第63話 出立
氷龍との死闘を行い、炎龍と出会った後、俺たちはゴノジョウの街に戻った。
取り敢えず、この世界に炎龍を含めた4大龍がいることが分かった。
炎龍と仕事人頭目フジタカ達の話を合わせると炎龍、氷龍、嵐龍、地龍がいるようだ。
それぞれ、テリトリーがあって、お互いは干渉することがなかったが、今回、氷龍が炎龍にそれを犯したことで龍の行動原理がわからなくなったそうだ。
まあ、俺には余り関わりのないことではある。
◇◇◇◇◇
そして、それから1週間が過ぎ、今、俺たちは馬車に揺られている。
その1週間の間に太守や萬請負処から褒章やらなんやらがあり、面倒になってきたため、街を出てきたのだ。
討伐の分配金と太守からの報奨金を受け取るのに1週間かかったのだ。仕官の打診もあったが、それは断った。この世界では俺は異邦人なのだ。いつ、この世界から消えるかわからない中で無責任なことが出来るわけがない。
それはもういいのだが、・・・。
「ラムル、次の村まで約4日ほどかかるようだな。街道沿いなのもあるが、魔物も現れないし暇だぞ。」
「ああ、そうだな。」
「ホノカ、旅なんてそんなもんだよ。」
「ほとんど、旅なんてしたことないお前が言うな、リン。」
何故かホノカが俺たちに同行していた。
俺とリンがゴノジョウを発つ前の日、ホノカが俺たちの宿の部屋を訪ねてきた。
「ラムル、私もお前たちの旅に同行させてもらいないだろうか?」
「「!?」」
「どういうことだ?」
「ああ、今回の事で私の無力さを実感した。私の力だけでは氷龍に手も足も出なかったのだ。しかも、あれは幼龍だというではないか。もし成龍だったら、動くことすらできなかったはずだ。
私の勘だが、お前について行けば、修行になる様な相手に出会えるはずだと思う。
それがなかったとしても、お前と打ち合うだけでも十分鍛錬になるはずだ。」
「ああ、俺に限らず、誰かと剣を交えれば、プラスになるものは何かしらあるが、対人戦と魔物では戦い方はまるで違うぞ。」
「魔物と戦う機会もあるだろう?」
「まあ、それはあるだろうな。」
「ねえ、ホノカ、今度、私と戦ってみない?」
「ああ、リンの戦いもかなり変則的だから、一度、本気で戦ってみたいとは思っている。」
(お前ら、バトルジャンキーかよ!)などと思いながら、馬車に揺られて話を続けていた。
◇◇◇◇◇
そういえば、ゴノジョウを出るときは、中々に大変だったな。
ホノカの父母、フジタカとナデシコさんの二人とホノカの仲間のコンゴウとスズカが見送りに来ていた。
ホノカは人望もあり、話が広がると出発に支障がでそうだったので、ホノカと相談して、仲間二人と父、フジタカ、母、ナデシコの4人のみに伝えて、口外しないように言い含めていた。フジタカは仕事人頭目なので請負処関係も大丈夫だ。
フジタカのオヤジは、娘を取られた父親のように俺を睨みつけて、その後ろで楚々とした大和撫子というような和服の女性が佇んでいた。
「ラムル殿、もし、ホノカに何かあってみろ、地の底であろうが、人跡未踏の地であろうと、どこまでも追い詰めて、貴様を必ず斬ってやるからな。」
フジタカは開口一番でおれにそう言ってブチ切れていた。
「父上・・・、それはどういう意味ですか? これからお世話になるラムルに失礼な物言いはやめてください。」
俺がどうしようか考え返答する前に、ホノカがそれ以上にブチ切れて親子げんかになりそうだった。
「あなた、折角の門出に無粋なことを言わないでください!」
その時、背後に般若を浮かべ鬼気迫る様子のナデシコさんにフジタカが一瞬で震えあがった。
「いや、そ、そ、そうじゃないんだ、ナデシコ。」
「何が『そうじゃない』んですか?」
ナデシコさんの言葉にフジタカはしどろもどろになりながら、なにやら言い訳を始めた。 完全にナデシコさんの尻に敷かれているようだ。元飛車級らしいが、それを抑えるなんてナデシコさんってすごい。
「すまん! 言い過ぎた!!」
