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それでも僕らは生きる  作者: まっちゃー
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4.スイーツビュッフェへ

連日、お読みいただいている方、ありがとうございます。

そして、初見の方も、ありがとうございます。

~・お茶会 帰りの馬車にて・~

「メアリ様お疲れさまでした。」

「ええ。お疲れさまでした。本当に疲れたわ~。しかも危ない場面があったわ。これが大事にならないといいわ。」

「何があったのでございますか?」

「危うく迂闊な発言をしてしまうところだったの。いえ、少し言いかけたし、頭の良い人ならば私が言いそうになったことを文脈から読み取れてしまったかもしれないわ。」

「まあ、そんなことが。周りの方の反応はどのようでしたか?」

「う~ん。続きを気にしてはいたけど、そこまで気になっている様子ではなかったと思うわ。」

「そうですか。それなら、ひとまずは極端な噂とかにはならないですし、大丈夫そうですね」

「そう願うわ。私がうかつに発言しそうになった、質問をしたのがリチャード王子だったのよ。絶対にあれは私たちを試していたわ。」

「そうですか。まあそうですよ。今回のお茶会の目的はまさにそういうことですから。」

「う~ん。でも、同世代との交流とか言いながらお堅さは抜けていない会だったけどね。」

「それは、そうですよ。アーガイル公爵家で開かれるお茶会とはまた違うのですから。王城のお茶会は特有の緊張感が漂うものだと聞いております。しかも、今回は王子のご学友と婚約者の候補者を見定めるという趣旨もあったのです。それは皆堅くもなりますよ」

「そうだったの?!本当に単なる同世代交流会だと思っていたわ。」

「確かにそうですよね。まだ12歳の子息、令嬢にとってはぴんと来ないことですね。」

「う~ん。そうなのよね。私もそろそろ婚約者とかの話って出ちゃうのかな~。お父様のことだから普通にはいかなそうなのよね」

「そうですね。私もそこは何とも」

(「旦那様はメアリ様と第一王子の婚約も選択肢に入れている点で、普通じゃないですよね…」)とアンは内心メアリの言う通りでもあると思っていた。

「はあ。そうそう!明日はスイーツビュッフェに行くわよ!」

「…そのことは決して忘れないのですね。しっかりと旦那様に許可を取れたら行きましょうね。」

「…(何が何でも行くわ)」

アンの言うことにメアリは返事をせずににっこりと笑っておいた。

「メアリ様!そこはしっかりしておかないと、後々大変なことになるんですからね。何も言わずにどこかに行くと、皆さん大変心配なさいますから、いつも必ず行先は言ってくださいね」

「うん!行先を伝えてから外出するから心配しないで」

「ええ。これが我々の最大限の譲歩ですからね」

「わかっているわ」

そう言った後、メアリはキラキラしい目をしながら、明日食べられるであろうスイーツを想像し、よだれが出そうな勢いだった。

この様子を見て、アンは小さなため息をついた。







「おはようございます。お父様、今日、私王都のスイーツビュッフェに視察に行ってまいります。新たな知見を広げてきますわ。」

「おはよう、メアリ。スイーツビュッフェに行くことでメアリの知見が広がるかということは少し疑問だが、昨日は何とか令嬢然として振る舞っていられたと聞いているから、今日はゆっくり過ごすといい」

「ありがとうございます!お土産もばっちり買って帰りますので安心してください、お父様、お母様」

「ええ。でもね、メアリ、私たちが一番心配しているのはあなたが王都で何か問題に巻き込まれやしないかということなのよ。それかもしくは自分から問題に足を突っ込んでしまわないかということが心配なの。」

