第7話 猛虎大牙
水中洞窟を抜け、洞窟の有る湖の中の山沿いを通って湖岸に出た。
湖岸は石や砂利が広がり、その外に草が広がるエリア、さらにその外に広大な森が広がっていた。
「アリス、周囲索敵!」
『森の中を除き、半径100m以内に敵性生命体らしき反応はありませんが、スーツの簡易センサーではそれ以上索敵できませんし、感度もそれほど高くありませんので気を付けてください。生体センサーはオンしてますので、ARモニターでも常に確認できます。』
「わかった!」
程よい石の上に腰を下ろしヘルメットを取り、水中スラスターもはずし、武器庫に収納した。
「武器庫収納!」
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武器庫
パイロットスーツヘルメット × 1
水中移動用カンイバーニア × 1
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問題なく収納されていたのを確認してARモニターを開くと生体レーダーを表示した。
「森の中には何かいるが、近付いてくるような気配はないから大丈夫かな。」
「ラムル、こっちだよ~」
レイクが山の上から呼ぶ。
「まてよ、俺は空を飛べないんだから。」
「えぇ~、不便だな~」
俺は山の縁を大回りして、レイクを追いかけると、向こうに小高い丘が山から繋がっているのが見えた。レイクはそこへ向かっているようだ。
レイクに追いついて丘に近付くとアラートが耳の中に響いた。AR端末付属のイヤフォンが鳴ったのだ。
俺は『ぎょっ!』とした。ARモニターの生体レーダーに6体の反応が表示されている。
「れっ、レ、レイクまて!! 何かいるぞ。」
対象までの距離は約60m程。丘の上に何かがいるのが目視でも確認できた。ARモニターを望遠モードに切り替えると2m以上はありそうな巨大な虎が、いや、虎に似た生き物が6体、唸り声をあげながら、こっちを睨みつけていた。
全身は黄色と黒の縞模様、口には二本の大きな牙が煌めき、前足には鋭い爪が地面に食い込んで今にも飛び掛かりそうな様子だった。
その中でも一層大きな個体が、前に出てきて威嚇の唸り声を上げた。
「ガルぅぅぅーーーーぅ!!!!」
俺は、奴等を刺激しないようにそうっと後ずさった。その刹那、さらに大きな唸り声をあげてそいつが、地面を蹴った。爪をスパイクのように突き立てあっと言う間に距離を詰めてきた。
(素晴らしい、ダッシュだ。)
などと感心する間もなく、奴を背にして一目散に逃げ出した。
「レイク、なんだありゃ!!」
「魔虎だよ!」
「てめえ、なに『さらっ』と言ってやがる! あんなやばいのがいるなんて聞いてないぞ!!」
「言ってないもん。」
レイクが逃げる俺の横を飛びながら言った。
「それに、ラムルだったら、あれ位、簡単に倒せるでしょう。」
「そんな訳あるかぁ!!」
「その腰に付けてるの強力な武器だよね。」
「くそう、仕方がない!」
そう言った瞬間、追いついて来た魔虎の牙が煌めき、口蓋を大きく開けて俺に躍りかかる。俺は、真横に飛び間一髪で牙を避け、腰のホルスターから素早く光銃を抜いた。魔虎は前足を振り上げると爪が伸び、俺めがけて振り下ろす。その爪を辛うじて光銃で受けたが、耐え切れずに吹っ飛ばされ、近くの草藪の中へ転がった。
「痛ってぇ!」
魔虎は、俺に向けて2度3度と爪と牙で攻撃してきた。俺は草藪の中を転がりながら、なんとか銃口を魔虎に向けトリガーを引いた。
光銃から光弾が打ち出され、魔虎の頬を掠め、頬の剛毛が数本、宙を待った。無理な体勢だったため、命中はしなかったが、警戒させるには十分だったようだ。
「グルルぅぅぅぅ、グルぅ」
魔虎が威嚇の唸り声をあげて様子を見ている。俺も銃口をむけ警戒しながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼我の距離5m程で向かい合う、俺と魔虎。俺は両手でしっかりと照準を取るとトリガーをひくと、魔虎が、頭を下げ、光弾を躱し、そのまま突進してきた。俺は体当たりをまともに受け倒れこんだ。
魔虎が、俺の両肩を抑えた込んだ。口蓋を目一杯開き、大きく鋭い牙が喉元目掛けて迫る。その時、光銃の銃声と共に肉の焼ける匂いが漂った。
