2.ご学友と婚約者選びのお茶会
ちょっとだけ長くなった?!という感じです。
メアリ 12歳。
今日は、第一王子が同世代の男女と交流するお茶会に参加することになっている。
「はあ、王都はいつも人が忙しなく動いていて、少し窮屈ね。まあ、そこに活気があるというのが王都のいいところなのかもしれないけど、田舎育ちの私としてはねえ、アン」
「そうでございますね。確かに王都は少し忙しなすぎますね。これはいるだけで疲れてしまいますね」
「今日は王城に参内するのね~。何か面白いことがあるといいわ」
「メアリ様が期待しているような面白さのものは一つもないと思いますよ」
「えぇ~つまんない」
「これから王城に参内する令嬢の口調じゃございませんね」
「王城ではちゃんとするわ」
「ええ。くれぐれもお気を付けくださいね。私今日を楽しみにしていた反面、メアリ様が何か問題に足を突っ込んでしまわれないか心配しておりました。どうかおとなしくしていてくださいね」
「もう、アンは私のことを何だと思っているの?」
「貴族令嬢らしからぬお転婆なお嬢様だと思っております。もちろん貴族令嬢に擬態することも可能であるとは存じ上げていますが、うっかりとその被った猫が逃げ出してしまわれる可能性も考慮していただきたいのです」
「言うわね。否定できないのが悔しいわ。今日は本当に気を付けるから、大丈夫よ」
「本当ですかね?ちなみに先ほどまで期待していた面白いこととはどのようなこと何です?」
「それ聞いちゃう?王城の庭で、不倫カップルが逢引きしているとか、官僚と大臣の会話とか、官僚の愚痴とかかしらね」
「やはり、それらはメアリ様が踏み入れられる場所で行われるものではありませんね」
「そうなのね~。はあ、憂鬱よ。この抑圧に打ち勝った暁には、王都で有名なスイーツビュッフェというものに行くのよ」
「…」
「アン、そんな微妙な顔しないでよ。かわいい顔がもったいないわ」
「いえ、それは私のセリフです。メアリ様、そのような尊いお顔で頭のおかしいことを言わないでください」
「むぅ。アンが厳しい~。それもさ、私の魅力の一つよ!」
「…まあそうですね。旦那様も貴族の間で変わり者と有名ですが、お嬢様のそれはまた違うジャンルな気がするんですよね。どなたから、その気質を受け継いだのでしょうね。
いえ、しかしもう着きます。外行仕様にお切り替えください。」
「そうよね。私の性格はお父様の変わり者の感じとはまた違うわ。
ああ、そうね、もう着くわね。いつもそうやって私のことをよくみて、支えてくれてありがとうね。」
「…そのようなお言葉を賜り光栄でございます。」
アンは涙で言葉を少し詰まらせながら答えた。
「ではこれより先、私はお供することができませんが、メアリ様無茶はなさらないようにしてください。」
「ええ。わかっているわ。いってきます」
王城の庭は緑豊かで、多数のテーブルの周りには色とりどりのドレスを着た令嬢たちと、正装をした子息で溢れていた。
メアリは、最初その場面を見たとき、すこしその色味の多さに目がくらむ思いがした。
しかし、アンにくぎを刺されたこと思い出し、「いかん、いかん」となんとか素の自分に戻ることがないように気を引き締めた。
そして、用意された自分の場所まで行くと
「ごきげんよう。アーガイル公爵令嬢メアリです。本日は皆さんと素敵な会話ができることを楽しみにしておりましたので、よろしくお願いいたします。」
「あら、アーガイル公爵令嬢のメアリ様でいらっしゃいますの?お初お目にかかります。
私バークシャー伯爵令嬢ソフィアでございます。アーガイル公爵夫人はコヴェントリー侯爵様の妹様でいらっしゃいましたよね。ではノア様とメアリ様は従兄弟でございますのね」
「ええ。そうです。彼とは幼いころからの付き合いがございまして、年に2回ほど会う機会がありますわ」
「そうなのですね。」
「よく貴族の家系図や家族関係をお知りなのですね。私は、ずっと田舎にいましたので、そういうことには少し疎くて、それで失礼がございましたらすみません。」
「ええ。大丈夫ですわよ。これを機にゆっくりと知っていけばいいじゃないですか」
「ありがとうございます」
「あら私がしゃべりすぎてしまったわ。ごめんあそばせ。」
「大丈夫ですよ。むしろ場を盛り上げ、アーガイル公爵令嬢を輪にお入れしようとしてくださってありがとうございます。私モールトン公爵家嫡男のイーサンと申します。以後お見知りおきを。」
