第50話 中層主
俺たちはフノージ迷宮の中層まで来ていた。上層の階層主をリンとスズカが倒すと主部屋にある中層への扉が開き、そこにある階段を降りたところだ。
中層はそれまでの上層とは打って変わって、かなり気温が高かった。俺たちは全員汗を拭きながら、中層を進んでいった。
「暑いよう~!」
「これは、かなり暑いな!」
中層に入り、階層を進んでいくごとに徐々に気温が上がってきた。俺とリンは少しバテ始めてきた。
「ホノカ、そろそろ、あれを使った方が良くないか?」
「うん、私もそう思う。」
コンゴウとスズカが何かを使うようにホノカに言う。俺たちに気を使ったのだろうか。
「そうだな。6階層だし、次の階層主の所まで体力を温存した方がいいな。コンゴウ、頼む。」
「わかった。唵!」
ホノカがコンゴウに言うと、コンゴウは手指で複雑な形を作り活を入れると、コンゴウの体から、微細な霊力が流れ、俺たちの周りを包み込み、体感温度が明らかに下がる。どうやら、これが耐熱対策らしい。
コンゴウの法力による一種の耐熱結界のようだ。
まあ、レイクに頼めば同じようなこともできるが、あまり、この先を考えると少しでも力を温存した方がいいだろう。
後で聞いたことだが、これは、手印と言って密法に伝わる秘伝らしい。だが、コンゴウ曰く『別に秘伝とはいっても、特に隠しているわけではない。』とのことだ。
中層は主に呑鬼や剛鬼が出現していた。それ以外も出ていたが、比較的暑さに強い魔物が現れるようだ。
道中、俺たちは、現れた魔物と1対1で順番に倒していた。俺は剣による斬撃で、リンは双剣に毒を纏って、ホノカは太刀を使った居合で、コンゴウはその防御力、攻撃力任せで錫杖を振るって、スズカは鉄扇から放たれる法術で、それぞれ自分の得意なやり方で魔物を葬っていた。
リンやホノカは本来なら後衛になるが、ここでは積極的に魔物を狩っていた。
大体、1体づつ現れるが、1体1なら、俺たちの中で遅れをとるやつはいないので特に苦労することなく進んでいた。たまに複数の魔物が現れることもあるが、まったく問題がなかった。
やがて、7階層の階層主部屋の前までやってきた。
「ここまでは、異変らしきものは見当たらなかったな。」
「そうだな、このまま最下層までいって問題なければ、異常の原因は上になるだろうな」
どうやら、今のところは異変がないらしいな。俺達にはわからないから、そこの判断はホノカたちに任せるしかないのだが。
「そのまま、最下層まで行けばいいのだな。」
「そういうことになるな。まずはこの中層階層主を倒さないといけないが。」
「どんな、魔物なんだ?」
「炎牛鬼という魔物だが、炎を纏う牛頭の身の丈3mの巨人だ。」
「牛頭の巨人か。」
(あれを試してみるのにちょうどいいかもしれないな)
「ホノカ、こいつの相手は俺にやらせてもらえるか?」
「ラムルが一人でか?」
「そうだ。」
3mの巨人と聞いたことで試してみたいことがあった。それは、まだ数度しか使っていない機神・脚だ。腕と同時に召喚すればほぼ同じくらいのサイズになる。
「構わないが、一人だとかなり厳しいぞ。奴は、火を纏った戦斧が獲物なんだが、ガタイが大きいこともあって半端ない攻撃力だ。多少防御に自信があっても、防御ごと相手を粉砕するくらいだ。防御力も高いので、あれを倒すには、基本、攻撃を受けずにすきを狙って攻めるか、法術などの遠距離からの攻撃を繰り返すかになる。」
(完全なパワーファイタータイプだな。なおのこと都合がいいな)
「弱点のようなものはあるのか?」
「奴は、火属性だから、水や氷結の攻撃は通りやすいが、半端な攻撃力だと逆に無効になる。」
「わかった、ありがとう。ホノカ!」
近接重攻撃型で防御力が高い。弱点は水系。機神の腕と脚を召喚すれば、パワーの方は何とかなる。こっちは物理攻撃(光学兵器も物理)のみだから、弱点は気にしなくてもいい。防御はファランクスがあれば何とかなるだろう。
