書き込み乗車
寝坊した。いや、目は覚めていたのだが、体が起きなかった。全て低気圧のせいだ。低気圧が僕の体を圧して、枕から頭が離れなかったのだ。
最寄り駅にて電車を待つ。『日曜の朝』だということを忘れて、ダイヤが平日と違うのにその時気づいた。いつも乗っている電車が来ない。遅刻ギリギリだ。
西日暮里で山手線に乗り換える。上司がタクシー代を持って品川駅のタクシー乗り場で待っている。上野・東京方面に乗った方が早く到着するが、私は間違えて新宿・渋谷方面の電車に乗ってしまった。
車内放送の「次は田端」の声を聞いてハッとした。「たばた」が逆から読んでも「たばた」のせいだ。逆から読んでも同じ駅名だから向きを間違えたのだ。頭の中がばたばたし始めた。座席に座ることはできたが、僕は針の筵に座っている。
電車を降りて逆方向の電車に乗り換えようと思ったが、品川まではほぼ半周だということに気づき、そのまま乗り続けることにした。
大塚駅で誰かが駆け込み乗車をしたのか、閉まりかけたドアが再び開いた。
ドアが閉まり電車が動き出すと「駆け込み乗車はおやめください」というアナウンスが流れる。
ちなみに僕の目の前に立っている学生の男の子は弁当を口に掻き込んでいる。これは掻き込み乗車だ。
目白駅に到着した。前日に下車して駅周辺を歩いて回ったことがある。
駅や車内は目白押しと言うほどではないが、駅前は路地が細いからか、とても人が多く感じた。
新宿駅に到着した。ずいぶん前にこの駅の近くのレコードショップに用があって下車したことがある。
その時はジャケットにバナナの絵が描かれているレコードを買ったが、帰りに駅のプラットホームの多さに驚き、気が動転してすっかりそのバナナを食べてしまった。以来、何かを回したり、自分が回るとレコードの曲が頭の中で流れるようになった。
目的の品川駅に到着した。もう遅刻は確定だが人を待たせているのでドアが開いてすぐに飛び出した。
港南口の長い通路を『ラン・ラン・ラン』と走る。
山手線に乗りながらついこんな話を思いついてしまった。車窓を眺めながらスマートフォンで小説投稿サイトにこの話を書き込む。これは書き込み乗車だ。
「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ」には、言葉では言い表せない良さがあると思います。
工事で運休しているようですね。ちょうどよかった。 10/23