【超越者向け百合掌編】恋する彗星
もうすぐ、愛しのあの星に会える。
永い永い旅路だった。時間にして千五百万年。距離にして往復四光年。
私の名前は鹿林。太陽に恋する彗星の乙女。
太陽を慕う星は多い。多くの星たちが彼女を中心に回っている。
私の住まいは太陽系の一番端で、オールトの雲という彗星たちの集う所。
そこから見る彼女は、ちっぽけな点にしか見えない。
でも、こうして近づくと彼女の美しく偉大な姿が少しずつ分かるようになる。
土星とすれ違う。彼女も太陽を愛する星の一人。でも彼女は、太陽に近づくことは出来ない。そこに、ちょっとした優越感を感じる。
もっとも、水星の近さに比べると一番近づけても敵わないので、そこはいささか悔しい。
ついに愛しの太陽の近くに来れた。前に会ったときと変わらない姿で安心する。
太陽系に光をもたらす、偉大で美しい星。
体が火照って熱い。喜びに打ち震えて体内のガスを吹き出し、長い尾を引いてしまう。それも二筋も。恥ずかしい。
再会はつかの間で、ぐるりと彼女の周りを回ると、愛しい方の姿が遠ざかっていく。
さようなら、太陽。また千五百万年後に会いましょう。
再び彼女に会えるようになるまでとても永いから、太陽系から外されたり、あるいは他の恒星に捕まって彼女を諦めなければいけないこともあるのかもしれない、と悲観的な気持ちになってしまう。そんな良くない考えを、頭から追い出す。
私は鹿林。太陽に恋する乙女。
<制作秘話>
こんばんは。いつものやつです。
超越者向け百合小説の前作、「【超越者向け百合】ゴンドワナ大陸ちゃんは大陸百合ハーレムを築きたいようです」(https://ncode.syosetu.com/n3679gg/)のあとがきで、「天体百合を書くかも」的なことを書いたので、本当に書いてみました。
ただ、天体というのは基本めっちゃ距離が離れているもので、どう絡みを作ったらいいかな、と悩みまして。
惑星衝突とかわかりやすいけど「ゴンドワナ」の二番煎じ感が強いし、普通に大惨事だし尊さもなにもないし、じゃあホットジュピターとか連星ネタでもやろうかとぐるぐる悩んでいたところ、私の知る限り太陽系の一番遠くにある鹿林彗星が愛しの太陽に会いに行く話を思いつき、これは儚げで美しいんじゃない? と書き上げてみました。
さて、次はどんな超越者への挑戦状を作りましょうか。お楽しみに!