第58話 耐寒戦闘
「リン、大丈夫?」
「うん、なんとかね。でも・・・、」
心配するレイクの言葉に、リンは答えるが、
「でも、このままじゃあ、みんな、やられちゃうよ。」
『マスター、火系統の攻撃手段があればいいのですが、現状、巫女殿の法術しかありませんが・・・。』
「う~ん、ヴォルケーノが力を貸してくれればいいんだけどな~。」
「ヴォルケーノってさっきの火精霊?」
「そうよ、あれ(ヴォルケーノ)は、あたしと同格の精霊だからね~。もしかしたら『機神』が使えるかもしれない。」
「うん、ウォーテス、ラムルと話せそう?」
『多分、大丈夫かと、呼び出してみます。友軍無線回線オープン。』
◇◇◇◇◇
ウォーテスから友軍チャンネルで通信が届いたので、俺はすぐさまアリスに確認してみた。
「アリス、・・・。ということだが。」
『はい、可能です。レイクと火精霊、ウォーテスと未登録戦闘人形とアクセスし、それぞれをリンが中継するようホノカ様とリンクできれば、遠隔認証できます。ただし、ホノカ様およびヴォルケーノ様の両者の同意が不可欠です。』
アリスの返答は十分なものだった。俺やリンの攻撃でダメージを与えられないのなら、ホノカとウォーテスにかけるしかない。
「聞こえたか、リン。」
『うん。大丈夫!』
「俺が、コンゴウとスズカを守る。お前は・・・、」
『わかってる、ホノカさんとヴォルケーノさんの説得だね。レイクとがんばるよ。』
リンは俺の言葉を遮り、そう答えた。今やるべきこと、やってほしいことを十分に理解していた。
「たのむ。」
ホノカも大分落ち込んでいるようだし、ヴォルケーノに至っては姿すら見せていない。
(勝利のカギが、あの火精霊になるとはな。)
◇◇◇◇◇
「アリス、耐冷モード。」
『ラジャー、耐冷モードに移行します。
極寒惑星仕様、耐寒関節ガード展開。
耐冷オイル循環。
オイルチューブ加熱開始。
駆動モーター、耐冷ガード起動。
自動召喚、耐寒宇宙服、装着。
耐冷断熱装置起動。
加熱酸素供給開始。』
機神の関節内部に布状のガードが展開し、機神の腕と脚の内部のオイルチューブが加熱され、極低温でも循環するオイルが各所に流れ始めた。それにより全体の表面温度が上がり、張り付いて氷が溶け関節が動かせるようになった。
又、俺の体が光を纏い、服の上に宇宙服を装着する。宇宙服は真空中はもちろん、超高温や極低温でも生命維持が可能となっている。
耐冷モードは極めて燃費が悪く長時間の活動には不向きである。事前にジェネレータを準備していれば問題はないが、今は、リンとホノカに期待するしかない。
ダメだったときは、撤退もやむを得ない。
『耐冷モード移行完了。活動限界は、約20分です。限界時間5分を切った時点で強制撤退に移ります。』
「ちっ、短いな!」
俺は舌を打ち、そう呟くとリンの方へジャンプした。
それと同時にリンがホノカに向けて駆け出した。
氷龍が空中の俺を狙って、爪を突き出してくるが、なんとか態勢を変えて躱し、リンが守っていたコンゴウたちの前に降り立つ。
「アリス、サポート頼む!」
『ラジャー!』
「召喚、防御障壁杭!」
『杭固定!
対物耐冷障壁展開!