魔虎は俺にかみつこうとした姿勢のまま固まっていた、その背中には黒ずんだ傷口がありそこから煙が立ち上がっていた。光銃は、高出力のレーザー光線銃だ。並みの生物が直撃を受ければ、一瞬で細胞は炭化し貫通する。肩口を押さえ込まれた俺は肘から先だけで何とか銃口を魔虎の胸に向ける事ができた。それは丁度、魔虎の心臓の位置だった。心臓を撃ち貫かれた魔虎は、一瞬で絶命していた。
魔虎は俺の上に覆いかぶさるように崩れ落ちた。俺は、その巨体の重さに難儀しながら、なんとか抜け出すとその場に座り込んだ。
頭の中にアラームが鳴った。目の前にモニターが自動的に開くとメッセージが流れた。
『魔物:魔虎を討伐しました。』
『経験値を獲得しました。』
『階梯上限に達しました。階梯2に上がりました。』
『機神召喚 階梯2に上がりました。』
『階梯上限に達しました。階梯3に上がりました。』
『倉庫 階梯2に上がりました。』
『階梯上限に達しました。階梯4に上がりました。』
『異常状態耐性 階梯2に上がりました。』
『機神召喚 階梯3に上がりました。』
『魔力感知 階梯1を取得しました』
「なんか出てきたな、後で検証するか。それより…、」
俺はメッセージを無視して、モニターを切るとレイクの方に顔を向け、睨みつけた。
「レイク、どういうつもりだ! 危うく、死ぬところだったぞ!」
「いっ⁉ でも、大丈夫だったじゃない。」
「それは、運が良かっただけだ。一歩間違えれば、俺は死んでいた!」
「あたしは、ラムルなら問題なく魔虎を倒せるとわかっていたよ。」
「なにを根拠に!」
「根拠なんかないよ! でも、あたしの直感では、ラムルは必ず途轍もないことをする。数千年もここにいて、こんなのは初めてなんだ。だから、ラムルは絶対に死なない。どんな、危機になっても、次の瞬間死ぬ様な状態になっても、必ず生き残るんだよ!」
俺の迫力に引きずられる様に、レイクは真剣にまくし立てた。本当に根拠などないのか?なぜこれほどまでに「絶対に死なない」などと断言できるのか? まったく、意味不明だ。
丘の向こうの魔虎達は、動く様子が無いが、警戒を解いていない様でさっきからずっとこちらを凝視している。光銃を恐れているのか?
「もういい! それで、この魔虎とか言うやつは、どう言う獣なんだ?」
納得できたわけではないが、レイクにとっては、至って真面目なようでこれ以上の追及しても仕方がないから、話題を変えた。
「ん⁉️ 獣じゃないよ!」
「獣じゃないなら、何なんだ?」
「魔獣だよ!」
「魔獣? 獣とは違うのか?」
「そうだよ! 獣って言うのは、自然に発生して生植だけでで繁殖するの。でも、魔獣は魔物の一種なんだ。詳しく説明が難しいなぁ…。アリス、説明出来る?」
(アリスに丸投げかよ!)
「アリス、どうだ? 魔物と魔獣について判るか?」
AR端末からアリスに聞いて見た。
『はい、マスター!』
『まず、魔物についてですが、「魔物」とは、基本的に魔素の濃い場所で発生又は誕生します。生物が長い間、濃い魔素に晒されると体内に魔石が発生し、元の形質を維持しつつDNAが変質、攻撃的かつ、凶暴、強靭になり、大型化します。これが「魔物」で、動物、植物を問いません。又、生殖、受粉等も可能であり、そうして世代を経たものは、凶暴性が低下する場合もあります。こうした「魔物」の内、動物系のものを「魔獣」、植物系のものを「魔樹」「魔草」などと呼びます。』
「よくわかったよ。それは、全世界情報の情報か?」
『はい、そうです。』
「すごいな。全世界情報! レイクなんかに聞くより、余程、正確で詳しいな!」
「チョット、『なんか』ってなによ『なんか』って!」
「じゃあ、この死骸は」
「無視⁉️、あたしを無視するの? この小さくてプリティなあたしを!」
「どうすれば良いと思う? アリス!」
「わぁ〜ん、ラムル、無視しないでよう〜」
レイクは、目に涙を一杯ためて俺の目の前を飛び回って一生懸命に気を引こうとする。
「レイク!」
「はい!」
俺がレイクに呼びかけると涙を堪えて直立不動の姿勢で静止し、俺の目を真直ぐに見つめて来た。
「俺は、お前を許したわけじゃないぞ。」
「はい。」
「お前がどんなに思おうが、お前が俺に魔虎の事を言わなかったせいで、俺が危なかったのには、変わりがない! それは判っているだろうな? いくらお前が俺が死なないと思っていても、そんなことは俺が危険になった理由にはならん。」
「……、」
「判っているのか?」
「うん、」
「判っているのなら、ちゃんと謝るんだ。」
「うん、ごめんなさい。」
簡単にタイガーファングを倒しちゃいましたね~。




