第64話 二人一組(デュアル・ソロ)
二人の少女が冒険者協会総本部へ訪れていた。
まだ、幼さの残るその少女は、そこにいる厳つい男たちを見ても平然としていた。
だが、それは見た目だけを取り繕っただけで内心ではかなり動揺していた。
無論、ここにいる連中にそんなことがわかるはずもない。
金髪の少女と茶髪の少女はそこにいる男たちを無視して初心者受付のカウンターに向かった。
「冒険者登録をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
金髪の少女が受付カウンターの女性にそう問いかけた。
「えっ、あ、はい、大丈夫です!」
受付嬢は、年下にもかかわらず、少女の醸し出す優雅な雰囲気に気圧されて言葉に詰まってしまった。
「それでは、こちらにご記入をお願いします。」
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「それではこちらが冒険者証になります。絶対に無くさないようにしてくだいね。」
「はい、ありがとうございました。」
少女たちが黄色い冒険者カードを受け取った。
金髪の少女の輝くような笑顔に受付嬢は顔を赤らめながら説明を終了するのであった。
それを見計らったように一人の男が少女たちに声をかけた。
「よう、お前たち、今日から冒険者だな。俺たちのパーティに空きがあるんだが、二人一緒に入らないか? 手取り足取り冒険者ってやつの色んなことをを教えてやるぜ!」
気持ち悪いニヤけ面で戦士の恰好をしたその男がそんなことを言って、舐めるように少女たちを見ながら近づいてくる。
その後ろでは魔法使い、剣士、男3人がニヤニヤしながら、その様子を見ていた。
金髪の少女は、堂々とその気持ち悪い男たちに向かい、笑顔で言った。
「有難い申し出ですが、わたしは誰ともパーティを組む気はありませんので、お断りいたします。」
金髪の少女は、丁寧な言葉づかいでありながら、きっぱりと男たちの誘いを断って、「ごめんなさい。」と軽く頭をさげた。
それは、少女であるにもかかわらず気品があふれおり、体幹のぶれなどが一切ない、見惚れてしまうような見事なお辞儀であった。
その動作から、そこにいた職員、冒険者を含めた殆どの人たちは少女たちが只者ではないと感じた。
すぐれた冒険者なら、歩いているのを見ただけでその実力がある程度わかるのだ、
例え、初心者の冒険者であっても、いや、初心者だからこその実力はわからない。
無論、ほどんどの初心者は、戦うことなど覚束ない素人だ。
剣術などを習っていたとしても、対人戦や魔物戦で実力を発揮しきれず、死ぬ者は多いのだ。
普通なら格上となる先輩冒険者を目の前にして、萎縮してしまうものだが、少女たちは萎縮することなく堂々と誘いを切って捨てた。
「はあ!?」
男は何を言われたのか一瞬理解できなかった。新人冒険者が自分の顔を見てビビらないどころか、自分の誘いを即決で断るなどあり得ないと思っていた。
この男たちは3人のC級パーティであり、個人でも戦士がC1級、剣士と魔法使いがC3級の実力を持っていた。その為他の冒険者からは良くも悪くも一目置かれていた。
「てめえ、この俺様の誘いを断るたあどういう了見だ。」
男がそう言いながら金髪の少女に向けて手を伸ばした。
「うぎゃーぁぁぁぁぁ!!!」
男の手が少女の胸元に触れる直前、ゴキという嫌な音の後、男の悲鳴が辺りに響き渡った。
「彼女に指一本触れることは、この私がゆるさん!!!」
もう一人の茶髪の少女が、男の腕をひねり上げて男に怒鳴りつけた。
「ぎゃあぁぁ、う、腕がぁ!!」
戦士の男はそのまま後ろに倒れ、腕を抱えて床の上でのたうち回った。
「よくもやりやがったなっ!!」
