第51話 炎牛鬼
一瞬、驚いたような顔をした炎牛鬼。その直後、俺と視線が合うとその口角が上がり、俺もまた同じように口角を上げた。
「ブモォォッ!」
「やるな!」
言葉は通じないが、お互い、その実力を認め合ったように声をだす。
「ボゴォォッ!!」
「うぉぉ!!」
同時に俺と炎牛鬼が動き出した。両手を挙げて素手で襲い掛かってくる炎牛鬼に機神の手を同じように突き出す。
機神の手と炎牛鬼の手がぶつかり合い、「バーン!!!」と音が響き渡り、衝撃波で周りが振動する。
俺と炎牛鬼がシッカリと組み合い、再び、力比べとなる。
「ボゴンッ!!」
俺たちのあまりの力に床が耐え切れずに二人の足元が音を立てて陥没する。
次の瞬間、炎牛鬼が頭をわずかにのけ反らせ、頭を前へ振る。俺の目の前に炎牛鬼の頭が迫ってきた。
(頭突き、いや、角で突く気か!)
機神の両腕は、使えない。
(腕部接続解除、自動制御開始!!!)
「くっ!」
俺は咄嗟に腕の接続を切り、素手で角を受け止める。頭突きならぬ角突きが至近距離で、来るとは思っておらず、何とか受け止めることができたが、腕への接続が切れが事が一瞬の隙となってしまった。
炎牛鬼がその隙を突き、組んだ手を引いて俺を引き寄せると、膝蹴りを俺の腹めがけて繰り出してきた。
「ぐわぁっ!!」
腹へ直撃を受け俺の体が機神とともに浮いて、そのまま体ごと振り回され、一回転して振り飛ばされてしまった。
俺の体は壁まで飛ばされ、轟音を立て壁を破壊してめり込んだ。
「か、はぁっ!」
壁に激突した拍子に肺から空気がこぼれ、わずかな血を吐き出した。
炎牛鬼がその巨体に似合わぬ素早さで、床を割りながら蹴って、俺に向かって走り出した。
◇◇◇◇◇
「ラムル殿!!」
「「あっ!?」」
ホノカは俺が壁に激突して炎牛鬼が走り始めた瞬間、俺の名を呼んで駆け出そうとした。
「まって!」
リンはそんなホノカの腕を取って止める。
「ラムルは大丈夫。全然、問題はないよ!」
「どんな裏技があるか知らないが、あれはまずい。炎牛鬼の突進を受けて助かるはずがない。」
ホノカは焦りながら、そう言う。
「ホノカさんは、ラムルの実力を知らないから仕方ないけど、ラムルがこの程度で負けることはないよ。」
ホノカはそう真剣な顔で告げるリンを見ながら迷っていた。
「武器召喚、重装盾!!」
その時、ラムルの声が響いた。
◇◇◇◇◇
「ボゥォォォォォ!!!」
姿勢を低く、頭を下げて角を突き出し、炎牛鬼が突進してくる。その角は炎牛鬼のスキルか何かで赤熱化している。それにより、破壊力が大きくなっているはずだ。
まさに猛牛というような突、「ドッドッドッドッドッ!!」といういかにもな擬音が似合いそうだと思いながら、
(あれをまともに喰らったらやばいな。)
などと考える。
あんなに簡単に局所防御光壁を破られるとはな。
炎牛鬼の膝蹴りがあたる直前、局所防御光壁を展開したが、膝蹴りの威力に負けた光壁は一瞬の抵抗の後、あっさりと砕け散っていた。
だが、光壁と引き換えに膝蹴りの威力が弱まり、俺へのダメージはほとんどなく、体を浮かせる程度にとどまった。
ダメージがないと見た炎牛鬼は俺を振り回し壁にぶつける。
壁にぶつかる直前、光壁の多重展開により衝撃を逃がしたが、逃がしきれなかった衝撃が俺の体を襲った。
機神のコックピットなら、この程度の衝撃波は吸収できたが、如何せん生身の体ではそうもいかない。
背に受けた衝撃により一瞬呼吸が止まり、直後に血を吐き出した。
その時、炎牛鬼はすでに目前まで迫っていた。
「武器召喚、重装盾!! 固定!」
俺と炎牛鬼の間に重装盾が光とともに顕現した。高さ1.2mの重装盾からアンカーが飛び出し、床板を貫いて固定される。そこへ炎牛鬼の突進が激突する。
炎牛鬼の赤熱化した角と重装盾が轟音を立てて激突する。重装盾が角の形にへこみ、アンカーが床を削って後退したが、見事に奴の突進を止めた。
「突進を止めたとはいえ、重装盾を変形させるとは、なんて、威力なんだよ!」
俺はそう呟きながら、めり込んだ壁から抜け出した。
