第76話 打上
冒険者の件が一応、解決したあと俺たちは、冒険者協会の支部へ向かった。
事の成り行きと冒険者救出の完了を報告するためだ。
支部の受付で報告すると支部長が現れた。
「レイラ殿、エレン殿、ご苦労だった。え~っと、その後ろにいるのは、金将級のホノカ殿、C級のリン殿、協力員のラムル殿だな。3人もありがとう!」
「いえ、冒険者としては当然です。ただ、依頼をこなしただけです。」
「ああ、だが、ここの冒険者たちを救出してもらったのは事実だ。この街のギルドを代表して改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう。」
「もう、お礼はいいですので。」
「それと昨日はすまなかった。あなた方にせっかく来てもらったのにあんなことを言って。」
「ええ、大丈夫ですよ。支部長もこちらの冒険者さん達を心配してのことですから。」
低姿勢でお礼と謝罪をする支部長に対し、含みのある笑顔で対応していた。
なんか、黒い気配がするのは気のせいだろうか?
「それでは、報酬の方のお支払いは、5等分でよろしでしょうか?」
「ええ、こちらの方々がいなければ、剛鬼の討伐も冒険者の方々の救出も難しかったでしょうから、それでお願いします。」
俺は、支部長と会うのは初めてだが、レイラたちによれば、来た当初はさんざん嫌味を言われたらしいが、今の様子からでは想像がつかない。
まあ、なんにせよ。これで無事依頼が終わった。報酬を受け取り、俺たちは宿に戻ることにした。
◇◇◇◇◇
俺、リン、ホノカ、レイラ、エレンの五人は、宿の食堂に集合していた。
「それじゃあ、依頼の成功を祝して乾杯しましょう!」
レイラが、エールの入った木製のコップを掲げ、俺たちもそれに続く。
「「「「かんぱ~い!!」」」」
コップをぶつけ合い、一気に飲み物を呷る。
「ねえ、なんで私だけ、ジュースなの?」
リンがコップに入ったジュースを見つめながら呟いた。
「「「「!?」」」」
一人だけ、エールでないのが気に入らなかったようだ。
俺とエレンが18歳、ホノカとレイラは16歳、リンだけが15歳だ。
「それは、仕方ないんじゃないかな?」
この国では酒は16歳からになっている。
それが決まっている以上、無理に飲む必要もない。
「そりゃ、まだ、飲めない歳だけど、もうちょっとしたら、16歳になるんだよ。」
まあ、自分だけが違うという気持ちもわからなくはない。
「リンちゃん。冒険者はねえ、規則を真っ先に守らないといけないの。それでなくとも横暴な冒険者はいるから、そんな奴らが規則を守らなくなったら世の中大変なことになるの。ちいさなことでもちゃんとした冒険者は規則を守るのよ。それが冒険者として最低限の矜恃だと私は思っているわ。」
「うん、わかりました。」
確かに冒険者にも色々とある。
レイラたちの様に矜恃をもって冒険者をやっている者がいる反面、力を笠に着て弱いものを見下し暴力に訴える者もいる。
だからこそ、規則を守って範を示す必要がある。
「ありがとう、レイラ。俺たちではそう言うことはよくわからないから。」
「いいえ、どういたしまして。」
俺はレイラに礼を言った。
多少はこの世界のことを見てきたが、まだまだ、俺の様な異邦人には知らないことが多い。そういう意味では、現地の人間との交流も意味があるのだろう。
「ところで、私たちは、明日の朝にはここを出て王都に戻るが、ラムル達は、どうするつもりだ?」
「そうだな、ハマンへ向かう予定ではいるんだが・・・。」
レイラの問いに言葉を濁し、俺はリンの方へ視線を送る。
「え!?」
リンがびっくりして声をあげる。
「リンはどうしたい?」
「え~っと・・・」
「ここへ着いてバタバタしていただろう。薬師の工房が多いから、リンの勉強にもなるし、薬師の道具なんかもいろいろあるんじゃないか?」
リンが少し悩んだ顔をしたので、工房の見学を提案してみたが、・・・
「んん〜ん、そうですね。工房はさすがに見せてもらうのは無理じゃないかな。伝手もないのに普通の薬師だったら工房へ入れないですよ。」