後ろにいた剣士がいきり立ち、剣を抜き、同時に魔法使いの方も魔法詠唱に入った。
男たちが動くより早く少女たちが動き、二人はそのまま動くことができなかった。男たちが攻撃に入る前に、金髪の少女の細剣の切っ先が魔法使いの喉元の手前で止まり、茶髪の少女の短刀は剣士の脇腹に突き付けられる。もし、男たちが次の動作に移っていれば、そのまま、喉を突き刺し、脇腹を抉られるところだった。
C級の男たちが、一瞬で無力化されたことで周りにいる冒険者たちが唖然としていた。
「そこまでっ!!!」
威厳の籠った声が総本部のフロアに響き渡り、そこにいるすべての者が動きを止める。
「貴様ら何をやっている。ギルド内での喧嘩は厳禁だといつも行っておろうがっ!!!」
その言葉に少女たちは素早く武器を収めた。
「申し訳ありません!」
そして、優雅に頭を下げ、その人物に謝罪した。
「俺たちは何も悪くないぜ、本部長。その二人がリーダーの腕をつぶしたから・・・。」
「やかましい、俺が何も見てなかったと思ったか?」
本部長と呼ばれた男のその言葉に男たちは黙り込んだ。
「その子たちの冒険者カードの発行はまだだ。つまり、まだ、冒険者になる前の一般人だ。冒険者の規約に『冒険者の一般人への暴力、恐喝、恫喝をしてはならない。』とある。わかったか!!」
男たちは本部長の指示により、職員に連れていかれた。
その男たちの日頃の行いには目を背けるものがあった。今回の様に新人の冒険者に声をかけては、最初のうちは優しくしていてもやがて、使い走りをやらせたり、恐喝まがいの行為で討伐の囮にされたりしていたそうだ。
この件のあと、その男たちを冒険者協会で見かけたものはいないそうだ。
◇◇◇◇◇
当時、金髪の少女は14歳、茶髪の少女は16歳だった。
少女たちは、常に二人で行動していた。パーティの登録は3名以上でなければならない為、パーティでの受注は出来ず、個人向けの依頼を共同受注している。
最初は、採取系の依頼を主に活動を行っていたが、なかには、掃除などの汚れ仕事を請け負うこともあった。
二人は、容姿に似合わず、汚れ仕事でも笑顔で活動する姿に街での人気が上がっていった。
元々、美少女の二人が笑うとその衝撃度は半端なく、その笑顔に心を打ちぬかれた男どもが死屍累々になって、そこらじゅうに転がっていたとか、いなかったとか・・・。
それはさておき、
冒険者活動を始めて1年近くなる頃には、D級に昇格し、魔獣吞鬼[等級D]の討伐依頼を請けたが、その討伐の最中、別件で活動していたC級の4人パーティと呑鬼王[等級C]の戦闘に遭遇し、戦闘不能になったパーティを救出する形で呑鬼王を討伐した。
又、コボルトの巣を壊滅させたり、剛鬼を二人それぞれが単独撃破したりと、わずかな期間で次々と実績を上げていた結果、D級昇格から1ヶ月余りでC級昇格試験を受けることとなる。
D級までは受注実績や貢献度による査定だが、C級以上は昇格試験をクリアする必要があった。
C級になれば、一人前として取り扱われA等級以上の特殊魔獣以外の全ての討伐依頼が可能となり
C級の昇格試験は模擬戦だ。自分と同種の職業に就く上位者と戦うことで試験官に実力を見せるのだ。
金髪の少女の模擬戦の相手はA級の剣士、茶髪の少女は同じくA級の戦士だった。
二人とも相手に勝つことはできなかったが、C級としては実力は十分と判断され問題なくクリアして、C級の昇格を遂げた。
1年余りで共にC級昇格を遂げ、金髪の少女は最短、最年少昇格を記録し冒険者界隈の注目を集め、やがて、二人で常に一緒に行動していることから、デュアル・ソロ(二人一組)と呼ばれる事になり、その実力、実績から冒険者や協会からは一目置かれるようになった。




