第53話 最下層
3体の獄豪獣の体が、これまでの魔物と同じように霊石となって消え去った。それと同時に刀や体についた獄豪獣の血や体液も消え去る。血振るいをする必要もなかったが、いつもの癖で血振るいをしてから納刀した。その時、コンゴウの怒鳴る声が聞こえてきた。
「スズカ、おまえ、俺を巻き込もうとしたな!」
「な、何を言っているのですか、コンゴウさん。」
「おまえの腕なら、俺を躱して法術をを打てただろうが!」
「やだな~、コンゴウさんが、避けられるって信じて撃ったんじゃないですか。」
「あのな、それでも万が一ってこともあるだろうが。」
どうやら、スズカの放った氷嵐がコンゴウを巻き込みかけたことに怒っているらしい。対してスズカは涼しい顔をして反論している。口元を鉄扇で隠しているが、ニヤけているのが判る。普段とは違う敬語になっているのが確信犯の証拠だ。コンゴウもそれがわかっているのか余計に怒っているようだ。
「はあぁ~」
ホノカが頭を押さえながらため息をつく。
「コンゴウもスズカもいい加減にしろ!」
二人の言い合いに業を煮やしてホノカが一喝する。
「「!!」」
その途端に二人とも静かになった
「スズカは、少し反省しろ。いくら、避けられる前提とはいえ、味方に対して法術を打ち込むなど、冗談ではすまんぞ。コンゴウなら例え法術を受けても大丈夫だっただろうが、その隙をつかれれば、全滅もありうる。」
「はい、ごめんなさい。」
「コンゴウもだ。スズカが撃ってきても問題がないなら、目くじらを立てるな。お前の回復力と防御力なら、氷嵐程度なんともあるまい。」
「おう、すまんかった。」
ホノカの言葉を受けて、コンゴウは大きな体を小さく丸め、ホノカはシュンとうなだれてしまった。二人ともホノカには弱いようだ。
「見苦しい所を見せたな。ラムル殿、リン殿。」
二人との話が一段落したら、ホノカが俺たちの方に謝罪をしてきた。
「ああ、大丈夫だ。一緒に長いこといれば、ぶつかり合うこともあるさ。」
「そうだね、私とラムルもケンカしたこともあるしね。」
それに対し、俺が「そんなこともあるさ」的な返事をするとリンがなんか言っている。
「む? そんなことあったか?」
「あ~、もう忘れている。」
「ホノカ、コンゴウとスズカが反省したみたいだし、先に進むか?」
リンがほっぺたを膨らませていたが、俺はリンの話をごまかす様にホノカに問いかけた。
「ああ、そうだな。早く攻略してしまおう。」
俺たちは、ホノカの言葉で迷宮の探索を再開した。
コンゴウたちも、この程度で仲違いする様な事はなくただのじゃれあいの様なものだった。
◇◇◇◇◇
その後、俺たちは下層を探索した。さすがに下層は上層、中層のように後衛組が単騎で倒せるような相手ではないが、俺やホノカ、コンゴウなら一対一でならさほど問題にはならなかった。しかし、下層では単体で魔物が現れることはなく、3体から5体の集団で現れてきた。前衛の壁役がコンゴウ、中衛の攻撃役が俺とホノカ、後衛がリンとスズカを配置することで効率よく魔物を狩っていた。後方からの攻撃もスズカの法術で防いで、俺かホノカのどちらかが迎撃することで撃退していた。
やがて、下層の最奥に到着したが、そこには、あるはずのない扉が鎮座していた。
「これは・・・!?」
「む、こんなところに扉はなかったはずだが。」
「前に来た時にはなかったよ!」
ホノカ、コンゴウ、スズカの順に声を上げる。どうやら、この扉は今まで存在していなかったようだ。迷宮は不思議な場所だと聞いていたが、こんなこともあるのだろうか。迷宮の事を全く知らない俺たちには判断ができなかった。
「この扉は、本物の様だぞ。」
俺が扉に触れてみると、そこには確かな質感があった。中層、上層の階層主の部屋の扉より遥かに上質で派手な装飾を凝らした扉である。だまし絵のように壁に描かれているわけでもない。幻術の様な不確かなものでもない。
「扉の出現になにか条件があるのか? もしくは、迷宮の変化により出現したのか?」
おれはそう呟いた。以前になくても、現実にそこに存在している。どういう原理か判らないが、今、そこにあるのが現実である以上それを否定してもどうしようもない。
(アリス!)
(はい、マスター。)
(ゴノジョウ迷宮の最下層の扉について何か情報はないか?)