そして、順々に6人ほどが自己紹介をしていく中でひときわ鋭い視線を感じ、その視線の先を見つめると、ある一人の令嬢ににらまれていた。メアリは自分のここまでの言動を振り返っても明らかな自分の非を見つけ出せなかったので、いったんその視線を無視し、目が合った時には人当たりの良さそうな作り笑顔を張り付けることにした。
そして、最後の令嬢が座席に来た。茶髪が見事にカールし、大きな赤眼をもつその令嬢は、ドレスと化粧をばっちり決めてきており、非常に気合が入っていた。
「ごきげんよう。私ナーストン公爵令嬢エリザですわ。本日はリチャード王子も出席なさるのできっと素敵な会になるでしょうね。楽しみですわね」
若干彼女の勢いに圧倒されながら全員が互いに自己紹介を済ませ静かに主催者の登場を待った。
そして、ついに主催者の王室関係者が登場し、会場が厳かな空気に包まれた。皆年端もいかない若者だというのだが、貴族教育を受けているものとして王族は非常に尊い存在であるという認識が強くあったために、厳かな雰囲気にならざるおえなかった。
「貴族子息、貴族令嬢のみな、本日は集まってくれてありがとう。どうか、そのように緊張せずに楽しんでいってくれたまえ」
という王の挨拶にはじまり
「本日は参内ありがとう。様々な者と多岐にわたる会話ができることをうれしく思う。
どうか楽しんでいってくれ。」
という王子の挨拶もあった。
そののち、王子はそれぞれのテーブルに数分ずつ留まり、会話を楽しんでいるようだった。
王子がメアリたちと別のテーブルで話している間、令嬢は早く来ないかしらと言い、ずっとそわそわしていた。そして、先ほどメアリをにらんでいた令嬢はずっと王子の方をみつめ、現在テーブルで行われている会話には全く入ってこない。
ついに王子がメアリのいるテーブルへやってくる番となった。
「今日はみんなといろいろな話をしたい。僕たちは同世代だから、今後大人になった時互いに助け合えるような関係を築きたいんだ。だから話せることは何でも話すよ。その代わりと言っては何だけど、みんなも同じようにしてほしい。」
と王子が言うと、ナーストン公爵令嬢エリザが
「私、ナーストン公爵令嬢エリザと申します。そのようにおっしゃっていただけてとても嬉しいです。何をお話ししたらよろしいかしら。とにかく、このようにリチャード王子とお会いできることをうれしく思いますわ。」
と積極的に動きアピールした。メアリはその様子を見て、「ほおさっきまでの勢いは少し殺してナチュラルにアピールできとるな、やるな、やはりだてに公爵令嬢やってないなこの娘」
と傍観者の立ち位置に立とうとしていた。
「ナーストン公爵には軍務大臣として、お世話になっているよ。僕もみんなと会えてうれしいよ。」
その後王子は皆が名乗っていないのにも関わらず一人とも間違えずに、名前と家族構成などすべてを当て、皆を驚かせた。
そして、このテーブルに着く貴族子息、貴族令嬢の本質を試すように
「皆は自分が貴族であることに誇りを持っているかい?」
と質問した。
また、ナーストン公爵令嬢が一番に
「私は自分が貴族であることに誇りを持っております。そして、誇りをもつようにと教え込まれてきましたわ」
と答え、その後もテーブルに着く全員が似たように答えた。
そして、最後にメアリが答える番で
「私は貴族としてある種の矜恃はもっておりますが、貴族であることに誇りを持つということは正直に言って…。失礼いたしました。本日実は私あまり体調がすぐれないゆえに、変なことを申してしまったかもしれません。ご容赦ください。」
一緒にテーブルに座っていたほかの貴族子息、令嬢が貴族であることに誇りを持つということに何の疑いも持っていないということに、驚き、失望し、つい自分知っていることまで語ってしまおうと熱を入れ過ぎた。公爵令嬢であり、社交界にある程度力を持つ家のものとはいえ、あくまでも“ある程度”なのだ。例えおかしい所があっても、それをその場で準備もなしに指摘して、角が立ってしまっては、この世界では孤立してしまう。もっとひどいと、陥れられてしまうかもしれない。
メアリの話を聞いていた、周りの貴族子息、令嬢はメアリの話の続きを、結論を聞きたそうにしていた。
「体調は今平気かい?」
と王子が尋ねてくる。
「はい。今は良うございます。しゃべる際に緊張しすぎてしまったからかもしれません。ご心配おかけしまして申し訳ございません」
「いいや、大丈夫だよ。この後も参加できそうならゆっくり過ごすといいよ。」
「はい。お心遣いをありがとうございます。」
その後、最後まで恙なく会は進み、終了した。
ありがとうございました。