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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第二章 試験編
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第十八話 ―魔物の森へ―

第十八話目です。


今話からチアーラから課された試験の内一つが開始です。

一体どんな内容なのか...

チアーラさん達の部隊『修羅』への入隊の条件として、二つの試験を受けることになった。

そのうちの一つの試験は、森で1週間一人で生き抜くことだなんだけど、この森はただの森ではなく、魔物が生息する『魔物の森』だ。


未だ森に入っていないのに、この森がヤバいことだけは分かる。

日中なのに滅茶苦茶暗いし、やたらと魔物のものだと思える声が聞こえてくる。

魔狼(まろう)魔猪(まちょ)魔鳥(まちょう)に後は魔熊(まぐ)かな…他にも聞こえるけどなんの魔物化まではわからない。


「とりあえず入ろう…」


森に一歩踏み入れただけなのに雰囲気が変わった。

それに足音や魔物の声が近づいてくる…


「やばっ…!」


魔物が近づいてくることを察知して棍を構えた瞬間、魔物が草の陰から飛び出してきた。

一体じゃなく、少なくとも十体以上はいる。


「ふっ、はっ、せいっ!」


初めに飛びだしてきた小さい魔猪を棍で弾き飛ばし、続けて返す動きでもう一体も弾き飛ばす。

もう一体は後ろから来ていたので、背中側に結界を張って一度防ぎ、振り向きざまにこいつも棍で吹き飛ばす。


「一旦ここから離れよう…!」


今の戦闘の音で他の魔物も集まってきている。

他の魔物が来る前にあたしはその場を離れるために、全力で走りだした。

大体の魔物はあたしの走る速度についてこれないようで、襲ってくる魔物の数は減った。

それでもついてきて襲ってくる魔物はその都度対処していく。


「移動し続ければ数は少ないからまだ良いけど、これが続くとなると正直厳しいなぁ…

 確か魔物は弱肉強食――強者は襲わない…」


となると道は一つ。

襲ってくる魔物を片っ端から倒して、あたしの方が上だと本能に刻むこと。

あたしは足を止めて、魔物が来るのを待った。


「来た…!」


魔猪(まちょ)魔狼(まろう)魔鳥(まちょう)魔虫(まちゅう)、他にも大量の魔物が迫ってくる。

ただ追い返すだけではだめだ…魔物の命を確実に奪わなければ、本能で動く魔物たちは理解しない。


「フゥー…」


棍をその場に突き刺し、腰に挿していた二本の短剣を抜いて、迫る魔物を切り伏せていく。

正面から来る魔物は短剣で斬り伏せ、背後や死角から迫る魔物は結界で防いで一度蹴り飛ばして距離をとってから対処していく。


「対処できない程の数じゃないし、どれも下級だからまだマシだとは思うんだけど…

 ――流石に多すぎない…!?」


魔物にはの階級があり低い順から【下級<中級<上級<特級<極級】となっている。

魔物の種類で決められているんじゃなくて、同種の魔物内で定められる階級。

例えば魔猪、比較的身体の小さく力の弱いものは下級で、身体が大きく力が強くなるにつれて階級が高くなっていく。

ぱっと見で階級の確認は身体の大きさや、筋肉のつき方、動き方から大体推定できる。


階級が高くなるごとに魔物は強くなるが、中級以上の魔物は基本的に数が少ないらしい。

弱肉強食の世界で生き残った魔物だけが階級が上がっていく。

他の魔物を食らって、その魔力や血肉を取り込んで強くなっていく、っていう話しだったかな。


「魔物の森でもやっぱ中級以上はそう多くはいないのかな…

 まあ、まだ森の中でも浅い方だし、中級がいないのもわかるけど。」


とはいえどれだけの時間魔物との戦闘を続けたか分かんなくなってきた。

氾濫は話で聞いたことしかないが、これ以上の数が溢れ出るということなんだよね。


「どうにかする方法もないから戦い続けるしかないんだけど…

どうしたもんか――うん?」


突然今まで襲ってきていた下級の魔物たちが蜘蛛の子を散らすように去っていく。

本能的に脅威を感じて逃げた感じだ。


(ってことは――やっぱり…)


草陰から一体の魔物が姿を現す――見たところ中級の魔猪だ。

下級よりも体も大きく、獰猛さも感じる。


「少し、気合を入れた方が良いかも…」


下級は問題なかったが中級の方が単純に早くて強い。

気を抜いたらこちらの命の方が危ないなぁ。

それに――


(さっき逃げた下級もまだ遠くからこっちを見てるしね…)


