第65話 男前
冒険者協会総本部の朝は早い。
冒険者たちが少しでも割の良い依頼を受けようと早くから押し掛けるからだ。
協会が開くと同時に多く冒険者が集まってくる。
掲示板に張り出された依頼票から自分たちに見合う達成可能で出来るだけ依頼料の高額なものを受ける為である。
早い者勝ちの為、良い依頼はすぐになくなる。時には喧嘩になったりもするが、大きな問題にはなっていない。
その朝一の喧騒が収まったころ、二人の美少女が協会の入り口を潜った。
そして、優雅に堂々と受付カウンターの方へ歩いて行った。
二人の進行方向にいた冒険者達は、無意識に後ろに下がり、二人に道を譲っていた。
早朝のこの時間帯、冒険者協会総本部の冒険者受付は依頼を探す冒険者たちでごった返していた。
厳つい体に剣や槌を装備している者、巨大な盾を担いでいる者、色とりどりのローブに杖を携えている者、等、様々な人間がそこでワイワイガヤガヤと騒いでいた。
そんな中、二人連れの美少女が入ってきた。
その二人を見た途端、騒いでいた冒険者たちが、ピタリと静かになった。
その存在感に皆が、息を飲むのがわかった。恐らくここであの少女たちを知らない冒険者はいないのではないかと思われる。
堂々と歩くその様は、戦女神と言われても信じてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
その先頭を歩く美少女は、金色の髪を腰まで垂らしたストレートヘアで、頭頂部には白いカチューシャ、目はややたれ目がちで青い瞳、長い睫毛、きりりとした眉毛、スッと通った鼻筋、淡く桜色に光る唇。
少女でありながら、どこか大人っぽさを感じさせる。花開く直前の蕾の様な雰囲気だった。
全身は、前面からは膝上のミニスカートにみえ、後ろは脹脛までの長さになっている変則的なドレスを纏い、脚には膝上のハイソックスを履き、その上に白を基調に赤いアクセントの付いたドレスアーマーを付けている。
肩に柵状の飾りと背中には短めのマントがあり、胸には中央に宝石のついたブレストプレート、襞のようになってプレートで腰を守るフォールズ、前腕にはバンブレース、脛にはグリーブ、そして、腰には、柄と鞘に豪華な飾りのついた細剣を佩いていた。
マントを翻しながら、優雅なしぐさでカウンターに向かうその少女の様子はどこか貴族然としており、どこかの令嬢だろうと思われるが、誰もそのことを突っ込む者はいない。
一方、もう一人の少女は、付き従うように金髪の少女の後ろについていた。
肩までの茶色いショートヘアに茶色い目、金髪の少女と比べ、地味な印象をもたらすが、それは対比の問題であり、金髪の少女に決して劣ることはない。
鋭い目つきで周りを見回すさまは、一部の特殊な性癖の持ち主の心を捉えるかもしれない。
白地に青のプレートメイルを付けているが、決して安物ではない。赤に対し、青をアクセントとする色合わせをしており、美しさより凛々しさを強調するデザインだった。
プレートメイルも見る者が見れば、帝都の名匠の品であることは一目瞭然である。
油断なく周囲を警戒していることもあってか、誰も声を発することはない。
そんな二人が受付カウンターへ真っすぐに向かった。
「おはようございます。レイラさん、エレンさん。」
「おはようございます。チェイリーさん」
「おはようございます。」
受付カウンターに来た美少女二人に受付嬢が挨拶をし、美少女二人もまた挨拶を返した。
「本日はどのような御用向出来ございますか?」
「魔獣の討伐依頼があれば、受けたいのですがどうでしょうか?」
受付嬢チェイリーの問いに金髪の美少女レイラが答えた。
「そうですね。これなどはどうでしょうか?」
「これは・・・。」
「ええ、剛鬼の調査、討伐依頼です。」
そう言いながらチェイリーが一枚の紙をレイラに差し出した。
それにはこう書かれていた。
「依頼内容:東の森に出現するらしい剛鬼の調査又は討伐
報酬:調査報告の報酬として5万F。剛鬼討伐で1体10万F。
達成条件:特になし。但し、虚偽報告が判明した場合は、降格の上。罰金を徴収する。
推奨級:C級以上」
「剛鬼ですか・・・。エレン姉さん、どう思います?」
「ん〜ん、どうなんだろう。東の森に剛鬼が出たことはなかったと思いましたが・・・。」
依頼書を見たレイラがエレンに意見を求めたが、
「目撃情報があったから、調査依頼がでたのよね。」
エレンが疑問を口にした。
「ええ、その通りです。複数の冒険者の方々からの目撃情報があり、協会から皆に気を付けるように言っていたのですが、先日、剛鬼と遭遇して怪我をされた方も出ましたので、本格的な調査の前の予備調査として、上位の冒険者に偵察をお願いする為の依頼です。」
「なるほど、その剛鬼の確認と生息規模を知りたいわけですね。」
エレンはチェイリーの回答に一応納得したようだ。
「ところで、何故、その依頼が掲示板に貼られずに受付預かりになっているのですか?」
今度はレイラがチェイリーに質問する。
「それは、C級以上の依頼であること。つまり、単体でC級の剛鬼が集団になれば、B級以上相手に対応できることが条件になります。ですので、C級であっても対集団戦が出来ないパーティーには紹介できない依頼になります。」
「そうなんですね。」
「ええ、その点、実力のあるデュアルソロのお二人なら、適任を思いご紹介しましたが、いかがでしょうか?」
つらつらと淀みなくチェイリーが説明し、エレンたちは頷きながらそれを聞いていた。
「分かりました。それをお受けいたします。」
「ありがとうございます。一応、達成難易度が高い依頼となりますので、失敗のペナルティは、免除されています。」
二人の美少女が受付を済ませてカウンターを離れようとしたとき、4人組の男たちが、二人の前に立ちふさがった。
「何か御用でしょうか?」
金髪のレイナと呼ばれた少女が無言でニヤついている4人組の男たちを見やって問いかけてた。
「いよ、姉ちゃんたち、その依頼、俺たちに回してくれねえかな?」
黙っていたらイケメンに見える青髪の男が、ねちっこい笑みを浮かべレイナに問いかけた。
「お断り致します。何故、貴方がたに依頼を譲らねばならないのですか?」
「ん、なに、君らの様なうら若き乙女が剛鬼と戦うより、俺たちの様なベテランの方が、その依頼には向いているだろう。それに女二人だけで剛鬼の相手をするなど無謀極まりない。」
青髪の男が、前髪をかきあげながら、無駄にキラキラした様子でそう言うと、他の3人がレイラたちを女とみて貶し始めた。
「そうだぞ、兄貴に任せて、女どもは家で料理でもしていた方がいいぞ。」
「そうそう、生半可な実力で森に入ったら、逆にやられてしまうぜ。」
「女だてらに冒険者なんぞやるもんじゃないぞ。」
それを見ていた周りの冒険者は、皆、こう思った。
(あいつら死んだな!)
