第72話 昇級
「ところで、このままリンさんの模擬戦もはじめますか?」
地面を修復し終わったレイラが、突然、そんなことを言った。
俺はリンの模擬戦の話など聞いていない。
「えっ、私が模擬戦ですか!?」
リンも驚いており、聞いていなかったようだ。
「ん、何か問題がありますか。この依頼はC級冒険者の捜索です。C級が対処できなかったのです。D級のリンさんもその強さの確認は必要でしょう」
「レイラ君の言い分ももっともだが、彼女は薬師だ。模擬戦の必要はないだろう。」
リンの強さを確認したいというレイラに対し、ディアスが反論をする。
「俺も必要ないと思うが。リンは調合もできるし、回復だけでなく各種ポーションをつかって強化や弱体化も可能だ。」
ディアスの言葉に俺も賛成した。
リンは原料さえあれば、どんなポーションでも調合できる。毒や麻痺の異常状態を付与することも治療することもポーションさえあれば問題ない。
「ええ、ただの薬師ならそうでしょうが、装備を見ればわかりますが彼女は戦う薬師です。どの程度、戦えるのかを確認したいのです。」
レイラの言い分ももっともである。共に行動するものの実力を知っていれば的確に行動できる。
戦闘力を持たない回復職なら、その者を守りながら戦う必要があるか、ある程度、戦えるのなら、最小限の護衛で事足りる。
「ああ、そうだな。リン君かまわないか?」
「私は、大丈夫です。」
レイラの言葉を受けてディアスがリンに問いかけると、リンがそれに答えた。
「ん~ん、相手は・・・。」
「C級以上だと私とお姉さましかいませんので、お姉さまがいいのではないですか? 」
確かに周りを見渡してもそれほどの実力者はいないと思われる。ディアスを除けばこの中では一番強いのはレイラで、エレンはその次だろう。
「私もそれで問題ないです。」
◇◇◇◇◇
リンとエレンが俺たちに代わり、鍛錬場の中央に立っていた。
リンが双剣をもって、エレンが長剣をもって対峙していた。
俺の見る限り、レイラには及ばないがエレンもかなり強いと思う。
「では、双方、準備はいいか?
ルールはさっきと一緒だ。」
ディアスの言葉に二人とも頷いた。
「それでは、始め!」
「「たぁ!!!」」
開始の合図に二人とも相手に向けて駆け出す。
二人の模擬戦は一進一退だった。
エレンが剣を繰り出せば、リンがそれを弾いたり躱したりして巧みに対処している。
エレンの隙をついてリンが背後から斬りつけると、エレンは振り向くこともなく背中に剣を回して双剣を防ぎ、回し蹴りでリンを吹き飛ばす。
一見するとリンが吹き飛ばされたように見えたが、リンは回し蹴りが繰り出された瞬間に後方へ飛び衝撃を緩和した為、ダメージはほどんどない。
そんな二人の攻防を見ていると俺に近づいてきた男がいた。
「薬師なのにすごいね。」
男は俺に向かってそう呟いた。
「そうだな。厳しい特訓をしてきたからな。」
「そうか、私は、ここの本部長のガイ・フォークスだ。」
「ああ。」
「驚かないんだね。」
「あんたも、独特の気配をしていたからな。」
ガイと名乗った男はここの本部長だったようだ。
傍に立つと全身から放たれる威圧は、まるで大型の肉食獣が得物を狙っているように感じる。
身長は俺と変わらないその全身から発する気配は並みの人間なら横にいるだけでおびえてしまうだろうと思う。
だが、氷龍から発する威圧と比べれば天と地ほどの差だ。
「ほう、よくわかったね。まあそれはいい、君の事も気になるがそれより彼女だ。」
「・・・。」
周りの雰囲気から、ガイの威圧は俺だけに向けられているようだ。
さもなくば、この中の何人かは立っていられないだろう。
大体、戦闘の最中にこんな威圧を受ければそれだけで大きな隙になる。
俺が横目にガイを見るとガイも同じように視線だけ俺に向けてきた。