中級の魔猪はあたしより少し大きいくらいのサイズ。

流石に短剣二本ではやりずらい、一瞬でも動きを止めてその瞬間に仕留める方がよさそうだ。

あたしは短剣を腰の鞘に戻し、地面に突き刺していた棍を手に取り構える。


『ブモォォォォォ!』


魔猪が鳴き声を会えると同時に突進してくる。

魔猪は中級とは言え、基本は突進してくるだけなので対処は難しくはない。

せっかくなので少し試してみることにする。


「【結界・(じゃく)】」


魔猪の突進の進路から外れ、代わりに結界の壁を生成する。

結界の強度は込める魔力の量に応じて上がるが、あたしはまだ細かい制御はできない。

だから【(じゃく)(ちゅう)(きょう)】の三段階で使い分けている。

【結界・弱】は先ほどまで下級の魔物相手に使っていたもので、下級の攻撃では罅も入らない程度。


「下級は問題なかったけど、中級相手だとどうなるかな…

 油断は駄目だけど、今のうちに結界がどれだけ耐えられるか見ておかないと」


魔猪が結界にぶつかると、結界から――ビキッ――と音が響く。

流石に【結界・弱】は中級の魔物相手では無傷では耐えられないらしい。

中級とはいえ個体差はあるため、中級の魔物相手は【結界・中】で対処するのが良いかもしれない。


因みに何故こんなことを試しているかというと――

将来氾濫の対処に参加することになった場合、殿階級の魔物にどの程度の強度の結界が通用するかも知っておかないと、把握しておく必要があるからだ。

そうじゃないと無駄に魔力を消費したり、守れるものも守れなかったりしてしまうから。


中級の魔猪は他の中級の魔物と比べても力が強い。

魔熊(まぐ)に比べたら弱いだろうが、聞いたところによれば中級以上の魔熊は少ないらしい。

そのため、結界の強度を試すなら魔猪が最適なんだよね――まぁ、兄ちゃんに聞いただけだけど。


「確認したいことも確認できたし、そろそろ――」


魔猪は結界にぶつかった拍子で目を回している。

自分の勢いが強いせいで、結界にぶつかった時に脳に振動が伝ったらしい――つまり脳震盪が起こったっていうことだ。

あたしは魔猪に近づいて、魔猪の首に短剣を突き立てる。

下級に比べたら毛皮が固いが、問題なく刃は通る。


「うん?」


中級の魔猪を倒した影響か周りでこちらを見ていた下級の魔物たちは散っていった。

本能的にあたしには敵わないということが分かったらしい。

でも中級の魔物相手にいちいち気絶させてからだと、数が多くなると対処できなくなるからなぁ...戦い方をもう少し考えないと。


「休む時はここら辺で、魔物との戦闘をするときは少し深いところまで潜れば良いか…

 今日はもう暗くなってきたし、休もうかな」


外から見たときは森の中は暗かったのだが、実際入ってみると日の光は結構入ってくるようだ。

もちろん、森の外に比べたら暗いのは当たり前なんだけど。


「じゃなかったら、ここまで植物も育たないもんね…」


念のため休む時は結界を張り、警戒も怠らないようにする。

こういう場所では油断は死につながる


「――って兄ちゃんとおっちゃんに散々いわれたしなぁ…」


あの話をしてからチアーラさんとモルガナ姉ちゃんはあんまり口をきいてくれなくなった。

あたしが嫌いになったっていうより、自分の中で色々整理したいんだろう――とおっちゃんは言っていた。

あたしには正直よく分からないんだけど、あたしより付き合いも長いからおっちゃんの言う通りなんだろうなぁ。


因みに兄ちゃんとおっちゃんは変わらず色々教えてくれた。

魔物について教えてくれたのも二人だったし。


――私たちは生き物の命を貰って生きているの、だから命を奪った相手のことを忘れないで。

――奪った命を蔑ろにするような子にはならないで。どんな生物でも一つの命ということは変わらないんだから。


村で狩りから帰ってきた時に母さんから言われたことを思い出した。

村にいた頃は食料を確保するために動物の命を貰っていた。

でも今日はそうじゃない。


「あの頃と違って身を守るためだけど、命を奪ったことには変わりないもんね...」


あたしは倒した魔猪のそばで屈んで手を合わせ、その場を後にした。

そうして、魔物の森での一日目は終わっていった。

一つ目の試験の内容は魔物のはびこる森で一週間一人で生き抜くことでした。

いや、強いと言っても一人で生き抜けってバカじゃねぇの...?


今回は魔物の階級や、アーシスの結界の強度についての話も出てきました。

下級とは言え「これぁアカン、関わらんとこ」と思われるアーシスでした。


★次話は06/25投稿予定です。

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