(よりによって、あの二人に突っかかるとは、他所もんは怖いもの知らずだな。)
(可哀想に・・・。)
(なむさん・・・。)
チェイリーは、(回復薬がいるかな〜。)と呟いた。
「ほう、我々では、剛鬼に引けを取るというのか?」
茶髪のエレンが、目を吊り上げ、青筋を立てて男たちを睨んだ。
「あぁっ、決まってるだろうが、二人の女だけで剛鬼とあったら、一発でおっ死んじまうぞ。」
「やめなさい。そんなに脅すものじゃないよ。ねっ!!」
一人の男がレイラたちを脅す様にいうと青髪の男が、その男を止めながら二人にウインクをおくった。
(なんなの、このキモイおとこは?)
レイラはそれをみて、あまりの気持ち悪さに思わず身震いをしていた。
表情に出さぬように気を引き締めるが、どうしようもなく眉がぴくぴく動いてしまった。
「エレン姉さん、もういいわ。こんな気持ちの悪い男どもは無視しましょう。」
「そうね、レイラ。貴方たちそこをどいてくれる。」
レイラとエレンがそう言って男たちの横を通り過ぎようとした。
「まてよ。俺たちを無視しないでくれるかな?」
青髪の男が、レイラの肩に手をかけて引き留めようとするが、
「痛いわ。これで正当防衛ですね。」
レイラが棒読みでそう言った次の瞬間、青髪の男が、男は白目を剥いてその場に転がっていた。
そして、それとほぼ同時にエレンが動き、あっという間に残り3人の男たちが倒れこんだ。
「おい、見えたか?」「いや、全然!」「肩を掴んだのは見たが、その後は・・・。」
等々、周りの冒険者がざわつき始めた。
あまりの速さに誰もレイラたちの動きが見えていなかった。
レイラは肩を掴まれたのを周りに見せた直後、男の手首をつかみ上げそのまま床へ投げ落とし、音を立てないよう衝撃を緩めたところで、鳩尾に貫手を突き立て、その後、何事もなかったようにその場に立っていた。
エレンはレイラとほぼ同時に動き、他の3人の男たちの首筋や鳩尾に意識を刈り取る一撃を決め言葉を発することなく床へ崩れ落ちていた。
「姐さん、こいつらは俺たちが、救護室に運んでおきやす。」
「そうだな、俺も手伝うぜ。」
「いいよな。」
「えっ、ここでは何もありませんよ。その方たちは、何もないのに突然倒れられたのですよね。こちらで処置をしますので救護室までお願いします。」
「皆さんそうですよね!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
「いま、なんかあったのか?」
「いや、何も見てないし、聞いてないぞ。」
「どうせ、飲み過ぎたんじゃないのか?」
汗臭い男たちが倒れた男たちの救護を言いだし、それに乗ったチェイリーは「何もなかった」と言って、周りの冒険者に言い聞かせるようにダメ押しをした。
その直後、冒険者の男どもが拳を突き上げ、その野太い叫び声があたりに響き渡った。
一方で冒険者の女性陣は、その様子に思いっきり引いていた。
「まったく、どうしようもないわね!」
「なんで、それで盛り上がれるの?」
「はあ、馬鹿に付ける薬はないわ!」
等々、ぼそぼそと呆れる声がひそかに漏れた。
そして、静かになったところで、満面の笑みを浮かべたレイラが周りを見渡し口元に両手を当て、全員に聞こえるように声を出した。
「皆さん、倒れた方たちをよろしくお願いいたしますね。お礼という訳でもないですが、この場は私の奢りです。好きなように飲み食いしてください。」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」
再び、野太い声があたりへ響く。
今度は、受付カウンターの方を見て、
「あと、女性の皆さんにはスイーツを差し上げてください。受付の方々も仕事に差し支えのない範囲でどうぞ。チェイリーさん、お代は私の口座に付けておいてください。」
そう言うと、
「「「「「「キャァァァァァァァ!!!」」」」」」
女性陣の黄色い声が野太い声を上書きしていた。
「ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます。」
他の受付嬢がキャッ、キャッしているのを横目にチェイリーは平静を装いつつレイラたちに、深々と頭を下げた。
(一体、いくらかかるんだろうな。流石はレイラさんというべきか。C級個人でトップの功績を上げてるけど、報酬はほとんど使ってないし、かなり貯まっているから、全然大丈夫だと思うけど。信じられないくらい綺麗で可愛いくて上品なのにやることが男前なんだよね。)
と感心しながら、引き攣っているチェイリーであった。