ガイはニヤと笑って視線をリンたちに向けるとガイの威圧が消えていた。
(ふ~ん。)
どうやら、ガイは俺を試していたようだ。
俺が威圧に何の反応も示さなかったから、やめたのだろう。
ガイはそのまま話を続けた。
「エレンもレイラに見劣りしないくらい強いのだが、それと対等に戦える支援職がいるとは思わなかったよ。
副本部長から、レイラが君たちを推薦していると聞いて最初は耳を疑ったよ。
だが、こうして、模擬戦をしてみると彼女らの見る目が正しかった証明になる。
エレンもああ見えてかなりの凄腕だ。その彼女に薬師の彼女が対等に渡り合うとは私も含め、誰も思っていなかっただろう。」
職種だけで判断すれば、普通の薬師が前衛職の剣士と戦って勝てるわけがない。
だが、リンの装備は薬師のそれとは違い、双剣士のものだ。
パルミの森でシェンラン達にしごかれていたのだ。人間より遥かに反射神経の優れた魔狼や魔虎を相手にすることを考えれば上位冒険者の剣士といえども簡単にやられはしない。
「それは、あんたたちに見る目がないだけだろう。」
「いやあ、耳が痛いね。」
「・・・」
「おや、そろそろ、終わりそうかな。」
リンの片方の剣が飛ばされ、もう一方の剣を弾いた隙に、エレンが剣をリンの首元に置いた。勝負がついたようだ。
「参りました。」
どうやら、リンよりエレンの方が上手だったようだ。
まあ、本職の剣士に薬師が勝ってしまったらそれも問題だろうから、良かったのかもしれないな。
それにしても、レイラといいエレンといい二人とも強いな。
「そこまで!!」
二人は距離を取り、剣を鞘に納めた。
「「ありがとうございました!」」
二人同時に頭を下げ、お互いに礼を言い合った。
「見事だ。リンだったか、まさか、薬師の君にここまで手こずるとは予想外だったよ。」
「薬師だと思って油断してくれたらよかったんですけどね。」
「残念だったな。私は相手がだれであれ油断しないことにしているのだ。そうでないと守りたいものを守れないからね。」
「それがエレンさんの強さですね。どうにかして、一撃を入れたかったですが、届きませんでした。」
「前衛としてもやっていけるだけの実力はあると思うが、流石に剣士として支援職に負けるわけにはいかないからな。最初は様子見だったが、途中からは本気になってしまった。すこしでも手を抜いたらこちらがやられるところだったから、結構必死だったぞ。」
「余裕そうに見えましたけど。」
「そういう風に見せているだけだ。負けたら、C級を返上しなければならない所だった。」
二人はお互いを称えあっていた。
エレンはレイラ共にB級の試験を受けていないだけでC級を超える実力だった。リンもシェンラン達に鍛えてもらったとはいえ、流石に勝てなかったようだ。
それでもエレンの本気を引き出して、対等に打ち合ったのなら十分だろう。
そこへディアスが割り込んできた。
「むう、いい試合だったぞ。ラムル君もリン君も実力は十分だ。ラムル君は協力員の、リン君はC級昇格の手続きをしてくれ。」
「え、どういうことですか?
昇格の話なんてなかったと思いますけど?」
「それは、私が説明しよう。」
リンの疑問に本部長が答えるようだ。
「まず、前提として、C級が行方不明になった現場にD級を向かわせるわけにはいかないということだ。
ましてや、帝都以外の所属の冒険者だ。同じような支援職でもC級以上ならまだ言い訳もたつが、いくら、メンバーが強くても、D級薬師というのは何かあった時の外聞が悪い。」
「要は、あんたらの方の自己保身だと。」
俺はガイに嫌味っぽく一言呟いた。
「言ってくれるな。俺やディアスにも立場というものがあるんだ。」
ガイは言い訳をしていたが、やむを得ないのだろう。
俺も将校だったから多少はわかる。
「フッ、冗談だ。別に不利なことでもないからな。」




