第67話 解体場
「収納魔法!」
俺はそう声に出しながら、「倉庫」の中から魔物を取り出すと、空中に現れた魔物の死骸がその場に転がった。
この詠唱は偽装だ。「倉庫」スキルに詠唱は不要で、俺が意識するだけで簡単に出し入れができる。
俺たちは受付嬢に案内された冒険者協会総本部の魔物解体場にいる。そこで俺の「倉庫」にあるたくさんの魔物の内、受付嬢に申告した大熊1頭、魔犬10頭、角兎10羽を取り出した。
「すげえ!」
「あんなに容量を持っているか!」
「こんな容量の収納は初めてだぜ!」
「帝都でもあの能力は貴重だよな!」
「金将級仕事人の付き添いらしいぞ!」
「ゴノジョウではこんな収納持ちがゴロゴロいるのか!?」
等々、「倉庫」から魔物を取り出すのをみた連中は驚きを口にだす。
「おめえら、無駄口たたいてねえでとっとと仕事にかかれ。もたもたしてると日が暮れるぞ!!」
解体場長が、俺の収納魔法(倉庫スキル)に驚いて騒いでいる職員たちを一喝した後、俺たちに軽く頭を下げた。
「騒がしくてすまんな! 俺がここを任せられている解体場長だ」
「いや、大丈夫だ。私が金将級のホノカだ。」
「D級の薬師、リンです。」
「ラムルだ。ホノカ付きの収納術師だ。」
((え!?))
(何、その設定!?)
(何も聞いていないんだが!?)
(前に『漫遊の剣士』って言っていたよね!)
(いつから、私付になった?)
俺の自己紹介にリンとホノカが俺の方を向いて目を見開いて、訴えてくる。
そんなに変なこと言ったっけ?
(ある時は、漫遊の剣士、ある時は、流離の武将、また、ある時は謎の収納術師。しかして、その実体は・・・。)
仕方がないので(?)あの有名なフレーズを声に出さず大見得を切るが・・・
「その分の査定を頼めるか。場長!」
(ちょっ、ホノカ!)
ホノカはそれを無視して、工場長に話しかけて俺との会話をぶった切ったので、「最後まで聞いてよ」的な恨みがましい視線をホノカに送る。
「おう、任せとけ。これだけきれいな状態なら、良い値になるぜ。」
(お〜い! ホノカさ~ん!)
俺を無視してホノカと場長の話が進んでいくと、リンが俺の横に来て服の袖を引っ張った。
(ラムル、ダメだよ、ふざけちゃ!)
(いや、しかしだなあ。)
(ダメ!)
(はい・・・。)
リンに諭されて、俺は撃沈した。
「査定が終わるのにどれくらいかかりそうだ。」
「いちおう、こっちの仕事は今日中に終わるが、手続きは受付で聞いてくれ。」
「了解した、では頼む!」
俺たちは解体場を離れると再び、受付へ金を受け取りに向かった。
「今回は、高額になりそうですので、前金としてこちらをお渡しいたします。残金の清算は、明日以降、こちらのカウンターで行いますので、この受付控えと共にお持ちください。」
受付へ戻った俺たちは、大金貨5枚を受け取った。他の冒険者たちが聞いていることもあり、口頭では金額を言わなかったが、ホノカが受け取りサインをして、残りは、明日の清算になった。
◇◇◇◇◇
俺たちは総本部を出たあと、夕食を食べに行くのに裏通りを歩いていた。これも商人から得た情報だが、裏通りの一角に知る人ぞ知るおいしい店があるらしい。
そこへ向かっているのだが、難点は危険度の高い人通りの少ない路地を通る必要がある事だ。
案の定、怪しい気配を感じた。ホノカもリンも警戒度をあげ、俺の気配感知に引っかかるものがあった。
脳内の気配感知のモニターを開くとそこに9つの光点が映っていた。前方の建物の陰に3つ、後方に4つ、さらにその後方に2つだ。
先頭を歩く俺の前に建物の陰に近づくとそこから気配感知に映っていた3人が出てきた。
「おい、てめえら、怪我をしたくなければ、金目のもんを全部おいていけ!!」
冒険者か冒険者崩れらしい男たちが肩へ剣を乗せて、いかにもな感じで見せびらかし、啖呵を切ってきた。
皮の防具を胸が腰などの急所に装備しているが、どう見ても迫力が足りていない。
「どうした、ビビッて、声も出ねえのか!」
ビビってるわけでなく、相手をするのがお億劫なだけなのだが・・・。リンやホノカも俺の後ろにいるが、特に反応もなく、俺と同じように鬱陶しいとでも思っているのだろう。
「もう一度言うぞ、金目のもんを全部おいてけ!」