ナデシコさんの迫力にフジタカは思わず、これでもかというほど背を伸ばしてから、一気に頭を下げていた。
「あなた、私に謝っても仕方ないじゃないですか。私ではなくラムルさんに謝ってください。」
「おう、ラムル殿、言い過ぎた。すまん!」
「いえいえ、親としては心配するのは当然ですので、別に気にしていませんよ。」
俺は両手を上げて、俺に謝るフジタカに気にしてないアピールをした。
頭目などやっていて、元飛車級の仕事人でもあるフジタカでも妻には弱いらしい。
「ホノカ、いつでも戻ってきていいからな。いや、なにかあったらすぐ戻ってこい。」
「父上・・・。」
「あなた!」
「はい!!」
親バカな発言にホノカとナデシコさんの突っ込みに直立不動で返事をするフジタカに最早、仕事人頭目の威厳はなかった。
◇◇◇◇◇
後は、コンゴウとスズカだな。あいつら、というか、スズカが泣いてごねていたな。
「ねん、本当に行っちゃうのホノカちゃん!」
「ああ、もう決めたことだ。ずっとここにいても、これ以上の上達は望めないんだ。」
スズカが別れを惜しんでホノカに縋りつくが、ホノカは「決めたこと」として譲る気はないようだ。
「え~、そんなこと言わずにずっと私たちと活動しようよ〜。ううっ~。」
「スズカ、いつまでもごねるでないわ。ホノカは武者修行に行くのだから、快く送り出してやれ。」
さらに、泣いて引き止めようとするリンにコンゴウが諫めていた。
「そんなこと言ったって~、ゴンっちだってさみしいんじゃないの。」
「寂しくなるのは確かじゃが、その為に引き止めるのは自己中心的な考え方じゃ。」
コンゴウも少し寂しそうにそう言ったが、ホノカを引き止める気はないようだ。
「すまないな、スズカ。これは私の我儘だ。だが、必ず戻ってくるから、それまで待っていてくれ。」
「ううっ~~~。」
スズカは俯いて、涙を流していた。
「コンゴウ、スズカと皆を頼んだぞ。戦力は落ちるだろうが、コンゴウとスズカがいれば大丈夫なはずだ。」
「任されよ。しかし、ホノカが抜けただけでどうにかなるゴノジョウでないぞ。」
「むう、頼んだぞ。」
ホノカの言葉に力強く、コンゴウが頷き、ホノカは再びスズカに声をかけた。
「スズカ、頼むぞ。お前が頼りだ。コンゴウを助けてやってくれ。」
それを聞いてスズカは涙を拭きながら、顔を上げしっかりとホノカを見やった。
「うん、わかった。ゴンっちはともかく、ゴノジョウは私が守るから。」
「ともかく、とはなんじゃ。守られるのはおぬしであろうが。」
スズカとコンゴウが言い合い(じゃれあい)をしている横で、ホノカが俺の方に目配せをしてきたので俺は軽くうなずいた。
「じゃ、そろそろ、行きます。」
ホノカがそう言うと、その場の全員が無言になる。
「スズカ、コンゴウ、改めて、街を頼むぞ。」
「まかせろ!」「うん!」
ホノカに対し、コンゴウとスズカが力強くうなずいた。
「父上、母上、行ってまいります。」
「気を付けて行ってくるのですよ!」
「いつでも帰って来いよ!」
「ラムルさん、ホノカをよろしくお願いします。気が強くて剣術以外は何もできない娘です。何かとご迷惑をおかけすると思いますが、気長に見守ってやってください。」
「母上っ、そ、そんなことはないですよ。」
「あら、そうだったかしら。ご飯を炊けば焦げるか、炊けていなくて固いままだったり、煮物をすれば汁がなくなって炭になってましたよね。」
「そ、そんなの昔の事じゃないですか!」
「いえいえ、1年も経ってませんよ。」
「はう~~~。」
ホノカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ナデシコ殿、それくらいにしてあげてください。何事も練習ですのでその内」
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こうして、何とかゴノジョウを出発し現在に至り、馬車上の人となっていた。




