第52話 獄豪獣
倒れていた炎牛鬼の体が輪郭を失い、その場から消え去った。その場には、半分に割れた魔石(ここでは霊石とう言う)が転がっていた。
「またせたな!」
俺は皆の方を振り返り、そう言うが、リン以外は信じられないものを見たような顔をしていた。
「「「!?」」」」
「ラムル、お疲れ様。」
「おう!」
リンの労いの言葉に俺は答えるが、外の面子をみると唖然とした顔をしていた。
「ホノカ、コンゴウ、スズカ、どうした?」
「まてまて、なんでだ。なんで、炎牛鬼を殴り倒せるっ!!」
「おう、さすがの儂でもあれを殴り倒すなんでできるんわ!」
「いや、いや、いや、いや、どんな裏技か知んないけどありえないっしょ!」
俺が声をかけると、完全にテンパっている3人組が同時に聞いてきた。
「そんなに慌てるな、3人同時にしゃべられても答えられないだろうが!」
「コホン、むう、すまなかった。少々取り乱したようだ。」
ホノカが軽く息を整えると、咳ばらいをして、何事もなかったように改めて聞いてきた。
「それで、さっきのはなんだ。キシンショウカンとか言っていたような気がするが?」
「あ~それな、まあ~、黙っていたのは悪いが、あまり、人に言いたくない能力でな。」
「それは、そうだよね~。ゴーレムっぽかった腕とか脚とか、人に言ったって頭を疑われるよね。」
「言い方はあれだが、そう言うことだ。」
能力を明かしたくなかったのもあるが、この世界にはない、ある意味では異常な技なわけだから、おいそれと人に話すわけにはいかないし、手の内をさらすのを避けるのは当然ではある。おれもリンも技のことは必要がなければ人に話すことはない。
今回は機神のことをばらす必要があったかというと・・・、まあ、現時点ではなかったとも言えるが、脚を着けた状態での使い勝手を確認したかったというのもあり、ぶっつけ本番で使うのもどうかというのもあり、ホノカ達ならばれても大きな問題にはならなさそうだったので慣れるために使ってみたかったのだ。
(そうだ、慣れるために必要だったのだ。決して、殴り合いをしたかったわけではない)
なにか、リンからの呆れたような視線を視線を感じるが、しっかりと目線はそらせておく。
そこへコンゴウが口をはさんできた。
「むう、そうだな。あれは儂でも装備できるのか?」
「あ~、すまないがそれは無理だ。あれは俺の固有能力だから、人には使えないな。」
「では、仕方ないな。」
コンゴウは残念そうに答えた。
人に使わせたことがないから、はっきりとは判らないが、誰かに目を付けられるのも嫌だしな。
「ということで、この能力はここだけの話にしておいてほしい。」
「むう。」
「わかった。」
「いいよ。」
3人3様の返事を聞き、リンの方を見ると
「はあ~あ・・・。隠す気があるのやら、ないのやら・・・。」
ため息をつくリンの姿があった。
◇◇◇◇◇
炎牛鬼戦の後、最初に炎牛鬼の立っていた台座部分を調べると台座がスライドし、下層への階段が現れた。
俺たちはその階段を降りて下層へ入り、下層を進んでいった。
「正面、獄豪獣3! コンゴウ、防御! スズカ、氷呪! ラムル殿はスズカの攻撃後、私と突撃! リン殿は待機、けが人が出たら回復頼む!」
「おう!」
「了解!」
「わかった。」
「はい!」
ホノカが獄豪獣を見つけ、すばやく指示を出し、俺たちが返事をする。
「臨!」
コンゴウが前に出て錫杖を構え、片手で印を結んでそう唱える。コンゴウの体から一気に覇気を吹き出し全身に纏った。
「ガルゥゥゥッ!!」
そのコンゴウに獄豪獣が襲い掛かった。
獄豪獣は、体長3mを越える巨体に三つの首と三つの尻尾をもつ犬型の魔獣である。
迷宮の魔獣はパルミの魔獣とは違って、意思疎通は出来そうにない。魔狼王や白虎牙を例に出すまでもなく、最弱の魔物ですら、意思を持っている。意思の疎通が出来ない魔物であっても、強者からは逃げるし、腹が減れば獲物を狩り、そうでなければのんびりしている。野生の動物とその行動原理は変わらない。
だが、この迷宮の魔物、魔獣は侵入者を見つけると見境なく襲ってくる。仲間がやられたり、明らかに格上の相手であっても関係ない。とにかく、そこに誰かがいれば襲い掛かる。逃げることはない。己が意思を持たず、侵入者がいれば排除する。