出力最大!』
その上空に3本の防御障壁杭が現われ、コンゴウたちを囲うように地面の氷を割って突き刺さり、固定が終わると半球状のバリアが展開された。
「コンゴウ、スズカ、その中から動くな、法術も撃つんじゃないぞ!」
「ああ・・・。」
コンゴウが唖然とした表情で何とか返事を返してきた。スズカは何が起こっているかわからないように口を開けて立ち尽くしていた。
「さあて、これでお前と心置きなく戦えるな。」
俺はそう言いながら、氷龍を見上げた。
活動時間に限界がある以上、エネルギーを食うものは使えない。
「武器召喚、飛燕! グレネードランチャー! 無反動砲!」
機神右の手の中に抜き身の日本刀が、太腿の位置にグレネードランチャー、左肩に連射式無反動が出現した。
エネルギーを節約するため、実体兵器を装備する。
「いくぞ!」
俺は氷龍に向けて飛び出すと、無反動砲を連続で発射する。
氷龍は砲弾を見ると氷弾の魔法陣を展開して迎撃を始めた。発射した砲弾は6発、その内半数が迎撃され、残りは氷弾を搔い潜り、氷龍に着弾した。それと同時に爆音が響き渡る。
それを確認した俺は、弾の無くなった無反動砲を投げ捨て、氷龍に向けて飛び上り、続けてグレネードランチャーから全弾発射した。
今度は見えないせいか、迎撃の氷弾は飛んでこなかった。
爆煙が消える前にグレネードが撃ち込まれ、次々と着弾していく。その度に爆音とともに炎が上がった。
火口を覆っていた氷が溶けだし、周辺から水蒸気が上がっていた。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaa!!」
氷龍が叫び声をあげた。炎は苦手なはずだが、苦しんでいるような様子ではなかった。まるで「こんな炎程度で倒せると思っているのか」とでもいうような感じだった。
ヘルメットのバイザーに氷龍の様子が写っている。レーダー波、赤外線、超音波などの探知装置による合成画像だ。可視光線で見えなくても見ることができるのだ。
細かなことまでわからないが、氷龍はほぼ無傷に見える。それを見て、俺は脚部のバーニアを逆方向に噴射し、元いた位置に降り立った。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaa!!」
再び氷龍が叫び声を上げると周りに漂っていた煙が吹き飛ばされた。
地面ではブスブスと燃えカスが赤く燻っていた。その中央に氷龍が佇み、俺に殺気を飛ばしてくる。俺はそれに負けじと睨み返した。
次の刹那、俺と氷龍は同時に動き出した。
氷龍は右手の爪を伸ばして揃え、手刀のように突き出してくる。
「ガッキーーン!!」
俺はそれを飛燕で受け止めた。しかし、受けた瞬間、爪に弾かれ、指の間に飛燕が入り込み、指の股でとまった。流石に指の股にも小さな鱗があり、飛燕ではそれを斬ることはできなかった。氷龍の爪は俺の眼前にとまり、動きを止める。
しばしの押し合いの後、氷龍は左手の爪を開き、横なぎに腕を振るう。その爪が俺の眼前を通り過ぎた。
俺は、氷龍の左手が動いた瞬間、飛燕を一気に押し込み、その反動を利用して地面を蹴り後方へ飛びのいた。そこを左手の爪が振りぬかれたのだ。
氷龍が吹雪息を吐こうとタメに入る。
「させるかぁっ!!」
俺は間合いを詰め、氷龍の真下からジャンプし、その勢いをもって右足を思いっきり蹴りだした。
俺の体が後ろに仰け反りながら、オーバーヘッドキックの様に下から氷龍の顎を蹴り上げた。
氷龍は強制的に顎を閉じられ、吐き出しかけた吹雪息が不発となり、口の隙間から冷気が漏れ出す。
氷龍から怒気が溢れ出す。その威圧だけで心の弱い奴なら腰を抜かして動けなくなるような強力なやつだ。だが、その程度で俺が折れるほど弱くはない。
怒りに満ちた目で俺を睨みつけながら、背中の翼を広げ大きく羽ばたくと暴風を巻き起こして上空へ舞い上がり、上空に滞空すると再び無数の魔法陣が展開された。
「くっ、また、弾幕で来るつもりか!!」
魔法陣に無数の氷弾が生成され始めた。
「何度もさせるかぁ! 送還、飛燕! 武器召喚、対空機関砲!!」
機神の手から飛燕が消えると両肩に対空機関砲が2基現われる。
「アリス、照準は任せた!」
『ラジャー、対空戦闘開始。目標、敵個体より発射された氷弾。マルチ照準器オン。自動迎撃開始!』
機神の両手でグリップを握ると上空へ砲口を向けて機神がトリガーを引くと、連続する砲撃音を響かせ対空機関砲から砲弾が連射される。
同時に、氷龍の魔法陣から氷弾が発射され、飽和攻撃の応酬が開始された。
無数に発射される氷龍の氷弾を機神の機関砲が次々と撃ち落としていく。銃弾に比べてもその速度は遥かに遅い。戦闘人形に搭載された制御用AIであるアリスにとって、そんな速度で飛んでくる氷弾など止まっているも同然だ。初見ならともかく何度も受けている攻撃なら解析も可能だ。
撃ち漏らした氷弾が周囲に着弾するが、直撃弾はすべてを撃ち落とした。それを見た氷龍が驚愕して目を見開いていた。
『マスター、稼働限界まであと8分。撤退準備をお願いします。』
「撤退はなしだ。稼働限界になれば機神を送還しろ。」
『しかし、機神を送還したら、戦闘継続は困難です。』
「大丈夫だ。リンがうまくやってくれる。レイクは・・・まあ、たぶん、恐らく、大丈夫だろう。」




