頭が魔熊の頭と同じ高さになる。
――グルァ!!!
魔熊はあたしに向かって両腕の爪を振るってくる。
あたしは爪が当たる前に右足を振り上げ、正面から迫る魔熊の右腕にかかと落としを叩き込んだ。
「【結界・強】!」
「ちょっと!後ろから爪が来てるわよ!」
ガーナに言われてあたしは背中全体を覆うように【結界・強】を生成する。
そしてあたしの背中に迫ってきている左腕の爪は結界にぶつかって止まる。
上級の魔熊ではあるけど、さすがに【強】の結界は破れないことは既に確認しているからね。
――グルァ!?
右腕は叩き落され、左腕は結界に阻まれた魔熊は驚いたような鳴き声を上げる。
更に、あたしが右腕を叩き落したことで、魔熊は体勢を崩している。
この間に、結界から右手を離し、口にくわえていた短剣を右手で掴みなおす。
「地面じゃ届かないから――【結界・弱】!」
右手で短剣を掴みなおすと同時に、足元に平らな結界を生成し、その結界に着地する。
【弱】とはいえ、相当な衝撃を与えない限り壊れはしないので、足場にちょうど良いのだ。
「ふっ!」
あたしは無防備になった魔熊の右目に左手の短剣を、首元に右手の短剣を突き刺す。
突き刺された痛みにより魔熊は絶叫を上げ後ろに仰け反るが、これではまだ倒せていない。
右目の方は完全に刺さりきっているが、首に挿した短剣は刺さりきっていない。魔熊の皮が堅すぎるんだよね…
「逃げる隙も、反撃の隙も与えない…!」
短剣を刺したことで、仰け反った魔熊の顔は上を向いた。
あたしは先ほど頭上に生成した結界に再び手をかけ、身体を持ち上げる。
しかし今度はその結界の上に飛び乗り、あたしはちょうど魔熊の顔の上に移動した。
「これで!――終わり!!」
まず、左手の掌底で首の短剣を押し込むが、まだ刺さりきらない。
続けて右手を結界について身体を支え、思いっきり蹴ることで短剣をさらに押し込む。
――グルァァ………
魔熊は小さな絶叫を上げ、その場に倒れ込んだ。
あたしは足場にしていた結界を蹴って、地面に突き刺していた棍を回収しながら倒れた魔熊から距離をとる。
動く様子はないけど、少し様子を見た方がいいだろう。
「ふっ!」
魔熊の生死を確認するため、あたしはその場に落ちていた石を投げつける。
結構な力で投げた石がぶつかるが、魔熊は動かない。
どうやらようやく魔熊を倒せたようみたいだ。
「やっ――」
「やったわね!!!!」
「うぉっ」
あたしよりも小さな白蛇の方が大きな声を上げたことにビックリした。
だが、そこまで喜ぶのもわかる。あたしも大声をあげて喜びたいところだ。
(でもここでじっとしてるのも危ないし、一旦森の浅い場所まで戻ろう…)
あたしは魔熊に突き刺した短剣を抜き取り、血を払った後、腰の鞘に戻した。
「魔熊の血に他の魔物が寄ってくるかもしれないから、移動するね」
白蛇がうなずいたのを確認して、あたしはその場から移動を開始する。
移動しながら、白蛇がこちらをじっと見ていることに気づく。
「助けてくれてありがとね、小さな戦士さん!」
白蛇の言葉を聞いた瞬間、あたしは胸が熱くなった。
(あぁ、そっか…)
白蛇に言われたことでようやく気付いた。
(あたし、初めて助けられたんだ…守れたんだ…)
初めて助けた相手は人ではない、喋る謎の白蛇。
それでも守れたことに変わりはない。
「――っ」
そう思った瞬間、あたしは涙があふれてくるのを感じた。
魔物の森では警戒を解いてはいけない――それは分かっているのに、涙が止まらなかった。
「ありがとう…」
白蛇はあたしが泣いている理由を聞いてこなかった。
会って数時間も経っていないのに、白蛇はただただあたしの頬にすり寄ってくれていた。
ようやく魔熊との戦闘に決着がつきました。
白蛇に言われる気づきませんでしたが、白蛇はアーシスが初めて自分で守れた命です。
そう思ったら涙が止まらなくなってしまったアーシス。
白蛇も会って数時間も経ってないのに、アーシスに寄り添ってくれてます。
喋れて空気読めるなんてスゴイネェ...
★次話は07/15投稿予定です。