重装盾は、対艦砲の砲撃でさえ無傷で防ぐルミナスの武装だ。たとえ、超音速で砲弾が飛んできてもそれをはじき返すほどの強度がある。それを変形させるほどの破壊力が角にあるのなら、重装盾以上の強度があるということになるな。
「ヴモッ!?」
一方の炎牛鬼も突進を止められて驚いている。躱したり、攻撃で威力を弱められることはあっても真正面から止められたことはなかった。それが止められるなどあり得ないはずだ。
炎牛鬼の表情からそんな感じが伝わってきた。
「光撃破砕蹴ゥッッッッッッ!!!」
俺はその隙を見逃すことなくジャンプし重装盾を飛び越え、光撃破砕蹴を見舞った。
光壁を纏った機神の爪先をまっすぐに伸ばした空中からの蹴りが炎牛鬼の眉間に激突する。
突進のため低姿勢だった炎牛鬼は蹴りの勢いにより、床を砕いて頭を打ち付けられる。
「さあ、これでおあいこだ。その程度でくたばったりしないはずだ。続きをしようぜ」
俺は再度、ジャンプして炎牛鬼と距離を取りながらそういった。
「ボォォッ!!」
炎牛鬼が、立ち上がりながらこちらを睨みつけてくる。
俺もまた炎牛鬼を睨み返す。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「ブウォォォォォ!!!」
お互いに拳を振り上げ殴りあう。
機神の拳が炎牛鬼の顔面をとらえ、又、炎牛鬼の拳も俺の腹に炸裂する。
炎牛鬼はすでに防御を捨てており、俺は局所光壁により防御をするも悉く炎牛鬼のパワーに破られていた。
俺と炎牛鬼は殴り、殴られ、蹴り、蹴られるを延々と繰り返していた。どちらも倒れる様子はなくいつまでも殴り合っていた。
◇◇◇◇◇
ラムルは、謎の腕と脚を纏って、真正面から殴り合っていた。それを見つめる面々はあり得ない事象に惚けていた。
「俺たちはいったい何を見せられているんだ!?」
コンゴウが誰に語りかけるわけでもなく呟いた。
「確かに信じられないが、目の前で起こっているのは事実だ。炎牛鬼に殴り飛ばされれば普通はそのまま死ぬというのに、ラムル殿は倒されるどころか、炎牛鬼を殴り返しているなど。この目で見てなければ信じられんな。」
「え~、嘘だあ、あんなのあり得ないよ~!」
ホノカ達は何度となくこの炎牛鬼を倒して下層へ行っているが、炎牛鬼と殴り合っている者を見るのは初めてだ。奴は戦斧の攻撃も脅威だが、素手でも簡単に人を殴り倒すことができる。ラムルと炎牛鬼が殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、お互いに引くことなく戦いが続いていた。
「あ~あ、ラムル、かなり、はちゃけちゃってちゃっているな~。」
「「「えっ!?」」」
ホノカ達が惚けているとリンが呆れた様子で一言呟いた。それを聞いた他の者たちは、思わず声に出して驚いていた。
「リン殿!?」
「ああ、ごめんなさい!」
ホノカが「えっ、どういうこと?」みたいな感じでリンの名を呼んだ。
「あ~、驚くよね。ラムルはかなりストレスが溜まっていたみたいだね。最近は圧倒的な格上か、片手間で倒せる相手としか戦っていないから、殴り合える相手と戦えるのがかなり嬉しそう。ラムルがただ倒すだけのつもりなら、いくらでもやりようがあるのに、わざわざ、腕と脚だけで戦うなんて。もしかして、ラムルって、ただの戦闘馬鹿なの? 脳筋なの?」
◇◇◇◇◇
ラムルと炎牛鬼が残像を残すような速度で拳を繰り出し、お互いの防御を削りあっていた。拳だけでなく、時折、脚や膝の蹴りによる攻撃が重なる。
やがて、延々と続いていた応酬に突然終わりが訪れる。
ラムルの放った一撃が炎牛鬼の胸に直撃し、その衝撃が炎牛鬼の体をすり抜け背中から発散される。
「パリンッ!」
その直後、ガラスの様な物が割れる音が聞こえ、炎牛鬼がのけ反るように床に倒れた。
「ヴォゥ・・・。」
倒れた炎牛鬼は、そのまま満足そうな目で俺を見上げ一声鳴いた。
「ああ、お前は強かったよ。俺も十分に楽しませてもらった。」




