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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第一章 守るための力
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第二話

2話目です。

目を覚ました時、蹴られたお腹や左目の痛みはなく、それまでの騒ぎが嘘だったかのように静かだった。

しかし、焼けた家や血の匂いが漂い、嘘ではないことはすぐにわかってしまった。

辺りには村人の姿も、襲ってきた男たちの姿もなく、仮面をつけた人たちだけがいた。


「起きたのね」


声のした方を見ると、金色の長い髪の女性が立っていた。

この人だけ仮面をつけていないが、声でわかる。多分あたしを助けてくれた人だ。


「みんなは…?」


この人の表情から何となくわかるけど、聞かずにはいられなかった。


「ごめんなさい…」

「あたし以外は誰も…?」


そう聞くと女性は無言でうなずいた。

どうやら村の人間はあたし以外みんな殺されてしまったらしい。


「あの人たちは何してるの…?」


仮面をつけている人たちがいくつも穴を掘っている。人ひとりが入りそうな大きさだ。


「この村の人たちのお墓を作っているのよ。」


仮面をつけた人たちが掘った穴に村の人たちを入れていく。


「あ、母さん…!」


運ばれている中に母さんを見つけたあたしは思わず駆け出した。


「あっ…!」


立ち上がった瞬間、何か違和感を感じて転んでしまった。

そこでようやく気づいたが、左目が見えない。


「あなたは左目をけがして見えなくなってしまっているの。

 ケガは直してあるけど慣れないと今みたいに転んでしまうから気を付けて」

「うん…」

「お母さんのところに行こうとしたのね、ほら連れて行ってあげる」


そういうとその女性に抱えられて、母さんのところに連れていかれる。

母さんは狐の仮面をつけた女性が抱えていた。


「ちょっといい?その人この子のお母さんだから、少し待ってくれる?」

「いえ、しかし、子供ですよ…? 子供には刺激が強いのでは…?」


狐の面をつけた女性はあたしを気にしてくれているようだ。


「大丈夫…ちゃんと母さんにお別れを言いたいから…」

「…わかりました。」


そういうと、狐の面をつけた女性が母さんの亡骸を地面におろした。

横たわっている母さんの亡骸のそばで、金の髪の女性におろしてもらう。


「母さん…あたしのせいでごめん…」


あたしが声を出さなければあの男に見つかることはなかった。


「後、あたしを守ってくれてありがとう…」


あたしのせいで見つかったのに、母さんはあたしを守ろうとしてくれた…


「あたしは大丈夫だから、ゆっくり休んでね…」


こうして別れを言うと、改めて母さんが死んだという実感が湧いてきた。

目元が熱くなってくるのを感じる。

並みだが出そうだけど、母さんに大丈夫と言った手前、今泣くわけにはいかない。

母さんが安心して眠れるように、涙をぐっとこらえる。


「もう、大丈夫。ありがとうございます」


そういうと狐の面をつけた女性は母さんの亡骸を抱え、掘られた穴に入れていく。


「そうだ、花残ってるかな…」

「花?」

「そう。母さんが育ててた花。残ってるかわからないけど、あたしの家で育ててた」

「わかったわ。連れて行ってあげるから。案内をお願いしてもいい?」

「うん」


金髪の女性にあたしの家だった場所に連れて行ってもらう。

花壇は踏み荒らされたり、燃えてしまったりでほとんと残っていなかった。


「やっぱりだめか――ん?」


駄目かと思ったとき、一種類の花が残っている花を見つけた。

真っ白で微かに光を帯びている、名前の分からなかった花だ。


「この花だけ残ってる…」

「その花は?」

「見覚えはあるんだけど名前はわからない。ここにあるってことは母さんが育てていたんだろうけど…」

「そう…その花をあなたのお母さんのお墓に持っていく?」

「うん。でも、枯らしたくないから。あっちに植えなおしていい?」

「そうね。いいわよ」


金髪の女性と一緒にその花を摘んでいく。植えなおせるように根もしっかり掘り出す。

掘り出した花を母さんのお墓の周りに植えていく。


「それで、今後のことだけどあなた、私の家に来る?私のほかに3人いるけれど、それでも良ければね」

「お姉さんがいいなら、行く」

「ええ、これからよろしくね。えっと…」

「アーシス」

「私はチアーラよ。よろしくねアーシス。」

「うん。よろしくお願いします。チアーラさん」


花を植え終わって立ち上がろうとすると、軽く眩暈がした。

倒れそうになったところを金髪のお姉さんが支えて、抱きかかえてくれた。


「疲れたみたいね。寝てて大丈夫よ」


あたしを抱きかかえるチアーラさんは暖かくて柔らかくていい匂いで、母さんみたいだった。

そう思うと、さっき我慢した涙がこみあげてきてしまった。

その後あたしは散々泣きじゃくった後、チアーラさんに抱えられたまま眠りに落ちた。



「ああクソ…またこの夢か…あれから2年も経つのにあの時のことが頭から離れない…」


チアーラさんに連れられてこの家に来て2年。10歳になってもあの時のことを夢に見る。

忘れたいわけじゃないけど、毎日夢に見るのは辛い。何度も母さんを失ってる気分だ…

後悔とか絶望とか、嫌なことほど忘れられないものですね。

そこから下を向いて蹲ることは簡単ですが、前を見ると言うことは難しい。

何かしらのきっかけの有無がその違いなのでしょうか。

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