「ええ。そこも王都に滞在している間は忘れていないつもりよ。」

「ええ。お願いねメアリ。無茶はしないで」

「そうだ。メアリ、正義感だけでは解決できないことが世の中にはたくさんある。それを忘れずにいてくれ」

「ええ。ええ、とにかく気を付けて行ってきます。美味しいものが食べられるのならいくらでも猫かぶれるわ。」




~・馬車の中にて・~

「もう少しで着くわよね。」

「ええ。もうでございます」

「たくさん馬車があるわね。みんなスイーツビュッフェに来たのかしら」

「スイーツビュッフェは人気なのかもしれませんね」

「ああ~楽しみ~」



馬車を降りて少し歩くと、王都の中心に着いた。そこは人々の活気で溢れ、生活感に満ちていた。多くの店が並び、たくさんの人が出入りしていた。

あまり貴族の令嬢が行くべきではない場所ではあるが、今日メアリは庶民に寄せてその服装をやつしてきたために、この場所に行くということも決めていた。

子供から大人まで、メアリが行く先々でみな値切り交渉を行っていた。

店が並ぶ、道の端のほうまで来ると、競争力の弱い店などが多く、値段がどんどん安くなっていた。そして、そこに集まる人々の身なりもいかにも貧しい様子を増していった。

貧しい身なりの8歳ほどの少年が一本の長細いパンを持って店主と値切り交渉をしようとした時、店主は子供を相手にせず、あまつさえ子供を蹴り飛ばし、パンを奪い取った。

「帰りな。お前みたいな貧しい子供に売ってやるパンはねえんだよ。」

「…」

子供はなおも蹴ろうとしてくる店主から逃れるのに精一杯で何の言葉も発せない。

そして、子供は路地裏の方に向かってのろのろと腹をおさえながら歩いていく。

メアリは来た道を引き返し、中心街で人を捕まえて、

「すみません。ここで一番美味しいパン屋はどこですか?」

と貴族らしからぬ口調で尋ねた。

「ああ~なんだいお嬢ちゃんこの辺には普段来ないのかい?ケントとラウラの夫妻がやっているパン屋が一番おいしいんだよ」

「それはどこにありますか?何というお店?」

「すぐ向かいの右側の店だよ。ほら、あそこの人が並んでいる店だよ」

「ありがとうございますっ」

とメアリは素早くお礼を言い、頭を丁寧に下げるとすぐに、店の方まで走っていった。

その行動の素早さにアンは追いつくのが精いっぱいで、息を切らしながら

「メアリ様、、、何をなさる、、おつもりですか?」

「う~ん。大丈夫よ。危ないことではないわ。強いて言うのならフィールドワークを行うとさっき決めたの」

「え、何ですか?フィ、フィールドワーク、、全然意味が分からないのですが…」

「とりあえず、ここに並ぶわよ。」

「…はい。」

こうなったメアリのことを誰も止められないということをアン自身が一番よくわかっていたため、メアリに振り切られないように、ついていくことにとりあえずは集中することにした。

待つこと10分ほどで、パンやの中に入ることができ、メアリは即決で2つほどのパンを購入した。いずれも、シンプルなパンだった。


「よし、パン買えたし、戻るわよ。」

「どこにですか?」

「さっきの子供が歩いて行った路地の方だけど」

「あそこにいくのですか?しかも、あの子供とコンタクトを取ろうなんてお考えですか?それは危険すぎます!やめておきましょう」

「大丈夫よ。あの子は8歳ほどの子よ?」

「いえ、分かりませんよ。飢えたものの思考なんて飢えたことのない私たちにはわからないのですよ?」

「ええ。それも込みで今から確かめに行くのよ。これぞフィールドワークよ」

と言って、メアリは走り出してしまった。

「ちょっと置いていかないでくださいメアリ様―!」

「ほら、早く~アン!あの子が見つけられなくなってしまうわ」



そして、先ほどの路地の方に着き、子供が入っていこうとしていた路地裏に着いた。

路地裏は光が入ってこず、じめっとしており、なんだか変なにおいまでするようだった。

メアリは注意深く目をやり、先ほどの子供を見つけた。

「ねえ、少し君に仕事をしてほしいの。引き受けてくれる?」

「…」

「君にやってほしい仕事っていうのは、私にあなたのことを教えることよ。報酬はこのパン」

といってメアリはパンを1本袋から取り出し、見せた。

「…ぼくの何をはなせばいいの…」

と不安そうに少年が言った。

「そうね。じゃあ、とりあえずあなたの好きなことを教えて。」

「そんなこと?!バカにしてるの?それとも、ぼくをどこかに連れてって、売ろうっての?」

「いいえ。馬鹿になんかしていないわ。至極真面目な質問だけど。そして、誘拐して、人身売買をするつもりも毛頭ないわ。信じてっていうのには証拠がないわね。ごめんなさいね。まあ、だから、これはあなたにとって一種の賭けよ。どう?私を信じて私の質問に答えるか、信じられないから私の質問を拒否するか。」