(光学兵器を使うつもりはないんだが)
「もし、危なくなったら、その時は、私たちも参戦するぞ。」
「ああ、そうしてくれ。」
ホノカの言葉に他の全員が頷く。どうやら、全員、俺が危機の時は参戦するようだ。
まあ、そんな状態にならないだろうが、絶対はないからな。万が一の時は任せよう。
「じゃあ、コンゴウ。扉を頼む。」
「ん、任せろ!」
俺の言葉に力強く返事をすると、コンゴウが階層主部屋の扉を開けると、扉の向こうに暗く広い部屋が見えてきた。
俺を先頭に部屋の中に全員が入ると扉が勝手に閉まり部屋が真っ暗になる。次の瞬間、壁に取り付けられた灯火台が部屋の奥から順番に明かりを灯し、やがて、すべての灯火台が灯って部屋全体を照らし出した。
部屋は直径100m程の円形で垂直な壁が10m程の高さがあり、その上にお椀をかぶせたようなドーム状の天井になっていた。そして、その奥にある演壇の様な所には巨大な牛頭の人型が石造のごとく佇んでいた。
しばらく、様子をみるが、全く動く様子がない。
「ラムル殿、あの赤い床石より向こうに行くと炎牛鬼が動き始め戦闘が始まる。あれを倒すか、我々が全滅するまでこの部屋の扉が開くことはない。」
「わかった。」
俺は、ホノカに返事をすると2m程先にある赤い床石に向かって行った。
赤い床石を越えたところで、炎牛鬼がホノカの言う通りに動き始めた。
「ブゴォォォォォ!!!」
演壇から降りた炎牛鬼は、2mはある大きな戦斧を掲げると雄たけびを上げ、こちらを威嚇してくる。
「やる気だな!!」
そう言うと、俺は間合いを詰めるべく、炎牛鬼に向かって走り出した。
「機神召喚!! 腕! 脚!」
俺が召喚を宣言すると走っていた俺の体が光とともに浮き上がり、肩に機神の腕、腰の横に脚が顕現する。
俺はそのまま機神の脚をつかって、炎牛鬼に迫る。正面から突っ込んでくる俺に対し、炎牛鬼は、戦斧に炎を纏わせて振り上げる。
真っ赤に灼熱した戦斧が俺に向かって振り下ろされる。俺はそれに合わせるように右腕を振り上げると、同調した機神の腕も同じように振り上げられる。
「あれ、なに、!?」
「なんだと!?」
「はあ!? ま、まて、正面からだと!?」
「やっちゃえ~、ラムル」
一直線に炎牛鬼に向かっていく機神を纏った俺を見て、四者四様の反応を見せる。
コンゴウとスズカは、機神の腕と脚が出現したことに驚き。
ホノカは機神への驚きとともに、正面から挑もうとする俺に「さっき言っただろう」的な反応をする。
リンは、俺の勝利を疑わず、応援するのみ。
「螺旋破壊拳ッ!!!」
俺の叫びと共に機神の拳に円錐状の局所防御光壁と爪が展開され、爪の出た前腕が激しく回転する。
「グモォォォォォォ!!!」
回転する機神の腕と振り下ろされた炎牛鬼の戦斧がぶつかり合い、力が均衡しお互いの動きが静止する。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「グフボォォォォォ!!!」
接触した部分で火花が飛び散る中、俺と炎牛鬼は、力による押し合いになっていた。どちらも引かず、お互い相手を制するため、力を振り絞る。
やがて、均衡が破れる。
「螺旋破昇拳ッ!!!」
俺は、一瞬、炎牛鬼の力が緩んだところへ左腕の螺旋破昇拳を繰り出した。下から突き上げられた回転する腕が炎牛鬼の顎をめがけて振りぬかれようとしたとき、炎牛鬼はわずかに姿勢を変え、回転する腕から頭を庇うように腕を引き込み、その腕に回転する腕が直撃する。
そのまま振りぬけば、炎牛鬼の腕を折っただろうが、その野生の感ゆえか、腕の力を抜き回転する腕の力を逃したが、力を抜いた手から戦斧が弾き飛ばされて宙を舞った。
戦斧が轟音を立て、床に落ちる。それと同時に戦斧の重量に床が耐え切れずに砕け、破片が周囲に飛び散った。