獄豪獣もその例にもれず、こちらを襲ってきた。
獄豪獣の三つの首が咢を開き、コンゴウに嚙みつこうとした。コンゴウは錫杖を右手で横に振り上げ、二つの首の咢を防ぎ、もう一つの咢の中に反対の手に持った三鈷杵を縦に突っ込み顎を閉じられなくして、攻撃を防いだ。
「スズカ!」
「まかせて、氷神招来!!」
ホノカの合図でスズカは札を放ち鉄扇で法術を発動した。札から冷気が湧きあがり空中に女性の姿が浮かび上がる。青白い肌に白い長髪、白い浴衣を着崩したその姿は雪女の様だった。
「氷嵐!」
氷神の口から「フウッ。」っと吐息が吐かれるとキラキラと光る風となって、俺たちの頭上を獄豪獣達の方へ向かった。
「!? ふん!!」
氷嵐の攻撃範囲内にいるコンゴウは目線だけで一瞬後ろを確認すると目を剥いていた。コンゴウは慌てて、全身に力を込めて思いっきり獄豪獣を突き飛ばす。獄豪獣は三鈷杵と錫杖を咥えたまま、3歩ほど後ずさり、コンゴウはその場に伏せる。獄豪獣は巨体故倒れることはなかったが、それでも、コンゴウが氷嵐を避けるための時間には十分だった。
伏せたコンゴウの上を氷嵐の風が吹きすさぶ。風が獄豪獣を捉えその周りをキラキラと光る風が渦を巻いていた。極低温の風の中で水分が結晶化し、獄豪獣の体力を奪い始めた。
獄豪獣は火などの高温への耐性は高いが、低温への耐性は低い。そのため、極低温の中では動きが鈍くなる。
「ラムル殿、私は右をやる、行くぞ!!」
「おうっ!」
獄豪獣に向かって俺とホノカが同時に飛び出した。
丁度、氷嵐の効果が切れ、ホノカが獄豪獣の前へ躍り出ると素早く大太刀を振り回す。
「ギャン!」「キャン!」「ギャン!」
大上段から振り下ろする一の太刀で中央の頭を両断し、下から切り返した二の太刀で右の首を切り裂き、横なぎの三の太刀で左の首の頭蓋ごと顎を落とした。
煉獄中が俺の体を咬み千切ろうと咢を開き襲い掛かってくる。噛みつかれる直前、左へステップしてそれを躱す。三つの首が『ガチん!』と音をたてて空を咬む。真横に来た獄豪獣に対し正面を向くと、その三つ首めがけて袈裟気味に偑月刀振り下ろす。
「「「ギャ!?」」」
刀の動線に沿って三つの首が同時にずれ落ちる。
コンゴウが足止めした中央の獄豪獣が、氷嵐をおさまってすぐ、再度、コンゴウに噛みつき攻撃をしようと、突進してくる。
「「グルゥゥゥゥ!!!」」
先程、獄豪獣を止めた錫杖と三鈷杵はコンゴウの手にはもうない。獄豪獣を突き飛ばす際に噛みつかれたまま手放した。スズカの氷嵐を避けるためそれらを回収する余裕がなかったのだ。
獄豪獣は態勢を立て直すと錫杖を放り出した後、三鈷杵を取り出そうと頭を振り回すが上顎と下顎にはまり込み外れなかった。それ故、残り二つの首でコンゴウに攻撃を仕掛ける。
立ち上がったコンゴウが覇気を纏い、獄豪獣を見据える。獄豪獣が噛みつこうとする瞬間、コンゴウが両手の拳をその口の中目掛けて突き出した。
それほど、強い一撃ではないが、獄豪獣は腕を食いちぎるつもりでコンゴウの腕に噛みつこうとしたが、口に突っ込まれた拳は、その勢いのまま喉の奥まで達し喉を圧迫し、獄豪獣は口を閉じられなくなった。
コンゴウは拳にまとわりつく粘液の気持ち悪さに顔をしかめながら一気に抜き取り、首の周りの剛毛を鷲掴みにすると、そのまま背負い込むように体を回す。
一瞬、力の抜けた獄豪獣の首を引きずり込み、背中にその重みを感じながら腰を落とし、全身の力を背に集中させ、一気に打ち上げる。
獄豪獣の巨体が重力の楔を解き放ち宙を舞う。
「「「ギャウンッ!!」」」
獄豪獣はその勢いのまま地面に打ち付けられた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
仰向けになった獄豪獣の胸に裂ぱくの気合とともにコンゴウが手刀を打ち込む。
覇気を纏った手刀は獄豪獣のあばらを突き抜け心臓まで達すると手を開いて握りつぶす。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
「「「ギャンッ!」」」