「……わかった。はらがへってるからもう限界なんだ、僕も。答えるよ。好きなこと、とかはあんまりよくわかんない。……こんなんじゃ質問に答えたことにならないよね。だからパンももらえないい…」

それに対してメアリは、パンを手渡して

「いいえ。大丈夫よ。ありがとう。あなたについての質問なんだから、私が用意できる答えなんかないわ。あなたにしか答えは用意できない。そして、そのすべてが間違いではない。間違いになんてなりえない。私はそう思うわ。」

と言った。

「じゃあ、次の質問はちょっと立ち入ったことを聞いてもいいかしら。例えば年齢とか、家族のこととか。だめっていうのなら無理には聞かないわ」

「年は10だよ。…家族は、言うのがだめじゃない、けど、…」

「ええ。いいわ。言わなくて大丈夫。じゃあ最後に私とお友達になってくれる?」

「………いいよ。」

少年はたっぷり10秒くらい考え、迷いながらもそういった。

「私の名前はメアリよ。今12歳なの。よろしく。」

「ぼくの名前はオリバーだよ。よろしく。お姉ちゃん。」

「あら、私兄はいるけど、弟はいないから新鮮ね。オリバー、改めてよろしく」


そう言って二人は握手した。



メアリは、オリバーと別れた後、

「はっ、私ったら本来の目的であるスイーツビュッフェに行ってないっ!」

「ようやく気が付きましたか、メアリ様」

「しかも、今日はそのために朝ごはんは少なめにしてきたからもうお腹がすいて限界よ。どこでもいいわ。何か食べられるところに入りましょ」

「…いいのですか?」

「ええ、仕方がないわ。今日は中止よ。でも、絶対今度必ず行くんだから。何ならオリバーも一緒に。それでも今日、お土産を買うのはマストよ!」

「わかりました。」

(「やはり今後もメアリ様はオリバーと接触を続けるおつもりなのだ」とアンは察し、内心でため息をついた。「いやそれにしても私溜息つき過ぎじゃないかしら。心労が多いわ。そのうちはげてしまうかも。ひい。」とも思っていた。)



帰りの馬車にて

「あれでも、考えてから、オリバーと接触したのよ。ああいった子の存在は一応知っていることは知っていたけど、本当に自分の目で見たのは初めてだったから。」

「はい。わかっております。メアリ様のご年齢にして、あのように接することができることに私感動いたしました。」

「ありがとう。まあ、でもこれはお父様の教育によるものよ。つまり、所詮、私はお父様プロデュースで出来上がっているのよ。お父様が私のことを道具としてではなく人間として扱ってくれていることが最大の幸福ね。でも、やっぱり手のひらで転がされているような気がして、たまにむっときちゃうんだけどね」

「確かに、旦那様の計算はすさまじいものがありますからね。ですが、旦那様のメアリ様を始め、ご家族への愛情は偽らざるものであると、客観的に見て言えますから、大丈夫ですよ。」


家の門が見えてきたところで、メアリとアンにはとんでもないものが見えた。

「えっあれって、王室の馬車よね?」

「!そうでございますね!」

「何かあったのかしら。はっ、昨日の私の失態について追及しにきた。お父様に誰かが報告しに来たとか?わ~どうしよ。」

「…大丈夫です。何の根拠もありませんが、きっと大丈夫です。落ち着いて堂々となさっていれば何事もどうにかなります」

「…ありがとう、アン。これが年の功ね」

「はい。最後の言葉は少し余計ですが」

二人は外の様子から目を離さずに会話をした。




メアリたちの馬車が家の門に着いたとき、王室の馬車から出てきた人物はなんと



第一王子リチャードだった。



それを見て、メアリとアンが顔面蒼白になり、落ち着きを失ったことは言うまでもない。





ありがとうございました。

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