中央の男が、剣を俺の方に突き出しながらそういい、後の二人も剣を構え俺たちを威嚇していた。
俺はそれを無視して男たちの横を通り過ぎようと歩き出した。
「無視するんじゃねぇっ!!!」
右側の男が、そう言いながら、俺を目掛けて思いっきり剣を振り下ろしてきた。
俺は、その剣の腹を素手で払い、防具のない腹へ拳を打ち込んだ。
男はそのままその場に崩れ落ち、泡を吹いて倒れた。
「きっさまあぁ!!」
「女連れの優男に手こずって、なにをたらたら、やってやがる!」
なにやら、後ろの方から罵声が聞こえてきた。後ろから4人来るのがわかっていたので特に驚くこともなかった。
ちらっと見た限りでは、前方の男たちより、やや良い装備をつけている。
おそらくこの男がリーダー格だろう。
「とっととやっちえ!!」
「へえ!!」
男が号令をかけると、倒れた1人を除く6人全員で襲い掛かってきた。
「ぐわっ!」「どわっ!」「げふっl」「ほげっ!」
5秒とかからず、全員がその場に倒れ伏し、強盗の山が出来上がった。
前の2人は、俺が、後ろの4人はホノカとリンがそれぞれ2人ずつ気絶させた。
「弱い・・・。よく、こんなので襲ってくるな。」
俺は呆れて思わずつぶやいてしまった。
「うん、そうだね。緊張したのが馬鹿らしいくらい、弱いね!」
「む~、本当に強盗なのか? いくら、裏道で人通りが少ないとはいえ、警備隊もいるだろうし、第二防壁の外側ならともかく、内側に不審者が入れる方が不思議なんだが・・・。」
「パチ、パチ、パチ、パチ」
俺たちが襲ってきた強盗の話をしていると、拍手が聞こえてきた。3人が同時にその方向を見ると、そこに2人の少女が立っていた。
一人は、長い腰まで髪の毛を伸ばした金髪。もう一人が、茶髪のショートヘアだった。
金髪の少女は白を基調に赤いアクセントのついたドレスアーマーを着ており、茶髪の少女は同じく白を基調にしているが、青いアクセントの付いたプレートメイルを着ていた。
「お見事です!」
先程、拍手をしていた金髪の少女が声をかけてきた。
「場合によっては、手助けが必要かと思いましたが、こうもあっさりと撃退なさるとは驚きです。」
「えっ、いやべつに・・・。」
少女は俺たちを褒めたのだが、俺は思わず見入ってしまい言葉に詰まってしまった。
可愛らしさと美しさの同居する笑顔、立ち振る舞いは優雅に気品にあふれ、華美にならず地味にならず、すべてが調和していた。
その立ち姿は、周りに花が彩られ、キラキラ輝く光のエフェクトがこれでもかと少女の美しさを引き立てていた。
「ラムル、鼻の下が伸びてるよ!」
「なっ、なにを言っている、リン!」
「ああ、にやけた顔が気持ち悪いな!」
「ホ、ホノカまで・・・」
リンとホノカの冷たい視線が俺に突き刺さる。
「ゴホンッ!」
俺は咳ばらいをして気持ちを立て直して、改めて少女の方をみた。
「フフフッ」
少女が口に手を当て上品に笑っていたが、俺の視線を感じて笑うのをやめた。
「失礼しました。」
「では、改めて、どうゆうことか説明してもらおうか?」
謝罪する少女に対し、俺は意識して平静を保ちながら少女に対して問いかけた。
「はい、でもその前にまず自己紹介しますね。
私は、C級冒険者、レイラ・ミースと申します。
こちらが、私の姉でC級冒険者、エレン・ミースです。
よろしくお願いいたしますね。」
レイラは自らの名を名乗り、そばに居たもう一人の少女をエレンと紹介した。
・・・のだが、何故かよそよそしい感じがしていた。
「俺は、・・・」
「収納術師のラムルさんですね。そちらは、金将級仕事人ホノカさん、D級冒険者の薬師リンさんでよろしいですか?」
「収納術師」は解体場でしか言っていないにもかかわらず、レイラはそれで呼んだ。ホノカとリンの称号は受付で言ったのでその場にいた人間は知っていても不思議はない。
だが、俺の称号は解体場でしか言っていない。つまり・・・、
「不思議そうな顔をしてますね。別に変なことはしてませんよ。」
レイラは俺の不審そうな顔を見てそう言った。
「ただ、ちょっと、解体場を覗かせてもらっただけですよ。」
「ああ、そういうわけか。別に隠しているわけでもないが、ストーカーされると気分が良くないのでな。」