(検索してみます。・・・・。ゴノジョウ迷宮はかつて火の迷宮と呼ばれており、その時代も含めて検索しましたが、最下層に扉があったという情報はありません。)
(じゃあ、本当に今までなかったということだな。)
(情報としては存在しません。)
(ん? 情報として・・・、ということはそれ以外なら何かあるのか?)
(はい、500年程前の御伽噺として『火の迷宮』の最下層に扉があったと記載されていますが、その真偽は定かではありません。)
(どんな内容だ?)
(まず時期ですが、500年前の御伽噺ですので、仮に史実に基づいたものなら、それ以前の事となります。)
(それで、)
(当時、「勇者」と呼ばれる者がおりました。「勇者」は魔族と呼ばれる種族を討伐するための力を求めて旅をしていました。啓示により火の迷宮に求める力の一つがある火の迷宮を訪れました。近くの村では最下層には何もないと言ってましたが、啓示を信じる「勇者」が村の者の案内で迷宮の最下層まで潜ったところ、あるはずのない迷宮主の部屋を見つけ、力を得たと語られています。)
(「勇者」か、また、胡散臭いワードが出てきたな。)
(はい、史実を伝える資料には、「勇者」なる者の記述はありません。おそらくは、「勇者」に問題があり、禁句になったのではと推察します。500年前以降は、創作も含めて「勇者」という単語は出てきません。)
(わかった。ご苦労さん!)
(いえ。)
アリスとの通信が終わったタイミングでコンゴウがホノカに声をかけた。
「扉があるなら、入るしかあるまい。どのみち、調査をしに来たのだ。報告するためにも中を調べる必要があるのではないか?」
「その通りなのだが、私たちも含めて、この扉についての報告を聞いたことがない。出発前の打合せでも扉の事は言ってなかった。」
500年前に廃れた物語などホノカ達が知る由もなかった。誰かが知っているのなら、いろんな情報が集まってくる萬請負処で話し合って当然だ。調査を依頼して事前情報に齟齬があれば調査自体が成り立たない。
「ホノカ、ちょっといいか?」
「ん、なんだ。」
「初めての俺が言うのも何なんだが、もし、扉が一定の条件で出現するなら、このことを報告しても誤情報として処理されないか?」
俺は、ホノカに対しこのまま帰った場合の事を聞いてみた。経験者のホノカ達が知らないものがあれば報告対象になるが、それが巨大な扉となれば、今まで見つからないはずがない。扉の存在そのものが疑われるに決まっている。条件付きなら次に来た時にあるかどうかもわからない。
「確かにそうだな。」
「せめて、何か証拠になるようなものが必要だと思うんだが。」
「スズカとリン殿はどう思う。ここは全員の意見を聞いておきたい。」
「私はいいと思うよ。嘘つき呼ばわりは嫌だし、出来ることはやっておきたいかな。」
「私には、迷宮の事もゴノジョウの事もよくわからないので、ラムルやみんなの意見に従います。」
「なら決まりだな、俺は中を調べた方がいいと思う。」
俺とコンゴウ、スズカは賛成、リンは俺に従う。ホノカは迷っているようだが、賛成多数だ。
「わかった。では、この向こうへ進もう。」
ホノカはそう言った後、俺たちより一歩前へ出ると振り向いて全員の顔を見回した。
「ただし、扉を潜るのは私だけだ。」
そしてホノカがそう言うとコンゴウとスズカが声を上げる。
「なんだと!?」
「え~!?」
「どうゆうことだ、ホノカ!」
「恐らくだが、この奥には何か危険なものがあるはずだ。罠か主か何があるかわからないが、危険であることに変わりはない。だから、私だけが中に入って確認する。安全が確認されてから全員で行けばいい。」
「そんなのホノカだけが、危ないじゃない。」
「私はこの調査団の団長だ。団員に対して責任がある。扉の向こうに何があるかわからない以上、その危険度を確認するのは団長の仕事だ。」
「ホノカの言うことは間違っていないが、一人で行くのは危険だ。」
「そうだな、一人だと対応できないこともあるだろうからな。」
「だめだ! 仲間を危険にさらすわけにはいかない!」
「それは、私たちも一緒だよ。」
「ホノカだけに危ないことはさせれないよ。」
「ホノカ、諦めろ! 儂もお前だけで行かすわけにはいかん。」
ホノカが一人で行くと言い、他のみんなが一緒に行くという。しばらく、話し合いが続いたが、最後にはホノカが折れた。
「はあぁ・・・、仕方ない。一緒に行くのは認めよう。だが、先頭は私が行く。」




