第60話 炎機神
『リン、転送準備が完了しました。戦闘人形を転送します。』
アリスのその言葉が終わるとウォーテスが消え、入れ替わるように1体の戦闘人形が現われた。
それは、素体と言うように装甲を装着していない全高10m前後のくすんだ灰色の機体だった。所々に内部の油圧パイプやケーブルが覗き、見るからに未完成に見えた。
その機体がゆっくりと膝をつき、右手の手のひらをホノカとヴォルケーノの間に伸ばしてきた。
ホノカはそれを見上げながら、唖然とし、一方のヴォルケーノは目をキラキラとさせそれを見つめていた。
「すごい、こんなのが地上にはあるんだ。」
ヴォルケーノがはしゃぎながら、戦闘人形の指に触れて、
「うぉぉぉぉ!」
驚きの声を上げた。
「なに、これ。俺の魔力と波長がぴったりだ。こいつ、簡単に同化できるぞ。」
そう叫んだ直後、ヴォルケーノの体と戦闘人形が赤く光りだし、ヴォルケーノの体が戦闘人形に吸い込まれた。
すると機体の形状が変化し始めた。機体頭部の額に二本の角が生え、首周りは頭頂部から続く兜に変形した。胸部は胸板、肩から大袖、腰に草摺と全身変化していった。
光が収まると、まるで武田の赤備の様な戦闘人形の姿が露になった。そこでホノカがやっと言葉を発した。
「これは・・・、なんともすごいものだな。」
驚きの連続でホノカが微妙な感想を呟き、戦闘人形の見上げながらその右手に触れる。
「えっ!」
ホノカの目の前にスクリーンが現れ、メッセージが流れ始めた。
『戦闘人形、制御情報、入力開始!
簡易認証を上書きします。
認証完了!
電脳感応情報、入力完了!
武装情報、入力完了!
魔力展開術式、入力完了!
魔力連結、完了!
情報接続、完了!
全情報、入力完了!
マスター登録をお願いします。
お名前を音声にて入力してください。』
「・・・・・・。」
ホノカは再び唖然としたまま固まった。
『お名前をお願いします。』
スクリーンのメッセージに反応がないため、音声による催促がホノカにもたらされた。
「ホノカ・・・」
『マスター「ホノカ」、認証しました。』
「・・・」
『マスター「ホノカ」ご命令を!』
無反応なホノカに戦闘人形が指示を仰ぐ。
「ああ・・・、」
「ホノカ、名前を呼んであげて。」
何とも言えないような表情をしたホノカにリンが助け舟をだした。マスター(ホノカ)の命令がなければ戦闘人形は動かないのだ。その為にはまず名前を言う必要があった。
「ああ、わかった。朱炎轟天!」
『はっ!』
朱炎轟天が、膝をついたまま頭を下げ、武士の様な礼を取る。
「たのむ。助けてくれ!」
『御意! されど我が主よ。我に懇願は不要。一言、命令をいただければ、その御心のままに!』
「そうか、わかった。」
ホノカは、朱炎轟天に戸惑いながらもなんとかそう答え、朱炎轟天を背に氷龍の方へ体を向けると、リンも同じようにその横に並んだ。
「機神召喚・炎!」
ホノカが頭の中に浮かんだ言葉を叫ぶと、朱炎轟天が再び光を帯び、機体の再構築を始めて、そのまま機体が炎に包まれた。
「戦闘衣飾装!」
ホノカの体が浮き上がり、背後にいた炎に包まれた朱炎轟天からでた炎の帯がホノカの体に巻き付き、球形の炎が出来上がった。
それは「炎」だが、まったく熱量を感じなかった。幻影の炎とでも言おうか。ただのエフェクトの様にホノカの裸体がシルエットのように移りこんでいた。
炎の中でホノカの着物が光の粒子となり四散し、その光がホノカの体を包んだ。
髪を纏めていた紐がほどけ、黒く長い髪が風にそよぎ、大きな緋色のリボンが髪を改めて纏め上げると黒髪が大きく揺れた。
