5.王子とお茶会の続きを
お久しぶりです。
梅雨がきましたね。
ですが今日は梅雨の中休みらしいです。雨が降らない日にしたいことちゃんとやりたいです。
ランニングとかしたいな~
お布団干したいな~
とかといったことですかね。
「先ぶれを出すのが遅くなってすまないね。」
第一王子が話す。
「いいえ、とんでもございません。お待ち申し上げておりました。ご案内いたします。」
アーガイル公爵家のめったに動揺しない家令でさえも、相手の身分が高すぎて恐縮しきりである。まあ、なんとか動揺は隠しきれているように思えるが。
そして、王子を応接室に案内すると、
「少々お待ちくださいませ。ただいま当主にお取次ぎいたします。」
「ああ。」
家令は部屋を出るやいなや小走りである。とりあえず当主の部屋へ直行だ。
「旦那様、失礼いたします!緊急案件でございます」
「どうした?グレイ、お前が焦るなんてよっぽどのことだな。」
「ええ、よっぽどのことでございます。高貴すぎる来客が現在ございまして…」
「早く言いなさい。」
「第一王子がお見えです」
「…は?」
「…はあ」
「…え?」
「…ええ」
「…私が行けばいいのか?しかも、先ぶれは…」
「ほぼ同時にお着きになっていました」
「私に用があるのか…いやそれとも何か、昨日メアリがまずいことをしたか…はたまた興味を持たれてしまったか」
「どちらもありえますね…」
「今、メアリは出かけている。とりあえず私が応対しよう」
「はい、よろしくお願いいたします」
応接室に入ると、第一王子が華々しい雰囲気をそのままにソファーに座って、きれいな動作で紅茶を飲んでいた。その横顔はまだ幼さを残していながら、すでに覚悟を宿した強いまなざしをしていた。
「お待たせいたしました。」
「ああ。いきなりの訪問で申し訳ない。アーガイル公爵」
「いいえ、問題ございませんので、時間の許す限りお寛ぎなさって行ってください」
「ああ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。」
「ところで本日のご用件などはおありですか?」
「そうだね、失念していた。今日はメアリ嬢に聞きたい話があるんだ。」
「さようでございますか。…現在娘は支度をしているので、もう少々お待ちいただけますか。」
「ああもちろんだよ。こちらがいきなり来てしまったからね。」
「…ありがとうございます。それではもうしばしお待ちください。失礼いたします」
「メアリはまだ帰ってこないか…。まあ、仕方ない。予定的にはそろそろ帰ってくるだろう」
「ええそうでございますね。待ちましょう」
玄関で家令と当主が目当ての人物を待っていると、そんなに経たないうちに玄関からアンとメアリが入ってきた。
「…ただいま。」
「……」
「…ええ、分かっているわ。言わないで。私たちも外で見かけたから…」
「そうか。じゃあ、早く着替えて応接室へ行きなさい。」
「はい。お父様今日までありがとうございました。家のために私のことはどうか切り捨ててください」
「…いや、メアリ多分そんなことにはならないと思うが…。」
「えっ?!」
「さっき第一王子とお話をさせていただいたところ、そのような雰囲気ではなかった。しかもそんな
ことがあれば真っ先に私に話がいくだろう。」
「はあ~そうなのね。良かった」
「だが、失礼のないように。ほれ、早く着替えておいで」
「はい、お父様」
「お嬢様完璧でございます。では参りましょう。」
「ええ。ありがとう。」
淡い緑色のドレスを纏い、薄めの化粧をして、メアリは応接室に向かった。
「お待たせいたしました。アーガイル公爵令嬢メアリでございます。」
「ああ、急に来てごめんね。」
「いいえ、問題ございません。どうぞおくつろぎになっていってください」
「ははは。公爵と同じことを言うのだね。」
「そうでございましたか。」
「今日は、君が昨日のお茶会で話したことの続きが気になってしまって、屋敷まで訪ねてしまった。昨日の話の続きを聞かせてくれないか?」
「話の続きをお話しさせていただこうと思います。ですが、厚かましくも、これは私個人の意見としてお聞きいただくことをお約束していただきたいのです。」
「わかった。約束するよ。」
「私は貴族としての誇りは持っておりません。生まれた家がたまたま貴族であっただけで、まだ領地経営を行ったり、領民の生活のことを真剣に考えて働いたりしたこともない。そんな私が、責任の一つも背負っていない私が貴族の誇りなど持てないと思うのです。ですからもし領民の生活の向上のために政略結婚が必要ならば喜んでいたしましょう。そしてその時初めて私は貴族の誇りというものについて考え直すかもしれません。」
「・・・うん。私も私的な意見になるが、君は今の話を聞いたところよくいる貴族令嬢に施される以外の教育も受けているようだ。そんな君が、領地経営で苦難に陥った時にそんなにあっさり赤の他人と結婚できるものかい?」
「ええ。そのような状況に陥った時に、できる限り考えて最善を尽くすと思います。しかし、世の中きれいごとだけでは解決できないことがたくさんあります。なので、政略結婚は最後の手段のひとつになるかもしれませんね。ですが、政略結婚した後じっとしているかどうかは保証しませんわ。」
「そうか。そうか。君は、僕よりも現実を見ているように思う。」
「どうでしょうか。私は外してはいけないことに関しては希望的観測をしないようにしております。そういうところのことでしょうか。」
「ああ。そうなのかもしれないね。やっぱりアーガイル公爵の手腕は素晴らしいな。あ、気を悪くしないでね。君が勉強したから今こんなに賢くて、真実に近づける人なんだと思う。それと、やはり君にその機会を与えた公爵がすごいと思うってわけだよ。」
「ええ。殿下の意図なさっていることはわかっております。私自身日ごろよりたびたび父の手のひらでころがされていることを感じております。」
「うん。これからも君と色々なことに関して話をしたい。君の話を聞きたい。いいかな?」
「私はかまいませんが、社交界での立場や政治場面におけるパワーバランスに注意しながらですかね。父に相談してみます。」
「そうだね。あと、少しずついいからもう少し砕けて話してほしいな。」
「ええ、鋭意努力いたします」
「それが固いんだけどな~」
「ふふふ。」
その時に笑ったメアリの顔は砕けた素の笑顔だった。まぶしくて、普段よりも幼く、年相応に見えるとても可愛らしく、きれいな笑顔だった。
リチャードは少しその笑顔に見惚れてしまった。
帰り際、メアリが第一王子を見送りに行ったとき、
「あと、僕のことはリックと呼んでくれないか」
と第一王子が言った。
「・・・えっと、鋭意努力いたします。」
「さっきと同じこと言っているよ。あはは。」
「ふふ。ええわかりました。」
「ではまた連絡するよ。メアリ嬢、今後よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
と言って第一王子とメアリの初めの個人的な対面は終了した。
ありがとうございました。