難しいようだ。
「よくわからないが、そんなもんか。」
「ラムル、そういうのも常識だよ。師弟関係でもない薬師に自分の工房は見せないよ。たとえ、兄弟弟子であってもね。製法とか、道具とかも独自の物を作ったりしているかね。」
「ああ、そうなんだな・・・。」
企業秘密みたいなもんか。独自のものは見せたりしないよな。
普通にやる回復薬の調合はすでにマスターしているもんな。
「でも、道具屋へは行きたいかな。薬師専用の道具もどんなのがあるか見てみたいし、薬瓶の補充もしておきたいな。」
「そうか、じゃあ、明日は一日自由行動にして、明後日出発しでハマンへ向かうか?」
「うん、あたしはそれでいい。」
「ホノカはどうだ?」
「ああ、私も問題はない。なんなら、護衛がてらリンと一緒に行動しよう。」
「えっ、いいの?」
「どうせ、特にすることもないしな。武器屋とか見つけたら、別行動するかもしれんが、それでもいいか?」
「うん!」
女同士の方が、気を遣わないだろうな。リンも強くはなったが、気に入ったものがあると周りが見えなくなるが、ホノカがいればその点も安心できる。
比較的、安全な街に見えるが、どこにでも悪い奴はいるものだからな。二人なら大丈夫だろう。
「じゃあ、決まりだな。」
「ラムルはどうするの?」
「そうだな、武器の手入れと手ごろな予備の武器がないか確認してみるよ。あと、余裕があれば外套の替えも欲しいしな。」
剛鬼との戦いで、偑月刀が傷んできたから、手入れができるところを探さないとな。
予備も持っているが、他にいいものがあれば、入手しておきたい。
すぐにどうこうではないが、外套も傷んできたから、新しいものが欲しい。
「わかった。」
「ホノカはリンの護衛を頼む。」
「任せてくれ!」
「と、言うことだ、レイラ。」
「わかりました。それじゃ、明日でお別れね。エレン姉さんもいい?」
「ええ、大丈夫よ。」
レイラたちは朝の出発だな。見送りをしてそれからの自由行動にしようか。
大体の予定を確認した後は、雑談を交わしながら、出された料理を堪能した。
結構人気のある宿のようで、客はどんどん増えてきた。
基本的に泊り客以外はいないはずだが、俺たちが終わる頃にはほぼ満席状態だ。
それを横目に見ながら俺たちはそれぞれの部屋に帰った。
◇◇◇◇◇
翌朝、門のところでレイラたちを見送るべく集まっていた。
「じゃ、ラムル、お世話になりました。今度、帝都に来ることあれば冒険者協会受付でこれを見せて下さい。」
レイラがそう言って中央に宝石が埋められている直径3センチ程のメダルを渡された。
「メダル? なんだ?」
なぜメダルだ?
「私たちが気に入った方にそれを渡しているんです。私たちは良くも悪くも協会総本部では有名なので、なにかと理由をつけて会いたがっている方々が多くて、困っているんですよ。」
「なるほど、それでこのメダルか。」
「それで協会総本部と相談して、身分証明の代わりにそれを作りました。それを見せて受付で伝言してもらうと私たちの方へ連絡が来ることになっています。
B級以上の上位冒険者や一部のC冒険者の方々は似たようなアイテムを持っています。
特殊な宝玉を使っていますので、偽造や虚偽の申告はできません。」
「紛失、盗難対策もばっちりだな!」
「ええ。」
レイラが満足そうに頷き、エレンに視線を送るとエレンも頷いていた。
「それじゃ、私たちはもう行きますね。」
「ああ。元気でな。」
「レイラさん、エレンさん。お世話になりました。色々あったけど、楽しかったです。」
「レイラ殿、エレン殿、世話になった。実は二人とラムル、リンが模擬戦をしているのをみて、私も二人と戦ってみたかったが、いつか機会があれば、手合わせをお願いしたい。」
「ええ、こちらこそ。次にあったら、模擬戦をしましょう。」
ホノカはそんなに戦いたかったのかな。すこし、戦闘狂の毛があるのかもしれない。
そんなことを考えながら、レイラたちを見送り、俺たちは町に戻っていった。