体にフィットする白い下衣が上半身を覆い、その上には袖がなく肩にフリルをあしらった着物、胸には桜の花を模した留め具、そこから延びる赤い紐のリボン、腕には独立した袖が手首と上腕で赤い紐で縫うように絞って止められ、手首から手の甲を覆うフリルの付いた籠手の下布、下半身には緋色の袴、その裾は絞られ、それを収めるように赤いブーツをはいて、ブーツの甲には大きな白いリボンがあり、脛には小さなリボンがいくつもついていた。それらの衣装がホノカの体に具現化した。
「機神武装装着!」
続いて、武具が装着されていった。
額には白い額当て、中央に赤いハートの宝玉、肩には胸板と大袖が一体となったもの、左手には肘まである大ぶりの籠手、右手には小ぶりな籠手、腰の左右には草摺が、そして、炎刀楓焔は刃を除く棟から鎬の部分が赤く緋色に輝いていた。
最後に白い額当ての両端から楓焔と同じ緋色に輝く湾曲した角が2本生えてきた。
炎が消えると、そこには炎機神を装着したホノカが立っていた。
頭には長く伸びた角が光り、装着された武具からは炎を幻視するような陽炎が上がっていた。
「ヴォル、いけるか?」
『おお、大丈夫だ! こいつの中はものすごく居心地がいい。今ならいくらでも魔力が使えそうだ。』
「そうか、私も力が漲っている。さっきまで氷龍を見るだけで震えていたのが噓のようだ。これが、リンの見ていた世界なのか?」
ホノカもヴォルケーノも初めての機神に感動してるようだった。
機神はホノカとヴォルケーノに合わせて最適化されているのだ。ホノカの装着感はもちろん見た目だけでなく、身体能力が強化されている。火精霊ヴォルケーノにとっても前もって精霊子を登録したことで最高の状態で同化できるようになっていた。
「そうだよ。精霊と機神と私が一体になったような気になるよね。」
「ああ、それよりこの衣装は何とかならんのか? こんなに飾りのついている着物は何とも恥ずかしい。」
「ん~ん、そう言われても・・・、そういうものだとしか言えないよ。凛々しいホノカもいいけど、そんな可愛い服もいいよ。」
ホノカは、ほかの事よりフリルの付いた衣装が気になって仕方なかった。剣士である自分にはこんなのは、似合うはずがないと思っていた。
それを可愛いといわれて、真っ赤になるホノカであった。
『我が主、そろそろ、あちらの方が限界と見えますが。』
戦況を把握していた朱炎轟天が、ラムルと氷龍の状態を見て言葉を発した。リンの説得が始まって既に数十分たっており、ラムルの活動限界が迫っていた。
「ラムル殿!!」
朱炎轟天の言葉にリンとホノカがラムルと氷龍の方を見る。
「じゃあ、いくぞ、ヴォル、朱炎轟天!」
『おう!』『お任せを!』
ヴォルケーノ達の返事とともに爆音の様な音を立ててホノカは地面を蹴って、氷龍に向けて飛び出した。
「私たちも行くよ、レイク、ウォーテス、機神装甲装着!」
リンも再度、水機神を装着し、水龍の方へ向かった。
◇◇◇◇◇
「かはぁっ!!」
俺は氷龍の爪を受けて地面に転がった。何とか対空機関砲を盾代わりにして直撃は防ぐことができたが、衝撃を緩和しきれずに飛ばされたのだ。
氷弾の弾幕をすべて撃ち落したところまでは良かったが、高出力兵器が使えないため、ジリ貧であった。
氷弾を防がれて氷龍が驚いたのも一瞬で直後に突進からの爪と牙による連撃が俺を襲った。
それを何度も躱していたが、巨体であるにもかかわらずその動きは素早く、躱しきれずに直撃を受けてしまった。
『稼働限界まであと1分。送還準備に入ります。』
アリスのアナウンスが入り、ヘッドマウントディスプレイに赤い数字のカウントダウンが表示された。
「リン、たのむぞ!」
氷龍の更なる追撃が俺に迫る。接近戦で爪や牙を繰り出し、少し離れると尻尾が飛んでくる。完全に防戦一方な状態に俺は焦り始めた。
さすがに戦闘の最中に機神が送還されるとまずいのだ。
『送還カウントダウン、開始します。30、29、28、・・・』
「くそっ!」
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、』




